平成22年 9月 7日(火):初稿 |
○「示談代行制度による交通事故示談契約と消費者契約法1」を続けます。 もう一度消費者契約法第1、2条を示します。 第1条(目的) この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。 第2条(定義) この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。 2 この法律(第43条第2項第2号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。 3 この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。 ○私が、示談代行契約に消費者契約法が適用されるべきと考える根拠は以下の通りです。 1.示談代行契約の当事者間の情報の質及び量並びに交渉力の格差 示談代行契約は、交通事故損害賠償実務について訓練された保険会社の示談代行員が、たまたま交通事故被害にあった一般人とその被害による損害賠償について、加害者側の立場で交渉して示談契約に至るもので、その当事者の実質は、個人と事業者であり、情報の質及び量並びに交渉力の格差があります。 2.加害者個人が示談の当事者ではないか 保険会社が示談代行して行う示談契約は、通常、加害者に対して請求しないことを文書で明示する免責証書形式で行い、この場合、被害者の損害賠償請求先は保険会社への直接請求であり、名実共に当事者は被害者個人と保険会社です。仮に形式上は加害者個人と被害者個人の示談契約となった場合でも、示談交渉を行うのは保険会社であり、損害賠償金を支払うのも保険会社であり,実質は保険会社が当事者です。 3.示談契約が消費契約といえるか 「消費者契約」と言うと、物を買う、サービスを受けるための対価支払を約束する等の何らかの消費を伴うもので、損害賠償について和解する示談契約が消費者契約といえるかという疑問があります。消費者契約法では、「この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。」しか規定されておらず、「契約」の種類に限定はありません。また消費者契約法は、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ」弱い不利な立場にある消費者の「消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」ものであり、交通事故示談契約も正に不利で弱い立場の被害者の利益の擁護をはかる必要がありますから、これを消費者契約法の対象とすることはその立法趣旨に適うものです。 示談契約は、損害賠償請求権と言う財産権を対価を受けて譲り渡す(放棄する)契約とも考えられますので対価を支払い物を買うサービスを受ける契約と本質的には変わりません。 4.交通事故示談契約での被害者利益擁護の必要性 また多くの交通事故示談契約は、保険会社示談代行員が、当該事例についての損害賠償金額について保険会社基準だけを説明し、適正損害額である裁判基準を説明しないままいわば「消費者(被害者)が誤認し、又は困惑し」たまま締結されているのが実態です。示談契約に消費者契約法が適用になれば、示談契約についても「事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができる」などの被害者利益擁護のための規制をかけることが出来ます。これによって「示談代行制度の究極の問題点である交通事故被害に見合った適切な損害賠償金が被害者に支払われていない実態」を少しでも是正することが可能になり、この是正の必要性は極めて大きいものです。 ○そこで別コンテンツで、交通事故示談契約に消費者契約法を適用させた場合の、具体策ー示談代行員に対する具体的行為規制方策ーを検討します。 以上:1,819文字
|