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2018年03月16日発行第217号”弁護士の弟子”

平成30年 3月16日(金):初稿
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの平成30年3月16日発行第217号「弁護士の弟子」をお届けします。

○中島敦と言えば高校の教科書にも掲載されている「山月記」ですが、教科書に掲載されている小説くらいしか読まない私は、中島敦の「弟子」は読んでいませんでした。早速、青空文庫で探してみると「魯の卞の游侠の徒、仲由、字は子路という者が、近頃賢者の噂も高い学匠・陬人孔丘を辱かしめてくれようものと思い立った。似而非賢者何程のことやあらんと、蓬頭突鬢・垂冠・短後の衣という服装いでたちで、左手に雄※(「奚+隹」、第3水準1-93-66)、右手に牡豚を引提げ、勢猛もうに、孔丘が家を指して出掛ける。」なんて流麗な漢文調で始まっています。

○「依頼者であるお客様に対して、どこまで強く意見するかについては、本当に悩みます。」は、弁護士稼業に付き物の悩みですね。お客様のことを考えすぎて「強く意見」した結果、「弁護士に無理矢理和解させられた」なんて言われる案件も日常茶飯事にあります。

○20数年前ですが、私自身「小松弁護士に無理矢理和解させられた」と当時できたばかりの市民苦情窓口に訴えられたことがあります(^^;)。その時の経験を「紛争解決の究極は人の心」と気障な表題でまとめています。私は、今は、「決めるのはご本人です。納得出来ないなら和解すべきでありません。」と繰り返しています。但し、「不本意な判決が出ても後悔しないようじっくり考えて下さい」とも付け加えます(^^)。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

弁護士の弟子


今回は、「魔法使いの弟子」かなと思った方、ハズレです。(なんだそりゃ。。。)中島敦の「弟子」です。

孔子と、その弟子の子路を書いた小説です。孔子は言うまでもなく「論語」の大先生ですね。苦労人で、人情の機微を知る、本当に偉い人です。例えば論語には、「お金持ちになっても威張らないのは難しくない。貧しいのに卑屈にならないのは難しい。」なんて言葉があります。私自身の経験から考えても、これって本当に真実だと思うんですね。人はどうしてもお金が無くなると、卑屈になってしまうのです。

そんな孔子先生が、弟子の子路を評して言います。「ぼろぼろの服を着て、お金持ちの隣にいて堂々としていられる男だ!」私も、こんな風に褒めてもらえたら感動しちゃいます。「弟子」に出てくる子路は、とても男気のある魅力的な人なんです。

はじめは、世間的に評判の良い孔子の正体を暴いてやるということで、孔子のもとにやって来ます。ところが、話してみて、孔子が本当にすごい人間だと分かり、すぐに弟子入りします。子路の見る孔子は、高い理想を持ちながら、人情の機微もわかり、さらに子路が自信を持っている武芸でも、子路より優れているスーパーマンなんです。

孔子のもとに集まる弟子の多くは、弟子になれば士官等、何かいいことがあるから来ているわけです。ところが子路の場合は、孔子に心底惚れ込んで、損得抜きに一生付いていくんです。孔子の悪口を聞くと、言ってる人を睨みつけます。「子路が弟子になってから、自分の悪口を聞かなくなった。」なんて、孔子が慨嘆するんです。これなんて本当にうらやましい。私は、これまでにも正しいと信じる発言をして、ネット等でさんざん叩かれてきました。子路みたいな弟子がうちの事務所にも居たらと思っちゃいます。(おいおい!)

ところが、そんな子路でも、ここだけは孔子について納得できないというところがあります。孔子は達人といいましょうか、全てについてあっさりしているんです。反乱が起きたようなときには、孔子は一言諫めに行きます。当然反乱者は孔子の言う事など聞きません。それに対して孔子は「駄目だと分かっていたが、立場上諫めざるを得なかった。」なんて言うわけです。これに対して子路は、「もっと死ぬ気で止めないのか!」と不満を覚えます。一方孔子は、そんな子路の生き方を、危ういものとみて心配するんです。

小説の最後で、当時子路が仕えていた国で反乱が起きます。他の者は逃げ出す中、最後まで筋を通そうとした子路は殺されてしまいます。反乱が起きたという知らせを受けただけで、「子路は戻らないだろう。」と言って、年老いた孔子が泣く場面が、この小説のクライマックスです。私も、本当に感動したものです。

私の場合も、依頼者であるお客様に対して、どこまで強く意見するかについては、本当に悩みます。たとえば、訴訟になるかどうかのぎりぎりの交渉案件の場合です。「この事案ならこの辺で和解したほうが絶対に良い。」なんてことはよくあるのです。ところがお客様は、なかなか納得してくれません。このままいけば、十中八九悪い方に行きそうという場面です。私は、無駄かと思っても一度は依頼者に意見しますが、容れられない場合はお客様の考えを尊重します。「孔子方式」というわけです。しかし、それで結果的にうまくいかなかったときなど、後から「子路のように、もっと強く反対すべきだったか?」なんて悩みます。

それはそれで、お客様の考えを無視することになりますし、難しい問題と感じているのです。

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◇ 弁護士より一言

うちの息子はとても臆病です。親と一緒でも、知らない道や繁華街のような道を歩くのを嫌がります。殺人鬼がやって来るくらいに思っていそうですね。
先日も、息子と二人で街を歩いていて、細い路地の方に行くと、本気で止めてきました。「パパ、僕がいなかったら、今頃死んでるよ!」なんて言います。パパは、お前が生まれる40年以上前から元気に生きているんだよと、心の中で思ったのでした。
以上:2,416文字

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