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二重瞼形成手術について債務不履行を否認した地裁判決紹介

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令和 7年 4月15日(火):初稿
○弁護士JPと言うサイトの「美容整形で失敗された! 返金は難しいって本当?」との記事によると近年美容整形でのトラブルが増加傾向にあり、「全国の消費者センターに寄せられた、美容医療に関するトラブルの相談は2017年の1878件から2021年の2766件へと、4年で1000件近くも増加しています。」とのことです。同記事では、整形を受けた本人が美容整形が失敗と思っても、整形費用等返金が期待できるのは、法的な根拠に基づいて、明らかな医療ミスが認められた場合に限られ、返金された事例が少なく、美容整形のために支払った費用よりも、返金額が大幅に少ない事例もあるとのことです。判例時報令和7年4月1日号に掲載された返金が認められなかった事案の関連部分を紹介します。

○被告医療法人社団が経営する被告診療所で二重瞼形成手術を受けた原告男性診療時30歳が、被告診療所の医師の注意義務違反によって左右瞼の外観が非対称になったなどと主張して、被告に対し、民法415条に基づき、慰謝料200万円等合計約250万円の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めました。

○これに対し、判決は、二重瞼形成手術について手技上の注意義務違反又は債務不履行があったと認められるためには、少なくとも、同手術によって形成された左右瞼の外観が、一般人から見て、対称性について違和感をもつ程度に至っていると認められることが必要であり、且つ、説明義務が訴外C医師にあったと認められるためには、C医師が、原告が目頭から目尻部分までを切開する「全切開法」を希望していることを認識できたことが必要であるところ、仮に原告がC医師に対して本件手術を「全切開法」で行ってほしいと伝えていたとしても、〔1〕原告はC医師に対して原告が述べる「全切開法」が目頭から目尻部分までを切開する方法を意味することを伝えていないこと、〔2〕被告診療所では部分切開法よりも切開幅が大きいものをすべて全切開法としていたことからすれば、C医師が原告の上記希望を認識できたとは認められないから、C医師に説明義務がないなどとして、請求は全て棄却されました。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、249万7396円及びこれに対する令和4年6月9日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、被告が経営する池袋皮フ科形成外科(以下「被告診療所」という。)で二重瞼形成手術を受けた原告が、被告診療所の医師の注意義務違反によって左右瞼の外観が非対称になったなどと主張して、被告に対し、民法415条に基づき、損害賠償金及びこれに対する令和4年6月9日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(争いがない事実又は後掲証拠若しくは弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、昭和63年○月生まれの男性である。被告診療所で診療を受けた平成30年(以下、同年の記載を省略する。)12月6日当時、30歳であった。
イ 被告は、被告診療所を経営する医療法人社団である。C医師(以下「C医師」という。)及びD医師は、被告の被用者であり、原告の診療を担当した医師である。

(2)診療経過

     (中略)

3 争点
(1)C医師の手技上の注意義務違反の有無(争点1)
(2)C医師の説明義務違反の有無(争点2)
(3)原告の損害(争点3)

第3 当裁判所の判断
1 争点1(C医師の手技上の注意義務違反の有無)

(1)左右瞼の外観の非対称について
 人間の顔は、通常、完全に左右対称ではなく、左右の眉毛位置の差などがあるため、二重瞼の形成に当たって左右瞼の外観を完全な対称の形にするのは困難である(甲9・28頁、証人C医師)。したがって、二重瞼形成手術について手技上の注意義務違反又は債務不履行があったと認められるためには、少なくとも、同手術によって形成された左右瞼の外観が、一般人から見て、対称性について違和感をもつ程度に至っていると認められることが必要というべきである。

 これを本件についてみると、原告の容貌を撮影した写真(甲8、16)によれば、本件手術によって形成された原告の左右瞼の外観は、一般人から見て、対称性について違和感をもつ程度に至っていると認められない。したがって、左右瞼の外観の非対称について、C医師に手技上の注意義務違反又は債務不履行があったとは認められない。

