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社会保険給付については元本充当すべきとの最高裁判決2

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平成22年 9月16日(木):初稿
○「社会保険給付については元本充当すべきとの最高裁判決1」を続けます。今回は後半の理由部分です。
原審東京高裁判断を覆し、「本件各保険給付及び本件各年金給付は,その制度の予定するところに従って,てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給され,又は支給されることが確定したものということができるから,そのてん補の対象となる損害は本件事故の日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当」としており、被害者側にとっては誠に残念な判断です。

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4 原審の上記3(1)の判断は正当として是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。

(1) 被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要がある(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)。

そして,被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労災保険法に基づく各種保険給付や公的年金制度に基づく各種年金給付を受けたときは,これらの社会保険給付は,それぞれの制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額をてん補するために支給されるものであるから,同給付については,てん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。

これを本件各保険給付についてみると,労働者が通勤(労災保険法7条1項2号の通勤をいう。)により負傷し,疾病にかかった場合において,療養給付は,治療費等の療養に要する費用をてん補するために,休業給付は,負傷又は疾病により労働することができないために受けることができない賃金をてん補するために,それぞれ支給されるものである。このような本件各保険給付の趣旨目的に照らせば,本件各保険給付については,これによるてん補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する関係にある治療費等の療養に要する費用又は休業損害の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり,これらに対する遅延損害金が発生しているとしてそれとの間で上記の調整を行うことは相当でない。

また,本件各年金給付は,労働者ないし被保険者が,負傷し,又は疾病にかかり,なおったときに障害が残った場合に,労働能力を喪失し,又はこれが制限されることによる逸失利益をてん補するために支給されるものである。このような本件各年金給付の趣旨目的に照らせば,本件各年金給付については,これによるてん補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する関係にある後遺障害による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり,これに対する遅延損害金が発生しているとしてそれとの間で上記の調整を行うことは相当でない。

(2) そして,不法行為による損害賠償債務は,不法行為の時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく遅滞に陥るものと解されるが(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),被害者が不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合においては,不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害につき,不確実,不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に,不法行為の時におけるその額を算定せざるを得ない。

その額の算定に当たっては,一般に,不法行為の時から損害が現実化する時までの間の中間利息が必ずしも厳密に控除されるわけではないこと,上記の場合に支給される労災保険法に基づく各種保険給付や公的年金制度に基づく各種年金給付は,それぞれの制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額をてん補するために,てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されていることなどを考慮すると,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,これらが支給され,又は支給されることが確定することにより,そのてん補の対象となる損害は不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが,公平の見地からみて相当というべきである。

前記事実関係によれば,本件各保険給付及び本件各年金給付は,その制度の予定するところに従って,てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給され,又は支給されることが確定したものということができるから,そのてん補の対象となる損害は本件事故の日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当である。

(3) 以上によれば,原審の上記3(1)の判断は正当として是認することができ,第1審原告の論旨は採用することができない。他方,原審の上記3(2)の判断には,法令の解釈を誤った違法があり,この違法は,判決に影響を及ぼすことが明らかであるから,第1審被告の論旨は理由がある。最高裁平成16年(受)第525号同年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事215号987頁は,事案を異にし,本件に適切でない。

5 以上のとおりであるから,第1審原告の上告を棄却することとし,また,前記認定事実並びに上記4(1)及び(2)に説示したところによれば,第1審原告の請求は,4226万9811円及びこれに対する自動車損害賠償責任保険契約に基づく損害賠償額の支払の日の翌日である平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容すべきであり,その余は理由がないから棄却すべきであって,原判決中,第1審被告敗訴部分のうち上記金額を超える部分は破棄を免れず,第1審被告の上告に基づき,これを主文第2項のとおり変更する。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白木 勇 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官金築誠志 裁判官 横田尤孝)
(別紙)
1 治療関係費 2132万6578円
2 付添看護関係費 74万2900円
3 装具等購入費 196万6363円
4 家屋改造費 325万0800円
5 火葬場使用料 5000円
6 休業損害 862万6819円
7 入通院慰謝料 350万円
8 逸失利益 3581万3146円
9 後遺障害慰謝料 2000万円
10 弁護士費用 350万円
(合計 9873万1606円)


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