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2012年7月1日発行第80号”ピント弁護士のコスト計算(1)”

平成24年 7月 1日(日):初稿
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの平成24年7月1日発行第80号「ピント弁護士のコスト計算(1)」をお届けします。
7月1日と聞いて、平成24年も、もう、上半期終了したことに気づきました。早いものです。平成23年上半期は、3月11日発生東日本大震災の影響で、事件らしい事件が入らなくなり、上半期売上は悲惨な状況となり、2ヶ月分と決めている事務職員に対する上半期賞与の支払も猶予して貰う状況でした。このままでは売上が前年比半減すると悲壮感漂う状況でした。その後も弁護士業界全般傾向の多重債務整理事件激減等も相俟って売上は低迷しましたが、1ヶ月遅れで上半期賞与も出し、12月には最低2ヶ月分以上と決めている下半期賞与○ヶ月分を何とか出すことが出来ました。

○平成24年上半期実績は、悲惨だった平成23年上半期に比較すればズッと良くなってはいますが、最盛期に比較すると○割減です。しかし、昨今の弁護士不況からすれば恵まれているかもしれません。兎に角、依頼された事件は、大小問わず、丁寧に誠実に取り組むとの姿勢で臨み,お客様の信頼を勝ち得るしかありません。

○大山先生の「ピント弁護士のコスト計算(1)」ですが、ここに記載されたようなリスクとの関係での大規模なコスト計算ではなく、また、ここで大山先生がテーマにしているコスト計算とは、ちと、趣旨が異なりますが、弁護士は日常的にお客様にコスト計算を示しています。それは目的達成の利益と弁護士費用とのコスト計算です。たとえば損害賠償請求で、30万円は請求したいところ、相手が20万円なら支払うと言っている、さて、手間暇と弁護士費用をかけて30万円請求するのと、すぐに20万円貰うのにどちらが得かと言うコスト計算です。弁護士費用が10万円以上かかるなら後者が得に決まっており、弁護士に依頼はせず20万円で諦めるのが普通でした。

○弁護士の側もこれまでの殿様商売の時代には、10万円の費用でどれだけ弁護士労力がかかるか考え、弁護士労力に10万円が見合わないと思えば事件を受任しない例が多くありました。私が弁護士になって20年目くらいまでは、仙台弁護士会の中でも、着手金50万円以下の事件は受けないと噂される弁護士も居ました。しかし、平成24年現在、このような殿様商売が出来る弁護士が残っているかどうかは判りません。逆に、コストを無視した手弁当での持ち出しで事件を受任する例も多くありましたが、これも殿様商売が出来る時代だからこそ出来たもので、今の時代どれだけコスト無視の事件受任があるかは判りません。

さて、以下の人命無視のコスト判断をアドバイスしたのが弁護士だとすれば、その弁護士に何らかの責任は生じないものでしょうか。
弁護士としては如何なるアドバイスをすべきか,次回の展開が楽しみです。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

ピント弁護士のコスト計算(1)

「ピント」というのは、1970年に販売された、フォードの小型自動車です。人が死ぬ事故を起こした欠陥車ということで、アメリカで裁判になりました。(映画にもなった有名な事件ですから、ご存知の方も多いかもしれません。)

1970年と言いますと、安い日本車がアメリカに出回り始めたころですね。そういう車に対抗するため、フォードは開発期間を一般の車の開発期間の半分程度で、ピントを開発したわけです。ところが、開発が終わった後に、ピントには大変な欠陥が有ると判明したわけです。ガソリンタンクとバンパーが非常に近い上に、バンパーの強度も不足しているので、追突事故を起こすと、ガソリンに引火して、大参事になるんですね。

フォードは、欠陥対策に掛かるコストと事故発生時に被害者に支払う賠償金額とを比較し、会社にとって一番合理的な解決策を選択することにしました。

フォードの計算によると、改修費用は1億3000万ドル程度かかると計算できたんです。当時の日本円で400億円程でしょうか。これが、欠陥を直した場合のコストです。

これに対して、欠陥をそのままにしておいた場合のコストも計算できますよね。ピント車が大体何台程度販売できるのかは予測できます。そのうち何台程度が、衝突事故を起こすのかも、これまでの自動車事故の統計を用いれば計算可能です。それぞれの事故によって、大体何人が死亡し、何人がけがをするのかも予測の範囲内ですね。このような計算を行ったところ、フォードの計算では、欠陥を放置することで、180名程度が死亡し、180名程度が火傷すると出たわけです。そして、被害者数に、それぞれの被害者に支払う賠償金額を掛けあせて計算すると、欠陥を直さない場合のコストは、5000万ドル程度で済むと計算できました。当時の日本円で150億円程度でしょうか。そこで、コスト計算した結果、欠陥をそのまま放置することにしたわけです。

そんな中で、現実にピントの衝突事故がおきました。車が炎上し、運転していた男性が死亡、同乗者の13歳の少年が大火傷を負ったんですね。この事故の損害賠償の裁判は、陪審制度で行われたんですが、その中でフォードが欠陥を知りながら、コスト計算の結果に基づいて、欠陥を放置したがばれてしまったわけです。お金の損得を考えて、人命を軽んじたのはけしからんということで、フォードには約1億3000万ドルの賠償が命じられたわけです。改修費用と同額は、フォードに支払わせろということです。

本件において、フォードの対応がけしからんことには疑問の余地が無いですよね。人の命を何だと思っているのかと、腹が立ちます。
その一方、フォードの行ったコスト計算という手法自体は、使い方さえ間違えなければ、なかなか役に立つのではないかと思ったのです。日本の多くの弁護士は、何か法的リスクがあると、それだけで「絶対にダメだ!」という傾向が有るように感じています。そうではなくて、リスクから生じるコストと、リスク対応のコストを比較して、対応を判断する必要もあるのではということです。というわけで、次回に続けます。

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◇ 弁護士より一言

毎回ニュースレターを作ると、まずは妻に読んでもらうことにしています。法律の素人である妻に確認して貰って、「分かりにくい」「面白くない」などと言われたところは直していくわけですね。

今回も本文を妻に見せたところ、なかなか合格を貰えなかったので、何度も何度も書き直したんです。

最後に妻が、しみじみと言いました。
「このニュースレター、『弁護士より一言』以外を読む人、いったい何人いるんだろうね?」

今さらそんなこと言うなんて、あんまりです。ううう。
引き続きコメントを楽しみにしております。
以上:2,855文字

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