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トランスジェンダー女性おっさん呼ばわりに慰謝料を認めた地裁判決紹介

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令和 7年 9月27日(土):初稿
○いわゆるトランスジェンダー当事者であり、性同一性障害特例法に基づく性別変更の審判により、法律上の性別を男性から女性に変更した市議会議員である原告が、同じく市議会議員である被告が懇親会で、特に何らかの脈絡があるわけでもないのに、以前、原告がパソコンのキーボードを操作していた際につまようじを使用していたこと等を取り上げて、「おっさんやないか。」、「おっさんだがや。」等大声で何度も繰り返し、名誉感情を侵害したとして慰謝料等150万円の支払を求めて提訴しました。

○被告議員は、懇親会では「おっさんやないか」とは言っていないが、他の機会に原告が聞こえるように「おっさんがいる」等と言った事実は認め、懇親会での言動は不法行為に該当しないと答弁しました。

○これに対し、被告が行った言動は、社会的に許容し得る限度を超える侮辱に当たるものといわざるを得ず、原告の名誉感情を違法に侵害するものといえ、被告の言動が懇親会の席でのいわば軽口としてされたものであったとしても、被告には少なくとも過失があったといえるから、被告が行った当該言動は、原告に対する不法行為に該当するというべきであるが、他方、被告の発言の内容が原告の非違行為をとがめるようなものではないこと等からすると、当該言動が原告の社会的評価を低下させるものということはできないとして、慰謝料等17万円の支払を命じた令和7年6月25日名古屋地裁判決(裁判所ウェブサイト)関連部分を紹介します。

○原告トランスジェンダー女性議員は、その旨を公表して議員活動をしてましたが、その女性にわざわざ「おっさん」呼ばわりするのは、トランスジェンダーの存在に偏見を持ち、嫌がらせをしたとしか思えません。その嫌がらせに対するお灸を据えるのが慰謝料ですが、150万円の請求に対し、認めた金額は僅か15万円で、これはお灸としては軽すぎると感じるのは私だけでしょうか。

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主   文
1 被告は、原告に対し、17万円及びこれに対する令和6年1月19日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、150万円及びこれに対する令和6年1月19日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、いわゆるトランスジェンダー当事者であり、市議会議員である原告が、同じく市議会議員である被告による懇親会での言動により社会的評価又は名誉感情を侵害されたと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求める事案である(附帯請求は、不法行為の日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。)。

1 前提事実(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)
(1)原告は、α市の市議会議員であり、令和5年4月に行われた市議会議員選挙で初当選し、令和6年1月当時、「C」という会派に属して活動していたが、その後、同会派を離脱した。
 原告(昭和29年生まれ)は、出生時の性別は男性であったが、性同一性障害との診断に基づいて、令和3年に性別適合手術を受けるなどし、その後、性同一性障害特例法に基づく性別変更の審判により、法律上の性別を女性に変更した。原告は、遅くとも上記市議会議員選挙以降、トランスジェンダー当事者であることを公にして活動している。(甲5、弁論の全趣旨)

(2)被告は、α市の市議会議員の男性であり、原告が属していた「C」という会派に属しており、令和6年1月当時、α市の市議会の議長を務めていた。

(3)令和6年1月19日夜、α市の市議会の議会報の作成委員を務める議員らを中心とする懇親会(以下「本件懇親会」という。)が行われた。本件懇親会の出席者は、原告を含む一般の市議会議員が8名、被告を含む議長及び副議長の役職にある市議会議員が2名、事務局の職員が5名の計15名程度であった。

2 争点
(1)争点(1)(本件懇親会における被告の言動が原告に対する不法行為に該当するか)

[原告の主張]
ア 被告は、本件懇親会の場において、原告に対し、特に何らかの脈絡があるわけでもないのに、以前、原告がパソコンのキーボードを操作していた際につまようじを使用していたこと等を取り上げて、「おっさんやないか。」、「おっさんだがや。」などと言い、また、「会派のみんなもそう思っている。」、「そのうち一人は強く同意している。」などと言い出し、周囲の出席者にも聞こえるような大きな声で何度も繰り返した。

イ 前記アの行為は、女性である原告を、同僚や関係者らの面前において、殊更に男性扱いして嘲笑し、侮辱するものであって、社会的に許容し得る限度を超えた著しい侮辱に当たり、原告の社会的評価又は名誉感情を違法に侵害するものであるから、不法行為に該当する。

[被告の主張]
ア 原告の主張アは否認する。
 本件懇親会における被告の言動は、次のようなものであり、「おっさんやないか。」、「おっさんだがや。」とは言っていない。
(ア)被告は、原告以外の市議会議員が近くにいて、原告も視野に入った位置関係にあった時、上記の議員に向かって、原告のことについて、「今日、つまようじをくわえながらパソコンを打っている姿が面白かった。おっさんがいると思った。」と言った。

(イ)その後、被告は、同じ場所にやってきた事務局の職員2名に対して、原告のことについて、「今日、昼間この先生がつまようじをくわえながらパソコンを打っている姿を見たがおっさんみたいで面白かったよ。」と言った。

(ウ)更にしばらくした後、被告は、別の市議会議員に対しても、「A先生が昼間くわえようじでパソコンを打っていたがあれを見たときおっさんがいると思ったよ。」と言い、また、「会派の中にも同調している人がいますよ。」と言った。

(エ)被告が「会派の中にも同調している人がいますよ。」と言ったとき、原告は、初めて「どういう意味ですか。」と言い、「くわえようじは精神安定のためです。」と言った。被告は、それを聞いて、原告が気分を害していると知り、それ以上、前記(ア)~(ウ)のような話をするのをやめた。

