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会社締結損害保険契約に基づく保険金の従業員帰属を認めた高裁判決紹介

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令和 7年 6月25日(水):初稿
○「会社契約損害保険契約に基づく保険金の従業員帰属を認めた地裁判決紹介」の続きで、その控訴審令和5年4月14日大阪高裁判決(判例時報2621号17頁)全文を紹介します。

○被控訴人が、被控訴人(原告)と控訴人(被告)との間の神戸地方法務局所属公証人△△△△作成債務承認並びに弁済契約公正証書に表示された債権が、被控訴人が控訴人に対して有する反対債権との相殺によって全部消滅したとして、異議権に基づき、本件公正証書の執行力の排除を求めたところ、原審が被控訴人の請求を認容したため、これを不服として、控訴人が控訴しました。控訴人は、本件保険金の受給権者は控訴人であるから、控訴人に不当利得が生じる余地はないと主張しました。

○大阪高裁は、法人契約特約が付されていることを明確に示す記載は見当たらず、本件損害保険契約においては、控訴人が主張する法人契約特約が付されていたとまで認めることはできず、仮に、本件保険契約において法人契約特約が付されていたとしても、同特約は、本件保険契約の内容や、本件保険金が被控訴人の労災事故に起因して給付された入院保険金、通院保険金等であることからしても、保険法8条の規定に反する特約で被保険者である被控訴人に不利なものとして、同法12条により無効であるとして、いずれにしても、控訴人の主張は採用できないとして、控訴を棄却しました。

○関係する保険法規定は以下の通りです。
第8条(第三者のためにする損害保険契約)
 被保険者が損害保険契約の当事者以外の者であるときは、当該被保険者は、当然に当該損害保険契約の利益を享受する。

第12条(強行規定)
 第8条の規定に反する特約で被保険者に不利なもの及び第9条本文又は前2条の規定に反する特約で保険契約者に不利なものは、無効とする。


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主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。

第2 事案の概要(以下、略語は特記しない限り原判決の例による。)
1 事案の骨子

 本件は、被控訴人が、被控訴人と控訴人との間の神戸地方法務局所属公証人△△△△作成平成28年第×××号債務承認並びに弁済契約公正証書(本件公正証書)に表示された債権が、被控訴人が控訴人に対して有する反対債権との相殺によって全部消滅したとして、異議権に基づき、本件公正証書の執行力の排除を求める事案である。
 原審は、被控訴人の請求を認容したので、これを不服として、控訴人が控訴をした。

2 前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
 原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」欄の2項のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決3頁8行目から9行目にかけての「傷害総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していた(乙3)」を、「損害保険契約である傷害総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結し、控訴人が本件保険契約の保険料を支払っていた(乙3)。

なお、本件保険契約は、損害保険契約であり、その約款(乙4)には、保険金とは入院保険金・手術保険金・通院保険金等で、保険金請求権者とは被保険者若しくはその父母、配偶者又は子であり(第1章第1条)、入院保険金や通院保険金は入通院日数に応じて、後遺障害保険金は後遺障害の内容に応じてそれぞれ算定され、入院保険金や通院保険金については被保険者に支払うものとされ(第2章第5条から第7条まで)、保険金額算定のため入通院日数や後遺障害の内容を保険会社に送付すべきものとされている(第4章第21条、別表第6)。」と改める。

3 主たる争点及びこれに関する当事者の主張
 次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」欄の3項及び4項のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決4頁15行目から16行目にかけて及び同19行目から20行目にかけての各「本件保険金を取得したこと」を「本件保険金を取得したこと又は取得後これを保持し続けること」と各改める。

(2)原判決5頁13行目の末尾に改行して、次のとおり加える。
 「本件保険契約に控訴人主張の法人契約特約が付されていたとしても、同特約は、被保険者の取得すべき保険金を保険契約者である控訴人に帰属させるもので、保険法12条により「被保険者に不利なもの」として無効であることは明らかである。」

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、原判決と同じく、被控訴人の請求は理由があると判断する。その理由は、次項のとおり原判決を補正し、3項において説明を付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」欄の1項及び2項のとおりであるから、これを引用する。

