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2020年09月16日発行第277号”弁護士の三部作”

令和 2年 9月17日(木):初稿
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの令和2年9月16日発行第277号「弁護士の三部作」をお届けします。

○プロジェクターでの120インチ大画面を楽しんでいた時代にオペラのLDを何枚か購入しました。しかし、最後まで通して鑑賞したものは殆どなかったように記憶しています。眠くなる前に止めてしまいます。大山ニュースレターにはオペラの話しがよく出てきますが、小説といい、音楽といい、大山先生の幅広い趣味・教養にはいつも感心します。

○弁護士の人生の三部作は耳に痛いところです。私の場合、道を踏み外してしまう第三部にだけはならないよう精進を続けます(^^;)。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

弁護士の三部作


三部作ってありますよね。漱石の「三四郎」「それから」「門」みたいな感じです。それぞれの本も面白いんですが、三部かけて人間関係が発展していくところが好きなんです。例えば、アンドレ・ジッドの「女の学校」三部作なんて良いです。主人公の女性が、夫に対して厳しい視線を向ける話です。この夫は、確かに見栄っ張りです。使用している整理箱について、「凄い工夫だ。よく思いついたね」と褒められると、「買ったものです」と正直に答えられない。「私が発見しました」なんて言う。奥さんが愛好している無名の画家の作品を、それまでは無視していたくせに、画家が有名になると、昔からの美術愛好家のようにふるまう。こういう夫を、奥さんの視点で、厳しく断罪するのが第一部です。

もっとも、弁護士として離婚訴訟等やっていると、「この程度の旦那さん、まだいい方なんじゃないの?」と思ってしまいます。そして第二部は、この夫の視点で書かれた小説です。妻が自分を軽蔑していることに気が付いており、本当の自分ではなく、理想の自分を探して失望しているのだなんて批判をするんです。離婚訴訟などでも、一方の言い分だけを聞くと、「相手は鬼畜か!」なんて思いますが、相手の方にもそれなりの言い分があるのが通常です。そして第三部では、二人の間にできた娘の視点で、話しが続きます。原告の主張、被告の反論の後に、第三者たる裁判官の判断が来るみたいで面白い。「女の学校」は、志賀直哉大先生の推薦図書だそうですが、いろいろと考えさせられます。

オペラの世界ですと、「フィガロ三部作」というのがあります。一作目が、「セビリアの理髪師」です。意に染まぬ結婚をさせられそうなヒロインを、若き好男子の伯爵が、従者フィガロの助けを借りて助け出すというお話です。このヒロインも、ただ助けられるだけのお姫様じゃなくて、気が強い人です。「私は従順で優しく愛情深い人間だけど、敵に対しては毒蛇になって懲らしめてやる」なんてオペラの中で歌います。無事に結婚したヒロインと伯爵の、その後が書かれたのが第二部の「フィガロの結婚」です。いうまでもなく、モーツアルトが曲を付けています。ここでの伯爵は、若い正義感だった第一部とは違い、かつての盟友フィガロの結婚相手に言い寄る、女好きの困った人になっています。それでいて、伯爵夫人になったヒロインに、小姓の男の子が思いを寄せるのに嫉妬したりします。最後には、伯爵が反省し、伯爵夫人が許して、オペラは大団円を迎えるんですが、現実の世界ではそううまくいかないですね。はっきり言いまして、女癖の悪い人は、まず直りませんね。奥さんの方も、「自分の敵は毒蛇となってやっつける」という人ですから、悲劇は目に見えているのです。

ということで、第三部の「罪ある母」に続くのです。女癖の悪い夫に愛想をつかした妻が、自分に思いを寄せる小姓と関係を持ち、その子供を産むという話です。こうなってきますと、弁護士案件です!現代なら、DNA鑑定、嫡出否認の訴え、離婚訴訟、慰謝料請求訴訟とフルコースが来そうです。第一部を見て、若き伯爵とヒロインの恋愛を応援していた人には、非常に残念な結果です。逆に、第三部しか見ていない人にとっては、第一部の二人を想像するのは難しいように思えます。弁護士が「主人公」と知り合うのは、基本的に「第三部」に入ってからです。「第三部では残念なこの人も、第一部では凄い人だったんだろうな」と思うのです。

考えてみますと、弁護士の人生でも三部作はあります。「人々の役に立ちたい!」と弁護士を目指す第一部、弁護士の特権を当たり前と思うようになる第二部、道を踏み外してしまう第三部。こんな「弁護士三部作」本当によくあるんです。第一部で持っていた、熱い思いを忘れないようにしたいものです。

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◇ 弁護士より一言
オペラに行くたびに寝てしまうんです。「高いお金出して、爆睡するなんてムダよね」という、妻の苦情を聞いた娘が言いました。「パパは、良質な眠りを買ってるんだからムダじゃないと思うよ。」
弁護してくれたのは嬉しいけど、し、失礼な。。。
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