イ 本件懇親会における被告の言動は、次の理由から、不法行為に該当しない。
(ア)本件懇親会における被告の言動との関係で、原告について法的に保護されるべき被侵害権利又は被侵害利益がない。
(イ)本件懇親会における被告の言動は、原告の権利を侵害するものでなく、違法性もない。
(ウ)被告には、原告の社会的評価又は名誉感情を侵害することについて故意又は過失もない。

(2)争点(2)(損害の有無、損害額等)

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件懇親会における被告の言動が原告に対する不法行為に該当するか)について
(1)本件懇親会における被告の言動

 被告は、本件懇親会における被告の言動に係る原告の主張を否認するが、この点に関する被告の主張をみると、以下のア~エの事実は、争いがないものということができ、原告の主張との実質的な相違はない。

ア 被告が、原告がパソコンのキーボードを操作していた際につまようじを使用していたこと等を取上げて、原告が、「おっさん」である、又は「おっさん」のようであるとの発言をしたこと
イ 被告が、原告及び被告が所属していた会派の議員にも同様に思っている者がいるとの発言をしたこと
ウ 被告が、これらの発言を、複数回にわたり、複数の者に対して行ったこと

エ 原告が、被告によるこれらの発言が聞こえる場所におり、被告が、そのことを認識していたこと

(2)被告の言動の不法行為該当性
 被告が行った前記(1)の言動は、女性である原告を中高年の男性のようであると指摘するものである上、それにとどまらず、「おっさん」という語を用いていたことからすれば、発言を聞いた一般人において、トランスジェンダー当事者である原告を揶揄するものと受け止めるものであったといえる。トランスジェンダー当事者である原告が「おっさん」という語により揶揄されること自体、原告の名誉感情を損なうものであるといえる。

 そして、前提事実、証拠(甲5、乙4、5、14)及び弁論の全趣旨によれば、本件懇親会は、ホテルにあるレストランの個室で行われた飲酒を伴うものであり、市議会議員らを中心とする15名程度の出席者が自席を離れて談笑する中で、前記(1)の言動があったと認められる。これらの事実に加え、前記(1)のとおり、被告が複数回にわたり複数の者に対して同アの発言を行い、その際、同じ会派の議員の中に同様の印象を持っている議員が他にもいる旨の発言までも行ったことがあったこと、原告にも被告の発言が聞こえる状況であったことからすると、原告は、被告が行った前記(1)の言動により、少なくない人数が聞く前で、「おっさん」という語により揶揄され、多大な不快感を抱いたものと認められる。

 そうすると、被告が行った前記(1)の言動は、社会的に許容し得る限度を超える侮辱に当たるものといわざるを得ず、原告の名誉感情を違法に侵害するものといえる。また、前記(1)エの事実に加え、被告は原告がトランスジェンダー当事者であることを十分に認識していたこと(乙14)からすれば、被告の言動が懇親会の席でのいわば軽口としてされたものであったとしても、上記の法益侵害につき、被告には少なくとも過失があったといえる。したがって、被告が行った前記(1)の言動は、原告に対する不法行為に該当するというべきである。

 他方、被告の発言の内容が原告の非違行為をとがめるようなものではないこと等からすると、被告が行った前記(1)の言動が原告の社会的評価を低下させるものということはできない。

(3)被告の主張について
 被告は、前記第2の2(1)に記載したもの以外に、原告が、〔1〕くわえようじでパソコンの作業をしていたこと、〔2〕同僚の男性議員をホテルの一室に誘う行為をしたこと等をるる主張している。被告は、これらの原告の行状により、被告の言動が不法行為に該当しないと主張するものと解される。

 しかしながら、上記のような原告の行状があったとしても、被告の行為が原告の名誉感情を損なうものでなくなったり、社会的に許容し得る限度を超える侮辱には至らないものと評価されたり、被告の故意又は過失が否定されたりするものとは解されず、被告の主張は採用することができない。

2 争点(2)(損害の有無、損害額等)について
(1)前記1(2)のとおり、原告が、被告の言動により名誉感情を損ない、多大な不快感を抱いたものであることに加え、原告が、被告の言動により強い精神的ストレスを受けたとして医師の診療を受け、自律神経失調症などの診断を受けたと認められること(甲2)等からすると、被告の不法行為により原告が被った精神的損害は軽視することができない。

他方、原告の精神的損害を評価するに当たっては、被告の不法行為が、本件懇親会の席での言動にとどまり、その意味では単発の不法行為であるといえること、被告が、本件懇親会の直後、原告からの指摘を受けて、お詫びする旨のメッセージを送ったと認められること(甲1)等の事情も考慮するのが相当である。そのほか、本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為により原告が受けた精神的損害に対する慰謝料としては、15万円が相当である。


 そして、原告が、弁護士に依頼して本件訴訟を提起し、追行したことは当裁判所に顕著であるところ、被告の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当損害金としては,2万円が相当である。
 そうすると、損害額の合計は17万円となる。 

(2)なお、被告の主張に照らして本件全証拠をみても、被告の不法行為との関係で過失相殺をすべき根拠となる事由も、原告の請求が権利の濫用であるというべき事情も認められない。

3 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて

  (中略)

4 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告に対し、不法行為に基づき、損害金17万円及びこれに対する不法行為の日である令和6年1月19日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却する。
 よって、主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第10部 裁判長裁判官 大竹敬人 裁判官 大原哲治 裁判官 鈴木友一

以上:5,189文字

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