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マンション敷地崩落死亡事故に管理会社等の責任を認めた地裁判決紹介

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令和 7年 3月25日(火):初稿
○判例時報2615号令和7年3月11・21日合併号にマンションの敷地の一部が崩落し、直下の市道を通行していた被害者亡Dが崩落に巻き込まれ死亡した事故について、通行人との関係で、マンションの管理会社及び同会社の従業員に本件事故の発生を防止する義務の違反があるとして不法行為責任を認めた令和5年12月15日横浜地裁判決(判時2615号○頁、判タ1524号229頁)が掲載されていましたので、関連部分を紹介します。

○マンション敷地崩落による死亡事故は珍しい事案ですが、被害者遺族とマンション管理組合との間には和解契約が成立し、組合から遺族である原告A(亡Dの義父)に3385万2521円、原告B(亡Dの実母)に6534万6862円、原告C(亡Dの妹)に80万0617円が支払われています。遺族は、組合和解金でも不足する損害として、マンション管理会社とその従業員に対し、原告Aが約2074万円、原告Bが約4003万円、原告Cが約49万円を請求して提訴しました。

○横浜地裁判決は、敷地崩落による死亡事故の発生を予見できたとして、被告管理会社らの過失責任を認めて、亡D自身の全損害を7429万4850円と認定し、その損害について原告らの法定相続分で相続承継した損害分に固有の慰謝料と弁護士費用・遅延損害金を付加した合計額から組合が支払った和解金を控除して、原告Aに約24万円、原告Bに約72万円、原告Cに約10万円を連帯して支払うようにマンション管理組合とその従業員に命じました。

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主   文
1 被告らは、原告Aに対し、連帯して24万7008円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告Bに対し、連帯して72万2182円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告Cに対し、連帯して10万3025円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを50分し、その49を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
6 この判決は、第1項から第3項までに限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告らは、原告Aに対し、連帯して2073万7777円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告Bに対し、連帯して4003万0951円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告Cに対し、連帯して49万0451円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 本件は、原告らが、原告A及び原告Bの子である亡Dが別紙物件目録記載の建物(以下「本件マンション」という。)の敷地の一部である東北東向きの斜面地部分(以下「本件斜面地」という。)の一部の土砂の崩落に巻き込まれ死亡した事故(以下「本件事故」という。)について、以下のとおり請求するものである。

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実
(後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の各事実が認められる。)

     (中略)

2 争点1(被告Eの不法行為責任の有無)について
(1)
ア 上記1及び前提事実を前提にすれば、以下の各事実を認定することができるので、被告Eについて、通行人である亡Dとの関係で、条理上、その生命、身体に生じる損害を防止する義務を負っていたということができる。
(ア)被告会社は、本件管理委託契約上、本件マンションの亀裂、瑕疵等の速やかな通知義務又は本件組合のため緊急性の高い業務を行う権限と義務を有していると認められる。
 したがって、被告会社は、本件斜面地の崩落の危険性を発見したときには、本件組合に生じる損害を防止する義務を負っている。
 被告Eは、被告会社の担当者として、上記義務を履行できた可能性の最も高い者である。

(イ)本件斜面地の直下を本件市道が走っていることや、本件斜面地が土砂災害警戒地域に指定されていたことを踏まえると、被告Eが、上記義務を履行しない場合、本件斜面地の崩落によって、亡Dを含む通行人に対してその生命、身体の安全を損なうこととなる重大な結果が発生する。

(ウ)被告Eが、本件市道を管理する逗子市に連絡して、通行禁止の措置を求めたり、自ら又はHをしてコーンを置いて通行人に注意を呼びかけたりする措置をとるなど事故発生を回避する措置をとることは可能であった。

(エ)亀裂に関する一般的な知見の存在及びそれに沿うHの認識を踏まえると、合理的な判断ができる通常人であれば、本件亀裂の存在、専門家に対する相談及び調査の不存在によって、亀裂発見から約22時間後の崩落の危険性が否定できないことを認識することができる。被告Eにおいても、本件亀裂の存在、専門家に対する相談及び調査の不存在を認識している以上、何らの根拠もなく何らの対応もしないことが不合理であることは容易に理解可能であるので、予見可能性がなかったとはいえない。