2 原判決の補正
(1)原判決7頁9行目から12行目までを、次のとおり改める。
「(3)本件保険契約には、事業主費用保障特約が付されていた。
(4)保険会社は、平成28年5月12日付で、被控訴人に対し、同社が平成27年9月25日を事故日とし、被控訴人を被保険者とする事故を受け付けたこと、同事故を受け付けた契約が本件保険契約であること、支払対象となる可能性のある保険金についてウェブサイト等で案内していること等が記載された書面(甲3)を送付した。
 また、保険会社は、平成28年9月、被控訴人に対し、同月5日を支払予定日とし、支払金額を114万円とする保険金を控訴人の預金口座に支払ったのでご案内する旨記載した書面(甲4)を送付した。」

(2)原判決7頁23行目から8頁5行目までを、次のとおり改める。
 「そうである以上、控訴人が保険会社から本件保険契約に基づき本件保険金を受け取った場合、当該受取行為は、被保険者である被控訴人からの委託に基づくものでなくとも、同人のためにするものとして、事務管理に該当し、受け取った本件保険金は、特段の事情がない限り、同人に引き渡さなければならず(民法701条、646条1項)、控訴人がこれを引き渡さない場合には、本件保険金は不当利得になると解される。」

(3)原判決8頁11行目から18行目までを削る。

(4)原判決8頁20行目の「及びこれに対する法定利息の支払請求権」を削る。

3 付加説明
 控訴人は、当審においても、本件保険契約には法人契約特約(法人を保険契約者とし、その役員、従業員を被保険者とする保険契約において、死亡保険金受取人を保険契約者である法人とした場合に、後遺障害保険金、入院保険金、手術保険金、通院保険金についても死亡保険金受取人に支払う特約)が付されており、したがって、本件保険金の受給権者は控訴人であるから、控訴人に不当利得が生じる余地はない旨主張する。

 しかし、本件保険契約に係る「傷害総合保険契約更改申込書」(乙3)を子細にみても、本件保険契約について、事業主費用補償特約は付されているものの、控訴人が主張する、法人契約特約が付されていることを明確に示す記載は見当たらない。

そもそも、本件保険契約(傷害総合保険)については、約款(乙4)で、保険金請求権者は被保険者(若しくはその父母、配偶者又は子)で、入院保険金や通院保険金は被保険者に支払うものとされているところ、確かに本件保険金は控訴人の預金口座に振り込まれているものの、上記認定のとおり、保険会社は、いずれも被控訴人に宛てて、平成28年5月12日付けで,保険会社が平成27年9月25日を事故日とし、被控訴人を被保険者とする事故を受け付けたこと、同事故を受け付けた契約が本件保険契約であること、支払対象となる可能性のある保険金についてウェブサイト等で案内していること等が記載された書面(甲3)を送付したり、平成28年9月には、同月5日を支払予定日とし、支払金額を114万円する保険金を控訴人の預金口座に支払をしたのでご案内する旨記載した書面(甲4)を送付したりしているもので、これらの事実も、本件保険契約において、控訴人が主張する法人契約特約が付されていたことに疑いを生じさせる事実といえる。控訴人の提出する保険会社担当者作成の説明書面(乙1)もその記載自体からして上記疑問を拭い去るに十分なものとはいえない。結局、本件保険契約においては、控訴人が主張する法人契約特約が付されていたとまでは認めることはできない。

なお、仮に、本件保険契約において法人契約特約が付されていたとしても、同特約は、本件保険契約の内容や、本件保険金が被控訴人の労災事故に起因して給付された入院保険金、通院保険金等であることからしても、保険法8条の規定に反する特約で被保険者である被控訴人に不利なものとして、同法12条により無効であるというべきである。

以上、いずれにしても、この点に関する控訴人の主張は採用できない。

第4 結論
 以上によれば、被控訴人の請求は理由があるから認容すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 
裁判長裁判官 植屋伸一 裁判官 福田修久 裁判官 大河三奈子
以上:3,767文字

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