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障害年金の逸失利益性を判断した最高裁判決紹介

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令和 7年 9月25日(木):初稿
○「特別支援学校教職員の不法行為責任を認めた地裁判決紹介」に関連した続きで、国民年金法及び厚生年金保険法による障害年金の逸失利益性を判断した平成11年10月22日最高裁判決(判時1692号50頁、判タ1016号98頁)全文を紹介します。

○この最高裁判決は
①障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各障害年金額を逸失利益として請求することができる
②障害基礎年金及び障害厚生年金についてそれぞれ加給分を受給している者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各加給分額を逸失利益として請求することはできない。
③障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として遺族基礎年金及び遺族厚生年金の受給権を取得したときは、当該相続人がする損害賠償請求において、支給を受けることが確定した右各遺族年金は、財産的損害のうちの逸失利益から控除すべきである
としました。

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主   文
一 原判決主文第1項を次のとおり変更する。
 第一審判決を次のとおり変更する。
1 平成9年(オ)第434号被上告人・同第435号上告人は、平成9年(オ)第434号上告人・同第435号被上告人Aに対し1414万円、同B及び同Cに対し各657万7099円並びにこれらに対する平成4年7月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 平成9年(オ)第434号上告人・同第435号被上告人らのその余の請求を棄却する。
二 訴訟の総費用は、これを2分し、その1を平成9年(オ)第434号上告人・同第435号被上告人らの、その余を平成9年(オ)第434号被上告人・同第435号上告人の負担とする。

理   由
一 平成9年(オ)第434号上告代理人○○○○、同○○○○の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び記録に現れた本件訴訟の経過に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原審の右判断における法令の解釈適用の誤りをいうか、又は原審の裁量に属する慰謝料額の算定の不当をいうものであって、採用することができない。ただし、職権をもって判断したところ、平成9年(オ)第434号上告人・同第435号被上告人A(以下「一審原告A」のようにいう。)の損害額の認定に関する原審の判断に違法があることは、後記四のとおりである。

二 平成9年(オ)第435号上告代理人○○○○仁、同○○○○、同○○○○の上告理由第三及び第四について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原審の右判断における法令の解釈適用の誤りをいうか、又は原審の裁量に属する慰謝料額の算定の不当をいうものであって、採用することができない。

三 同第一及び第二について
1 本件は、国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金(以下、併せて「障害年金」という。)の受給権者であったD(以下「亡D」という。)が医師の過失に基づく医療事故により死亡したため、その相続人である一審原告らが、右医師の使用者である平成9年(オ)第434号被上告人・同第435号上告人(以下「一審被告」という。)に対し、民法715条一項に基づき、亡Dの得べかりし障害年金相当額等の賠償を請求した事案である。

 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(一)一審原告Aは亡Dの妻、同Bは長女、同Cは長男である。

(二)亡Dは、平成4年7月初旬ころから、一審被告が経営する中部協同病院に入院していたが、同月15日、同病院の担当医師が亡Dに胃瘻造設術を施すに当たり、誤ってその腹部内の動脈に穿刺針を刺入したため、翌16日、腹腔内出血による出血性ショックにより死亡した(以下「本件事故」という。)。

(三)亡Dは、本件事故当時、第一級障害者として、国民年金法に基づく障害基礎年金として年間132万4800円(うち二人の子の加給分各20万9100円、合計41万8200円)、厚生年金保険法に基づく障害厚生年金として年間120万0900円(うち妻の加給分20万9100円)の合計年間252万5700円の障害年金を受給していた。

(四)一審原告らの本件事故当時における生計は、右障害年金により維持されていた。しかし、亡Dは、本件事故により死亡したため、右障害年金の受給権を喪失した。

(五)一審原告Aは、亡Dによって生計を維持していた妻として、平成4年8月分以降、国民年金法に基づく遺族基礎年金として年間114万3500円、厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金として年間59万5100円の合計年間173万8600円を受給している(以下、併せて「遺族年金」という。なお、その後、受給額は改定されている。)。支給を受けることが確定した遺族年金の額は,平成4年8月分から原審口頭弁論終結の日の属する平成8年8月分までの合計714万1713円である。

2 原審は、次のとおり判断して、加給分を含めて亡Dの受給していた障害年金の逸失利益性を肯定した。
(一)国民年金法に基づいて支給される障害基礎年金も厚生年金保険法に基づいて支給される障害厚生年金も、当該受給権者に対して損失補償ないし生活保障をすることを目的とするとともに、その者の収入に生計を依存している家族に対する関係においても同一の機能を営むものと解されるから、不法行為により死亡した者は、得べかりし障害年金を逸失利益として同額の損害賠償請求権を取得し、その相続人は、加害者に対してその賠償を請求することができるものと解される。したがって、亡Dの相続人である一審原告らは、亡Dの得べかりし障害年金相当額の損害賠償請求権を相続により取得し、一審被告に対してその賠償を請求することができる。

 そして、亡Dは、本件事故当時、日常生活のほとんどの面で介助を必要とする状態にあり、将来においてもその改善は困難であったが、その外の同人の身体的、精神的状況を総合すると、亡Dが同年齢の健康な平均的男子より特に短命であるとは認められず、亡Dは、本件事故により死亡しなければ、平均余命までのその後31年間、障害年金を受給することのできたがい然性が高いものと認められる。
(二)さらに、障害基礎年金受給額のうち子の加給分については、その子が18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで(国民年金法33条の2第3項六号本文)、また、障害厚生年金受給額のうち妻の加給分については、妻が65歳に達した月まで(厚生年金保険法50条の2第3項、44条4項四号)、それぞれ加算して支給されるから、これらも亡Dの得べかりし障害年金に含まれる。