イ 被告Eは、上記義務を負っていながら、結果回避措置をとっていないので条理上の義務を怠ったものとして、過失責任を免れない。

(2)これに反する被告らの主張は以下のとおり採用できない。
ア 被告らは、本件斜面地に関して、本件管理委託契約上、いかなる管理業務も受託していない旨の主張をする。
 しかし、少なくとも上記1で認定した本件亀裂の通知義務又は緊急時における本件組合の損害発生回避義務は本件管理委託契約上認められているものと解されるので、上記主張は採用できない。

イ 被告らは、予見可能性の認識の対象として、本件斜面地の崩落事故が落石防止柵で防止できない程度の大規模であること、発見から約22時間後の短時間で発生すること、通行人の生命を奪う程度の重大な損害が生じることが必要である旨の主張をする。

 しかし、不法行為として過失責任を問うために必要な予見可能性の認識の対象としては、他人に権利侵害が発生する具体的おそれの認識で足りるというべきであり、それ以上の具体的な認識までは不要であると解される。
 本件の場合、一般的に亀裂が崩落の前兆と理解されていること、落石防止柵の存在を認識しているHが、令和2年2月15日まで猶予があるか判断しかねると回答していることを踏まえると、本件斜面地が崩落する具体的おそれは認識可能であると認められる。
 また、本件斜面地の高さが約15.9mメートルであることを踏まえると、本件斜面地の崩落によって他人の生命侵害が発生するおそれも認識可能と認められるので、過失責任を問うについて必要な予見可能性の認識は満たされているということができる。


 被告らの主張は、緊急性の認識可能性がなかったことをいうものであるが、過失責任を問うに必要なおそれの危険性の程度は、緊急であるまでの必要性はなく、行為時において結果発生防止策を命じるに足りる程度の具体性で足りるというべきであり、本件に即していえば、近い将来崩落するおそれの認識可能性で足りるというべきである。

ウ 被告らは、本件斜面地の崩落の具体的おそれの認識可能性はなかった旨の主張をする。主張に沿う証拠(丙4、6、11、12、証人H、被告E)がある。
 しかし、上記証拠のうち、H及び被告Eの供述を内容とするもの(丙11、12、証人H、被告E)は、利害関係人である被告会社の従業員が具体的おそれを認識していなかったことをいうにとどまり、認識可能性がなかったことを合理的に説明したものではない。上記証拠のうち、技術士等の資格を有する専門家の意見書(丙4、6)の内容は、本件亀裂のみによっては、崩落の時期が予見できないことをいうものであって、専門家に対する相談や調査の必要性を否定したものではなく、むしろ、専門家に対する相談や本件斜面地の調査をしていれば、直ちに崩落するおそれの認識可能性があったことをいうものと理解できるので、被告Eの予見可能性を否定するに足りるものではない。

 以上のとおりであり、上記証拠によっても、本件斜面地の崩落の具体的おそれの認識可能性は否定されない。

 また、本件亀裂が崩壊の前兆であり、本件亀裂についての専門家への相談及び本件斜面地の調査がなされていない以上、通常人であれば、直ちに崩落する危険性があることも認識可能というべきである。

3 争点2(被告会社の使用者責任又は不法行為責任の有無)について
(1)上記2のとおり、被告Eの不法行為責任が認められ、かつ、同人の不法行為は被告会社の業務執行の際に行われたものと認められるので被告会社は使用者責任を免れない。

(2)被告Eが不法行為責任を負うか否かにかかわらず,前提事実及び上記1の認定事実を前提にすれば、被告会社は、本件斜面地の直下を通行する通行人との関係においても、本件報告書の内容を確認して被告会社の従業員に対し本件斜面地の危険性を説明し、本件斜面地に亀裂を発見した場合には、速やかに結果回避措置をとるように予め指揮命令すべき条理上の義務があったと解される。 