(2)右瞼上の傷跡について
 本件手術の内容からすれば、右瞼上に多少の傷跡が残ることは避けられないところ、原告の容貌を撮影した写真(甲8、16)によれば、原告が両眼を開いた場合は、右瞼上の傷跡のある場所が隠れるため、右瞼上の傷が外から見えないと認められ、また、原告が両眼を閉じた場合も、右瞼上の傷跡が、一般人から見て、違和感をもつ程度に目立っているとは認められない。したがって、右瞼上の傷跡について、C医師に手技上の注意義務違反又は債務不履行があったとは認められない。

(3)右瞼の引き込み力による違和感及び頭痛について
 原告は、左瞼には違和感がないが、右瞼には引っ張られる違和感(引き込み力による違和感。以下「本件違和感」という。)があると供述する。また、原告には本件手術前から頭痛があったところ(原告本人)、原告は、本件手術前後で頭痛の位置が違う感じがすると供述する。

 しかし、原告は、本件手術前から右側にも頭痛があった、今はどちらかといえば左側の頭痛が軽くなった感じがすると供述するにとどまり、本件違和感によって新たに頭痛が発生したとか、本件違和感によってそれまでの頭痛が悪化したと供述しなかった。また、原告は、頭痛の原因は正確には分からない旨供述した。そうすると、原告の供述によって、本件違和感によって頭痛が生じたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

 また、原告は、頭痛以外に、本件違和感によって日常生活にどのような支障が生じているのか具体的に供述しないことからすれば、本件違和感は、仮にそれが存在するとしても、日常生活に支障を生じさせるような違和感ではなく、受忍限度の範囲の違和感と認められる。そして、本件手術の内容からすれば、そのような違和感は、手技上の注意義務違反がなくても生じうると考えられるから、本件違和感の存在からC医師に手技上の注意義務違反があったと認めることはできない。

(4)以上によれば、C医師に手技上の注意義務違反があったという原告の主張はいずれも理由がない。

2 争点2(C医師の説明義務違反の有無)
(1)認定事実
 証拠(甲7、甲15、乙7の1及び2、乙8、乙10、原告本人、証人C医師)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、12月6日、C医師に対し、被告診療所が提供していた二重瞼形成の施術メニューである埋没法(10万円)、部分切開法(15万円)及び切開法(23万円)の中から切開法を希望し、手術を受けたことが周囲に明らかにならないような奥二重気味の自然な二重瞼にしたい旨述べた。

イ C医師は、12月6日、原告に対し、原告の問診票(乙7の1)の裏(乙7の2。原告の問診票の裏は別紙1のとおり。)に手書きで図を書いて示しながら、本件手術について、以下の説明を行った。
(ア)原告の希望する奥二重気味の自然な二重瞼の仕上がりにするためには、切開した皮膚を瞼板の上にある挙筋瞼膜に縫い付けて、折り目を付けて二重瞼を形成する。そのため、切開部位がくぼむような傷跡が縫合箇所に残る。

(イ)瞼の皮膚が加齢によりたるみが生じている等の理由で瞼縁(睫毛の生え際である瞼の縁部分)と切開線との距離が広くなっている場合には、この距離を短くする必要が生じるため、切開線の皮膚を切除することになる。切開線の皮膚を切除する場合に切開幅を別紙2の【図3’】の青線の長さ程度にとどめると、切開線の中央部分と始点・終点部分との皮膚のテンションの差から、始点・終点付近に皮膚の余りが生じてしまい、ドッグイヤーと呼ばれる膨らみが発生する。そこで,ドッグイヤーの発生を防止するため、別紙2の【図3’】の赤枠の端から端まで切開する必要が生じる。

(ウ)しかし、原告のように皮膚のたるみが見られない場合には、瞼縁と切開線の距離が広くならないので、皮膚を切除する必要がなく、切開幅が短ければ短いほど傷跡を小さく目立ちにくくすることができるため、切開幅を別紙2の【図3’】の青線の長さ程度に抑えても二重瞼が十分に形成可能である。 

(エ)本件手術後には腫れが残り、目立たなくなるまでは2、3週間程度が必要である。その後3か月程度は腫れが気になることが多いが、次第に腫れは収まっていく。

ウ 原告は、本件手術の当日である12月20日、「私は、上記内容に不明点はなく、疑問点は質問しその説明を受け、治療方針や治療内容をすべて十分理解し納得しましたので手術・処置・施術を受けることに承諾いたします。」と記載されていた「手術・処置・施術等に関する承諾書」(乙8)に署名し、本件手術を受けた。

