平成18年11月 3日(金):初稿 |
○「保険会社示談代行員による免責証書での示談契約」で、示談代行員が「折衝と示談」を行う場合、SAP約款第6条の「損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対し書面で約束」する免責証書によって示談契約を締結する旨説明しました。 ○この被保険者に対する損害賠償請求権不行使約束書面提出によって保険会社への直接請求を可能にする約款の存在意義は、「被保険者が保険会社による示談代行に同意せず、その上被害者との交渉にも応じない場合等にそなえたものである」(2005年版自家用自動車総合保険の解説[SAP]45頁)と説明されています。 ○この解説によれば例えば加害者と被害者の過失割合について、加害者は加害者1・被害者9、被害者は逆に加害者9・被害者1と争いがあって、最終的に示談代行保険会社が加害者7・被害者3として示談を締結したいと考えた場合、加害者に対する損害賠償請求権不行使約束書面である免責証書によれば保険会社があくまで自分の過失割合は1とこだわる加害者の意向を無視して加害者7・被害者3とする示談契約を締結して保険金を支払うことが出来ることになります。 ○私が10数年前に4年間交通事故紛争処理センターの嘱託弁護士をしていたとき、このような事例が数例ありましたが、保険会社は自分のお客様である加害者(被保険者)を説得して最終的にはその了解を得て示談契約を締結しており、最後まで加害者の同意を得られなかった例が2件あり、これは示談締結には至りませんでした。保険会社としてはやはりお客様の意向を無視しての示談は出来ず、結局、被害者には訴訟手続を勧めました。 ○示談代行制度の大原則はあくまで保険会社に直接請求出来ること即ち保険会社は直接被害者に支払義務があることを認めることですので、保険会社が加害者に支払義務があると判断すれば加害者の意向を無視しても支払義務を履行させるのが交通事故事件の迅速解決の要請にかなうものです。 ○しかし実務では保険会社とお客様である加害者(被保険者)との関係から、例え損害賠償金は保険会社が支払うものであり加害者自身には何ら実損がないとしても、加害者の明示の意思を無視しての示談契約締結と保険金支払は出来ないように思えます。 ○交通事故実務では上記のような例はレアケースであり、通常は、加害者が事故による損害賠償金支払義務を認め、出来る限り多くの保険金を支払って貰いたいと希望しても保険会社が出来る限り支払金を少なくするために抵抗する例が圧倒的です。この場合私は加害者本人ではなく保険会社に直接請求すべきと考えております。 以上:1,078文字
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