 しかし、被告会社は上記義務を怠ったのであるから、被告会社自身の不法行為責任も免れない。

(3)これに対し、被告会社は、本件報告書の内容を確認すべき義務はなかった旨の主張をする。
 しかし、グローベルスが本件報告書を被告会社に交付した目的は、その内容を踏まえて適切な本件斜面地の管理を求める趣旨と解され、被告会社において、その趣旨を受領時に理解できなかったとは考え難い。本件管理委託契約が締結された経緯を踏まえると、被告会社において本件報告書の内容を確認すべき義務があったというべきである。

4 争点3(原告らの損害額)について
(1)亡Dの損害について
ア 治療費について

     (中略)

 上記アからオまでの小計は7429万4850円である。

(2)原告Aの損害額
ア 相続分
 原告Aの相続分は3分の1のため、2476万4950円(=7429万4850円×1/3)となる。
イ 固有の慰謝料
 証拠(甲76、原告A)によれば、亡Dを突然失った養父である原告Aの精神的苦痛は極めて大きいことが認められる。その他、被告らの過失の程度や本件記録上の全事情を考慮すれば、原告A固有の慰謝料として165万円を認めるのが相当である。
ウ 弁護士費用
 弁護士費用は、上記ア、イの合計2641万4950円の1割に相当する264万1495円をもって相当額と認める。
エ 小計 2905万6445円
オ 和解金受領日までの確定遅延損害金
 本件事故発生から3年172日が経過していることから、確定遅延損害金は504万3084円(=2905万6445円×0.05×(3+172/365))となる。
カ 和解金の充当
 原告Aは、和解金として3385万2521円を受領した。この和解金は、まず、本件事故日から和解金受領日までの遅延損害金に充当されるため、充当後の損害金元本は、24万7008円(=2905万6445円-(3385万2521円-504万3084円))となる。

(3)原告Bの損害額
ア 相続分
 原告Bの相続分は3分の2のため、4952万9900円(=7429万4850円×2/3)となる。
イ 固有の慰謝料
 証拠(甲76、原告A)によれば、亡Dを突然失った実母である原告Bの精神的苦痛は極めて大きいことが認められる。その他、被告らの過失の程度や本件記録上の全事情を考慮すれば、原告B固有の慰謝料として165万円を認めるのが相当である。
ウ 弁護士費用
 弁護士費用は、上記ア、イの合計5117万9900円の1割に相当する511万7990円をもって相当額と認める。
エ 小計 5629万7890円
オ 和解金受領日までの確定遅延損害金
 本件事故発生から3年172日が経過していることから、確定遅延損害金は977万1154円(=5629万7890円×0.05×(3+172/365))となる。
カ 和解金の充当
 原告Bは、和解金として6534万6862円を受領した。この和解金は、まず、本件事故日から和解金受領日までの遅延損害金に充当されるため、充当後の損害金元本は、72万2182円(=5629万7890円-(6534万6862円-977万1154円))となる。

(4)原告Cの損害額
ア 固有の慰謝料
 証拠(甲76、原告A)によれば、実妹である原告Cは、亡Dから特に面倒を見てもらっていたことなどから、同人を突然失ったことにより極めて大きな精神的苦痛を受けたことが認められる。その他、被告らの過失の程度や本件記録上の全事情を考慮すれば、原告C固有の慰謝料として70万円を認めるのが相当である。
イ 弁護士費用
 弁護士費用は、上記アの1割に相当する7万円をもって相当額と認める。
ウ 小計 77万円
エ 和解金受領日までの確定遅延損害金
 本件事故発生から3年172日が経過していることから、確定遅延損害金は13万3642円(=77万円×0.05×(3+172/365))となる。
オ 和解金の充当
 原告Cは、和解金として80万0617円を受領した。この和解金は、まず、本件事故日から和解金受領日までの遅延損害金に充当されるため、充当後の損害金元本は、10万3025円(=77万円-(80万0617円-13万3642円))となる。

5 結論
 よって、原告らの請求は、それぞれ上記4記載の元本及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないのでこれをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
横浜地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官 小西洋 裁判官 谷藤一弥 裁判官 門野亜美
以上:5,742文字

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