平成18年 8月 1日(火):初稿 |
○交通事故による損害賠償請求について、保険会社による被保険者(加害者)のための示談代行制度が弁護士法72条に違反しないと認められる根拠は、保険会社が被保険者に対し、交通事故被害者が直接保険会社に対し、保険金支払請求を認め、保険契約の限度額の保険金を損害賠償金として支払うことを約束したからです。 ○従って、保険契約の対人賠償の約款には、「『損害賠償請求権者(被害者)が、当会社と直接、折衝することに同意しない場合』には『当会社の費用により、被保険者の同意を得て、被保険者のために、折衝、示談または調停もしくは訴訟の手続(弁護士費用を含みます。)を行います。』との規定は適用しません」と明示されています。 ○保険会社の交通事故被害者との示談代行が出来るのは、被害者の保険会社への直接折衝-請求があることが大前提ですが、実務ではこの大前提を確認することなく、無視して保険会社は当然被害者と交渉できる如くに運用されており、これが大きな問題であることは繰り返し、述べてきたとおりです。 ○では、示談代行について、被保険者(加害者)の同意は必要かというと、原則必要であり、約款第5条に「①被保険者が対人事故にかかわる損害賠償の請求を受けた場合、または当会社が損害賠償請求権者から次条の規定に基づく損害賠償額の支払の請求を受けた場合は、当会社は、(中略)、『被保険者の同意を得て』被保険者のために、折衝、示談または調停もしくは訴訟の手続(弁護士の専任を含みます)を行います。」と規定されています。 ○但し、保険会社示談代行員が出来るのは、「折衝と示談」に限られ、「調停と訴訟」は、弁護士が被保険者から調停または訴訟についての委任状を受け取り、被保険者の代理人として行うものであり、正確には示談代行ではありません。 ○示談代行員が「折衝と示談」を行う場合、約款第6条の「②当会社は、次の各号のいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対して事項に定める損害賠償額を支払います。(中略)(3)損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対し書面で約束した場合」の書面として免責証書を損害賠償請求権者に書かせて損害賠償金を支払います。 ○この免責証書は、被害者(損害賠償請求権者)が一方的に加害者(被保険者)と保険会社宛に金○○円を受領することにより、加害者に対する請求を放棄することを宣言して署名押印するものであり、加害者や保険会社の署名・記名押印はなされません。 ○この免責証書による被害者の加害者に対する請求権放棄と言う形式での示談には、加害者(被保険者)の同意は不要であり、加害者が反対しても、被害者の直接請求権が発生して、保険会社は被害者に損害賠償金を支払うことが出来ると自家用自動車総合保険の解説等で説明されております。しかし、実務では、加害者の明示の反対を無視してこの免責証書による示談を強行する例は少なく、4年間の交通事故紛争処理センター嘱託弁護士時代の私の経験では全くありませんでした。 以上:1,243文字
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