3 所論は、要するに、
(1)障害年金と従来判例において逸失利益性が肯定されてきた老齢年金等とは、その趣旨・目的等を異にするものである上、障害年金については、国民年金法及び厚生年金保険法上、受給権者の障害の程度の変更により、その額が改定され、又は支給を停止するものとされているから、障害年金はその存続が確実であるということはできず、その受給権の喪失を損害と認めることはできない、
(2)少なくとも、子の加給分については、国民年金法上、子が18歳に達すること以外にも、死亡、婚姻、養子縁組等の事由があるときは加算されなくなり、妻の加給分については、厚生年金保険法上、妻が65歳に達すること以外にも、死亡、離婚等の事由があるときは加算されなくなるから、子及び妻の加給分は存続が不確実であって、その受給権の喪失を損害と認めることはできない、
というのである。

4 そこで検討するに、原審の前記(一)の判断は是認することができるが、(二)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(一)国民年金法に基づく障害基礎年金も厚生年金保険法に基づく障害厚生年金も、原則として、保険料を納付している被保険者が所定の障害等級に該当する障害の状態になったときに支給されるものであって(国民年金法30条以下、87条以下、厚生年金保険法47条以下、81条以下参照)、程度の差はあるものの、いずれも保険料が拠出されたことに基づく給付としての性格を有している。

したがって、障害年金を受給していた者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、障害年金の受給権者が生存していれば受給することができたと認められる障害年金の現在額を同人の損害として、その賠償を求めることができるものと解するのが相当である。そして、亡Dが本件事故により死亡しなければ平均余命まで障害年金を受給することのできたがい然性が高いものとして、この間に亡Dが得べかりし障害年金相当額を逸失利益と認めた原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認するに足りる。

(二)もっとも、子及び妻の加給分については、これを亡Dの受給していた基本となる障害年金と同列に論ずることはできない。すなわち、国民年金法33条の2に基づく子の加給分及び厚生年金保険法50条の2に基づく配偶者の加給分は、いずれも受給権者によって生計を維持している者がある場合にその生活保障のために基本となる障害年金に加算されるものであって、受給権者と一定の関係がある者の存否により支給の有無が決まるという意味において、拠出された保険料とのけん連関係があるものとはいえず、社会保障的性格の強い給付である。

加えて、右各加給分については、国民年金法及び厚生年金保険法の規定上、子の婚姻、養子縁組、配偶者の離婚など、本人の意思により決定し得る事由により加算の終了することが予定されていて、基本となる障害年金自体と同じ程度にその存続が確実なものということもできない。これらの点にかんがみると、右各加給分については、年金としての逸失利益性を認めるのは相当でない
というべきである。この点に関する原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。

5 そして、本件事故当時における亡Dの逸失利益の現価は、本件事故がなければ亡Dに支給されたがい然性の認められる障害年金の年額189万8400円(亡Dの前記障害年金受給額から子及び妻の加給分を控除した金額)から亡Dの生活費及び介助費用相当額を控除した年額23万3880円に、新ホフマン係数18・4214を乗じた430万8397円(円未満切捨て。以下同じ。)となる。

6 一審原告友美及び同Cは、それぞれ亡Dの右逸失利益及び慰謝料1000万円についての損害賠償請求権を法定相続分各四分の一の割合に従って取得したものであり、これに原審の認定したその余の損害各300万円を加えると、一審原告友美及び同Cの本件請求は、各657万7099円及びこれに対する不法行為の日である平成4年7月16日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものである。したがって、前記加給分の逸失利益性に関する原審の判断の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであり、論旨はこの限度で理由がある。

四 さらに、職権をもって一審原告Aの損害額について判断する。
1 国民年金法及び厚生年金保険法に基づく障害年金の受給権者が不法行為により死亡した場合において、その相続人のうちに、障害年金の受給権者の死亡を原因として遺族年金の受給権を取得した者があるときは、遺族年金の支給を受けるべき者につき、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、その者が加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)。

そして、この場合において、右のように遺族年金をもって損益相殺的な調整を図ることのできる損害は、財産的損害のうちの逸失利益に限られるものであって、支給を受けることが確定した遺族年金の額がこれを上回る場合であっても、当該超過分を他の財産的損害や精神的損害との関係で控除することはできないというべきである。

2 これを本件について見ると、前記三1のとおり、一審原告Aは、亡Dが本件事故により死亡したため、国民年金法に基づく遺族基礎年金及び厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金を受給しており、支給を受けることが確定した遺族年金の額は、714万1713円である。他方、一審原告Aは、亡Dの前記逸失利益及び慰謝料についての損害賠償請求権を法定相続分2分の1の割合に従って取得したものであり、これに原審の認定したその余の損害914万円を加えると、その損害額は合計1629万4198円となる。

これから右相続に係る逸失利益分215万4198円の限度で右遺族年金を控除すると、一審原告Aの本件請求は、1414万円及びこれに対する不法行為の日である平成4年7月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものである。

原審は、右遺族年金をもって相続に係る逸失利益分以外の一審原告Aの損害からも控除しているところ、この点に関する原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法もまた原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

五 以上に説示するところに従い、これと異なる第一審判決は右のとおり変更されるべきであるから、原判決主文第1項を本判決主文第1項のとおり変更することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄)
以上:5,792文字

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