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2012年8月1日発行第82号”喧嘩太郎の条件・弁護士の条件”

平成24年 8月 1日(水):初稿
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの平成24年8月1日発行第82号「喧嘩太郎の条件・弁護士の条件」をお届けします。

○喧嘩太郎こと武見太郎元日本医師会会長のことは、私自身、中学、高校生の頃から、兎に角、凄い人物だとのイメージで記憶にあり、左の写真のお顔も記憶しています。当時、よくテレビや新聞に掲載されていたと思われます。「武見太郎伝説 - 新小児科医のつぶやき」を見ると、武見太郎氏は、昭和32(1957)年に53歳で日本医師会会長に就任し、昭和57年77歳で引退するまで25年の長きに渡って日本医師会会長として君臨しています。私が6歳から31歳までの25年間で、当時は、日本医師会と言えば武見太郎氏と思われていました。

○昭和36年当時の、日本医師会「保険医総辞退」騒動も、当時は勿論その意味が良く判りませんでしたが、テレビや新聞で大騒ぎしていた記憶もかすかにあります。しかし、田中角栄氏と武見太郎氏の遣り取りは、自称田中角栄ファンで田中本の殆どを集めていると言っているのに、サッパリ記憶にありませんでした(^^;)。おそらく田中本のどこかに記載しているのを読んだはずなのに忘れてしまったと思われます。

○このエピソードを田中角栄氏側から解説した「健保問題解決」と言うサイトに武見太郎氏の田中角栄評として、
「あいつは若いが、信頼できるよ。馬鹿の一つ覚えのようなやり方は、決してしない男だ」、「あいつは、どんな状況にも、戦法を変えて応じてくる。どんな相手に対しても、必ず自分の言うことを納得させるという、天分を持っているよ」
と言ったことが紹介されています。この「どんな状況にも、戦法を変えて応じてくる」との臨機応変な柔軟性は、紛争のまっただ中に入って、その解決を使命とする弁護士の職責に必要な資質としても極めて重要です。「どんな状況にも、戦法を変えて応じられる」よう精進を続けたいと思っております。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

喧嘩太郎の条件・弁護士の条件

「喧嘩太郎」というのは、かつての日本医師会会長、武見太郎のあだ名ですね。私が生まれたころ(50年ほど前です!)に活躍した、有名な先生です。当時、7 万人ものお医者様を有した日本医師会を代表して、政府とやり合った傑物です。自分たちの要求を通すために、全国のお医者さんの一斉休診(事実上のストライキですね)を実施した人です。「ストライキの日に風邪をひいた者は、誰に診てもらうんですか!」なんて聞かれて、「こんなときに風邪をひく方がまちがっている」と名言?を残したことでも有名な人です。

この武見先生ですが、健康保険の医療費値上げを政府に要求したんですね。認めなければ、8月1日をもって、全ての医者は健康保険制度を辞退する!」と政府を脅したわけです。時の政府・自民党も、この対応に大変苦しんでいたのですが、このとき登場したのが、若き日の田中角栄です。当時、40歳程度だったはずですから、今の私より相当若かったんです。角栄は、見事にこの難局を納めて見せました。

保険医総辞退の期限は8月1日。その1日前である7月31日に、角栄は1枚の紙を喧嘩太郎に渡します。
その紙には、「右により総辞退は行わない。」とだけ書かれていたわけです。角栄は、「ここに思うとおりの要求を書き込んでください。」と、条件一切を喧嘩太郎に委ねたわけです。これを受けて、喧嘩太郎も、保険医の総辞退を取りやめたわけですね。

私がこの話を知ったのは、随分前のことですが、本当に感動しました。自分もいつかは、こんなカッコイイことをしてみたいと、ひそかに考えていたのです。弁護士の場合、交渉は非常に大切です。例えば、刑事事件で、被害者の人を説得して、告訴を取り下げて貰う必要が有ります。労働事件で、労働者側を説得して、会社を辞めて貰う場合もあります。

こういうときに、相手方に対して、「右により告訴を取り下げる」とか、「右により解雇を承認する」とだけ書かれた紙を渡して、「ここに思うとおりの要求を書き込んでください!」なんて言えたら、凄くカッコイイな、なんてバカなことを考えてしまうのです。

しかし、本当にこんなことしたら、やっぱり心配ですよね。条件として「解決金1億円を支払うこと」なんて書かれちゃったら、目もあてられませんから。ちなみに、下駄を預けられた喧嘩太郎の条件は、「医療保険制度の抜本的改正」、「医師と患者の人間関係に基づく自由の確保」などといった、格調高いものだったということです。

現在、医師会ならぬ弁護士会では、弁護士増員に反対しています。法的需要が増えないなか、弁護士数は増えています。それによって、新人弁護士の就職難や、既存弁護士の収入減少が生じているためです。

いま田中角栄が出てきて、弁護士会に対し、「右により、弁護士増員に反対しない」とだけ書かれた白紙を渡したらどうなるだろう、なんて考えてしまいます。喧嘩太郎を見習って、「人権擁護の徹底」「法曹養成制度の充実」などと、格調高く書けるんでしょうか?

なんだか、「新人弁護士の100%就職の実現」とか、「既存弁護士の最低収入の保証」なんて、露骨な条件をつけてきそうで心配になったのでした!


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◇ 弁護士より一言

武見太郎先生は、なかなかの毒舌家で、多くの名言を残しているようです。日本のお医者様のレベルについて、こんな評価をしているんですね。

「3分の1は学問的にも倫理的にも極めて高い集団、3分の1はまったくのノンポリ、そして残りの3分の1は、欲張り村の村長さんだ。」

「欲張り村の村長さん」には、思わず笑ってしまいました。しかし考えてみると弁護士も似たようなものかもしれません。私も、「学問的にも倫理的にも極めて高い弁護士」は無理でも、せめて、「欲張り村の村長さん」と言われないように、気をつけたいと思ったのでした!

引き続き、コメントを楽しみにしております。
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