(2)事実認定の補足説明
 C医師は、上記(1)の認定に沿う陳述(乙10)及び証言をするところ、C医師の陳述及び証言は、裏付けとなる客観的な証拠(原告の問診票の裏(乙7の2)に説明の際に示された図が記載されている。なお、原告も、それらの図のうち別紙3の青い丸で囲んだ図は覚えていると供述している。)があるだけでなく、内容に不自然不合理な点も見当たらないから、信用することができる。したがって、C医師は、原告に対し、本件手術について、上記(1)の認定のとおり説明したと認められる。この認定に反する原告の供述は、採用することができない。

(3)手術方法に関する説明義務違反について
 原告は、C医師は本件手術を目頭から目尻部分までを切開する「全切開法」で行わないことを原告に説明する義務があったと主張する。
 しかし、原告の主張する説明義務がC医師にあったと認められるためには、C医師が、原告が本件手術を目頭から目尻部分までを切開する「全切開法」で行ってほしいと希望していることを認識できたと認められることが必要であると解されるところ、仮に原告がC医師に対して本件手術を「全切開法」で行ってほしいと伝えていたとしても、
〔1〕原告はC医師に対して原告が述べる「全切開法」が目頭から目尻部分までを切開する方法を意味することを伝えていないこと(原告本人、証人C医師)、
〔2〕「全切開法」といっても内容は医療機関によって異なり、「全切開法」が必ず目頭から目尻部分までを切開する方法を意味するとは限らず(甲9ないし14、弁論の全趣旨)、被告診療所では部分切開法よりも切開幅が大きいもの(目頭から目尻部分までを切開する方法を含む。)を全て切開法としていたこと(証人C医師)
からすれば、C医師が、原告が本件手術を目頭から目尻部分までを切開する方法で行ってほしいと希望していることを認識できたとは認められない。したがって、C医師に原告の主張する説明義務があったとは認められない。


 また、C医師は、原告に対し、切開の幅について、別紙2の【図3’】の赤枠の端から端まで(目頭から目尻部分までに近いと認められる。)ではなく、それよりも短くなる同図の青線の長さ程度に抑えると説明しているから(上記(1)イ)、C医師は、原告に対し、本件手術が目頭から目尻部分までを切開するものではないことを説明したと認められるところ、原告は、C医師の説明によって本件手術が目頭から目尻部分までを切開するものではないことを認識したにもかかわらず、目頭から目尻部分までを切開する方法で本件手術を行ってほしいと述べず、そのまま本件手術を受けているから(上記(1)イ)、原告がC医師から原告の主張する手術方法に関する説明を受けていれば本件手術を受けなかったとも認められない。
 以上によれば、原告の手術方法に関する説明義務違反の主張は理由がない。

(4)手術内容や手術後の状況に関する説明義務違反について
 C医師は、原告に対し、別紙2の【図3’】を示しながら、〔1〕切開する部位、〔2〕切開する幅や大きさを説明し、〔3〕切開後の傷跡の状態の見込みについても、切開部位がくぼむような傷跡が縫合箇所に残ることや、一定期間は腫れが残ることを説明しているから(上記(1)イ)、上記〔1〕から〔3〕までの点についてC医師に説明義務違反があったとは認められない。

 また、原告は、C医師は〔4〕手術後の瞼の引き込み感やこれが日常生活に与える影響等を説明する義務があったと主張するが、既に説示したとおり、本件違和感は、仮にそれが存在するとしても、日常生活に支障を生じさせるような違和感ではなく、受忍限度の範囲にとどまっている違和感と認められるから、そのような違和感が本件手術によって生じることがあることを説明する義務がC医師にあったということはできない。
 したがって、原告の手術内容や手術後の状況に関する説明義務違反の主張も理由がない。

第4 結語
 以上によれば、争点3について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第14部 裁判長裁判官 村主隆行 裁判官 川嶋彩子 裁判官 和田義光
以上:5,548文字

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