令和 7年 8月28日(木):初稿 |
○暴行を受けたことに寄る打撲傷等についての慰謝料請求事案を探しています。原告が、(1)原告の兄である被告が原告の顔面を殴打したことにより傷害を負った(本件暴行)として、被告に対し不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料等330万円及び遅延損害金の支払を求めた令和6年2月27日東京地裁判決(LEX/DB)を紹介します。 ○争いのない事実として、原告の兄である被告は平成30年5月7日、原告に対し、その顔面を殴打し、原告は、顔面打撲傷、右眼窩骨折、右頬骨骨折の傷害を負い、全治3か月の見込みである旨の診断を受け、なお、原告の上記傷害について、外傷性末梢性右顔面神経不全麻痺(顔貌の左右差)が残存し、症状固定している旨の令和4年11月18日付け診断書が存在しています。 ○外傷性末梢性右顔面神経不全麻痺(顔貌の左右差)が残存は、後遺障害として自賠責基準では神経性障害12級相当の主張も可能で、少なくとも14級は明白と思われます。交通事故の場合、この後遺障害だけで110万円から290万円の慰謝料が認められます。さらに全治3ヵ月の通院慰謝料は骨折を伴う傷害なので73万円程度の慰謝料が認められます。従って請求額300万円程度の慰謝料が認められる可能性もあります。 ○ところが、この判例は、本件全証拠によっても、本件暴行に至る経緯において被告に酌むべき事情があるとは認められないこと等本件に顕れた全事情を総合考慮すると、本件暴行により原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料として100万円を認めるのが相当であるとして100万円しか慰謝料を認めませんでした。 ○正に、そんな馬鹿なと思える判断です。原告の主張は、原告の受傷及び後遺症の程度、〔2〕被告が被害弁償を一切行っていないこと、〔3〕故意の暴行による傷害であることを考慮すると、本件暴行により原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料は300万円を下らないとしていますが、後遺障害による慰謝料について詳しい主張していなかったのが惜しまれるところです。 ******************************************** 主 文 1 被告は、原告に対し、110万円及びこれに対する平成30年5月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、316万3018円及びこれに対する令和6年1月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は、これを10分し、その4を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する平成30年5月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、316万3018円及びこれに対する令和6年1月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事実関係 1 事案の概要 本件は、原告が、〔1〕原告の兄である被告が原告の顔面を殴打したことにより傷害を負った(以下「本件暴行」という)と主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料等330万円及びこれに対する平成30年5月7日(本件暴行の日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、〔2〕被告は、原告及び被告の母である亡C(以下「亡C」という。)の相続財産に属する共同住宅(以下「本件建物」という。)の賃料等を法定相続分である2分の1を超えて法律上の原因なく受領し、これにより原告は損失を被ったところ、被告は上記受領に法律上の原因はないことを知っており、悪意の受益者にあたる旨主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、316万3018円及びこれに対する令和6年1月1日(最後の受領の日より後の日)から支払済みまで年3パーセントの割合による利息金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者等 原告は昭和39年○月○○日生まれの女性である。 被告は昭和36年○月○日生まれの男性である。 被告は原告の兄であり、原告及び被告は、亡C(令和3年5月29日死亡)の子らである。原告及び被告の他に亡Cの相続人は存在しない。 (争いのない事実、甲5) (2)本件暴行に係る事実経過 ア 被告は、平成30年5月7日、原告に対し、その顔面を殴打した。これにより、原告は、顔面打撲傷、右眼窩骨折、右頬骨骨折の傷害を負い、全治3か月の見込みである旨の診断を受けた。なお、原告の上記傷害について、外傷性末梢性右顔面神経不全麻痺(顔貌の左右差)が残存し、症状固定している旨の令和4年11月18日付け診断書が存在する。(争いのない事実、甲1、甲2)。 イ 被告は、本件暴行について、懲役1年6月、3年間刑執行猶予の判決を受けた(甲4)。 (3)本件建物に関する事実経過 (中略) 4 争点に関する当事者の主張の要旨 (1)争点(1)(本件暴行による原告の損害)について (原告の主張の要旨) ア 慰謝料 300万円 〔1〕原告の受傷及び後遺症の程度、〔2〕被告が被害弁償を一切行っていないこと、〔3〕故意の暴行による傷害であることを考慮すると、本件暴行により原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料は300万円を下らない。 イ 弁護士費用 30万円 ウ 合計 330万円 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件暴行による原告の損害)について (1)慰謝料 100万円 〔1〕原告は、本件暴行により、顔面打撲傷、右眼窩骨折、右頬骨骨折の傷害を負い、全治3か月の見込みである旨の診断を受けたこと(前提事実(2)ア)、〔2〕原告の上記傷害について、外傷性末梢性右顔面神経不全麻痺(顔貌の左右差)が残存し、症状固定している旨の令和4年11月18日付け診断書が存在すること(前提事実(2)ア)、〔3〕原告は上記傷害の治療に相応の治療費用を支出したことがうかがわれること、〔4〕本件暴行は、故意の不法行為であり、原告の傷害からすれば相応の強度によるものと認められること、〔5〕本件全証拠によっても、本件暴行に至る経緯において被告に酌むべき事情があるとは認められないこと等本件に顕れた全事情を総合考慮すると、本件暴行により原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料として100万円を認めるのが相当である。 (2)弁護士費用 10万円 (3)合計 110万円 (4)よって、被告は、本件暴行について、原告に対し、不法行為に基づき、110万円及びこれに対する平成30年5月7日(本件暴行の日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。 2 争点(2)(本件建物の賃料等の全額を受領したことにつき被告が悪意の受益者にあたるか)について (中略) 第4 結論 以上検討したところによれば、原告の請求は主文掲記の限度で理由があるからこれらを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第5部 裁判官 山川勇人 以上:2,983文字
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