平成22年 3月25日(木):初稿 |
○交通事故損害賠償請求事件においては過失割合が深刻な争いになる例が多数あります。特に死亡事故や重篤な後遺障害が残る事案では、損害賠償額が数千万円から1億円以上になるため、過失割合が10%認められるかどうかによって数百万円から一千万円以上違ってくるからです。加害者側としては、損害賠償額を少なくするため被害者の過失をオーバーに強調して、被害者側過失が大きいと主張することは良くあることです。 ○平成21年9月11日名古屋地裁判決(判例時報2065号、101頁)では、交通事故加害者が、事故後、自己の過失責任を否定し、少なくとも5割は被害者に過失があると主張したことについて、正当な権利主張を逸脱したものとして死亡慰謝料の増額事由になると認定されました。交通事故後、被害者を救助せず逃亡したり、自分には責任がないと責任逃れの言動を取るなど不誠実な態度をとったことが慰謝料増額事由になると認定される例はあります。しかし本件では訴訟においても事故の過失を否定し或いは大幅な過失相殺の主張をすることが、正当な権利主張を逸脱したものとして慰謝料増額事由になるのは珍しい事案とされています。 ○事案は、80歳のA女が20m先に横断歩道があるのに横断歩道ではない場所で横断を開始し、丁字路から出て右折した加害車両に衝突して死亡したものですが、被告はAが、右折を開始していた被告車両を認めるべきであったにもかかわらず、横断歩道を使用せず右折方向出口付近の車道の安全確認を怠り小走りで横断しようと飛び出したために発生したもので、被告には過失がないか、あってもせいぜい5割しかない、即ち少なくとも5割は被害者Aの過失によって生じたものであると主張しました。 ○この主張に対し、裁判所は、丁字路から右折するに当たって左方だけを確認して,右方の確認を怠り、しかも左方の10m先に進行車両が迫っているため急いで進行しようと右方の確認を怠ったまま強引に右折を開始した無謀運転であり、通常の過失に比較しむしろ著しいと評価しました。但し、Aも、事故現場からそれぞれ20~25m以内に離れた位置に北側の横断歩道と南側の横断歩道があり、本件現場は道路交通法12条1項の「横断歩道のある場所の付近」に該当し、同法の定める横断方法に違反した過失があり、80歳の高齢であること,現場が民家や店の並ぶところであることからAにも5%の過失があると認定しました。 ○問題は慰謝料の認定で本判決は「本件訴訟の始まった時点においては、本件事故における被告の過失が大きく、過失相殺の5割になるなどということはあり得ないことを十分に認識していたというべきである。そうすると、上記のような本件訴訟における被告の主張は、正当な権利主張を逸脱したものというべきであり、正当な権利主張を逸脱したものというべきであり、慰謝料の増額事由に当たると解される。」と、訴訟前の主張ではなく、訴訟に至ってすら、被害者側の5割の過失を主張したこと自体を持って慰謝料増額事由としました。 ○このように言いながらその認定慰謝料は2200万円で余り高い認定とは言えませんが、訴訟自体での主張に注文をつけたもので、特に保険会社側で賠償額を低くするため、なんでもありと評価されるような驚くべき主張をした場合、その主張の仕方自体を持って慰謝料増額事由と主張することも意義があるかもしれません。 以上:1,389文字
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