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自動車運行を前提とする囲繞地通行権を認めた差戻控訴審高裁判決紹介

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令和 6年 8月28日(水):初稿
○「囲繞地通行権と自動車運行について判断した最高裁判決紹介」の続きで、その破棄差戻控訴審判決として、平成19年9月13日東京高裁判決(判時1966号53頁、判タ1238号183頁)の関連部分を紹介します。

○控訴人宗教法人A寺を含む一審原告らが、その所有あるいは共有する一団の東側に新住宅市街地開発法に基づく都市計画事業である本件事業により設置されたK緑地が隣接しており、この緑地の中心部分に存在する自動車通行が可能な道路について自動車による通行権を求めました。

○これに対し前記差戻控訴審は、控訴人A寺所有の土地の利用につき、自動車の通行を認める必要があり、平成12年1月までは本件道路を使用して自動車により本件一団の土地に出入りすることができたこと、本件土地が公共施設内にあるとはいえ、民法210条に基づく囲繞地通行権を認められることにより、公共施設としての目的を十分に達し得ないものになるとはいえないこと等を総合考慮して、控訴人A寺が、その所有土地のために、本件土地につき、自動車による通行を前提とする210条通行権を有することを認め、原判決を変更しました。

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主   文
1 原判決中別紙物件目録記載の土地に係る通行権確認請求に関する部分を次のとおり変更する。
(データ無し)
2 控訴人ら及び参加人の被控訴人に対する上記部分に関する訴えをいずれも却下する。
3 控訴人宗教法人A寺と被控訴人引受人との間で,控訴人宗教法人A寺が,別紙物件目録記載の土地について,囲繞地通行権を有することを確認する。
4 その余の控訴人ら及び参加人の被控訴人引受人に対する請求をいずれも棄却する。
5 別紙物件目録記載の土地に係る通行権確認請求に関する部分に係る訴訟の総費用は,これを3分し,その2を控訴人宗教法人A寺を除く控訴人ら及び参加人の負担とし,その余を被控訴人及び被控訴人引受人の負担とし,補助参加によって生じた訴訟の総費用は,これを3分し,その2を控訴人宗教法人A寺を除く控訴人ら及び参加人の負担とし,その余を補助参加人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決中,別紙物件目録記載の土地に係る通行権確認請求を棄却した部分を取り消す。
2 控訴人ら及び参加人が,別紙物件目録記載の土地について,囲繞地通行権を有することを確認する。

第2 事案の概要

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 本件一団の土地及びその周辺土地の状況について


     (中略)

3 自動車による通行の必要性について
(1)控訴人A寺が,その所有土地において墓地の経営を計画して,千葉県知事から墓地経営許可を受けており,所有土地の一部が駐車場用にコンクリート舗装されている外,舗装道路が設置されていることは上記のとおりである。

 証拠(甲93,乙24,26,27)によると,控訴人A寺は,本件一団の土地のうち,控訴人A寺所有の土地に,717区画の墓地を設置するものとして,墓地の経営許可申請をし,平成13年2月から,その造成工事を開始してこれを完了していることが認められ,一般に,墓石の搬入や建墓には,トラック等が必要であるから,自動車による通行が必要であるものと推認される。また,証拠(乙26)によると,控訴人A寺は,首都圏や控訴人A寺の所有地である埼玉県深谷市の信徒及び分家者等のため,墓地を経営する計画であることが認められ,現在の自家用車の普及の程度に照らし,これらの墓地利用者が墓参のため,自家用車を使用する蓋然性は高いものというべきである。

 被控訴人らは,付近にバスの停留所や北総鉄道の小室駅があるから,徒歩による墓参が可能であり,墓地内にまで車両で進入する必要はないし,建墓も軽トラックの利用で足りると主張しており,証拠(乙23)によると,本件一団の土地の付近にバスの停留所や北総鉄道の小室駅があることが認められるが,上記停留所や駅の存在から,墓地内に車両で進入する必要がないとまではいえない。また,建墓のために,軽自動車のみの利用で足りるものともいえないから,控訴人A寺が,955番12の土地等のうち,その所有土地を利用するについては,自動車による通行を認める必要性があるものというべきである。

(2)控訴人A寺を除く控訴人らは,これまで,その所有土地を観光果樹園及びバーベキュー場として使用すると主張していたが,当審において,これを変更し,観光果樹園を兼ねた果樹園とする計画であると主張するに至った。

 証拠(甲68から78)によると,控訴人甲野三郎は、甲野一郎から相続した966番5の土地を除く土地を,参加人はその所有土地をいずれも農地法3条に基づく船橋市農業委員会の許可を得て取得していることが認められるから,これらの土地については農地として使用する以外の使用が客観的には不可能な状態にあるといえ,バーベキュー場としての使用は,そもそもその実現が客観的に可能な状態にはなかったものといえる。そして,その後に計画された観光果樹園を兼ねた果樹園についても,控訴人A寺を除く控訴人ら4名の具体的な事業内容を認めるに足りる証拠はなく,控訴人東野太郎作成の陳述書(甲82)によっても,控訴人東野太郎が,他の3名から土地を賃借してブドウ,桃,栗を植える予定であり,平成14年に植えた栗はすべて枯れてしまい,平成16年には桃を30本植えたとの記載があるが,その詳細は明らかではない。

 控訴人A寺を除く控訴人らは,果樹園の樹木や資材の運搬,工事等にトラックの出入りが必要であると主張するが,上記のとおり,果樹園の具体的規模や必要とされる工事内容が明らかではなく,果樹園として利用するために,自動車による通行の具体的必要性を認めるに足りる証拠はない。 

 したがって,控訴人A寺を除く控訴人らについて,955番12の土地等のうち,その所有土地を利用するために,自動車による通行を認める必要性があるものとはいえないものというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人A寺を除く控訴人らの引受人に対する請求は理由がない。

(3)被控訴人らは,控訴人A寺が,本件一団の土地が,自動車による通行を前提とすれば袋地であることを知りながらその所有権を取得した者であると主張している。

 確かに,証拠(甲14,80,乙27から29)によると,控訴人A寺が,本件一団の土地のうち,その所有土地の大半について,墓地用地として農地転用許可を受けて,所有権移転登記手続をしたのは,平成13年3月1日であり,墓地造成工事を行ったのは平成13年2月以降であることが認められ,これらはいずれも本件道路にポールが設置され,歩行者専用道路として自動車の通行が禁止された平成12年1月よりも後である。しかし,本件一団の土地については,当初,B寺が墓地の開発を計画しており,住職の死亡により計画が頓挫した後,控訴人A寺がこれを引き継いだこと,控訴人A寺が墓地経営許可事前申請書を千葉県知事に提出したのが平成11年3月3日であることは上記認定のとおりであり,本件道路について,平成5年度には,市道認定することが被控訴人と引受人との間で合意されており,歩行者専用道路として自動車の通行が禁止されるまで,自動車が通行していたことも上記のとおりであることを考慮すると,控訴人A寺が,自動車による通行ができないことを知りながら,本件一団の土地のうちその所有土地を取得したものとはいえない。

4 本件土地に,自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより,他の土地の所有者が被る不利益等について
(1)本件土地が,公共施設である小室4号緑地内にあることは上記認定のとおりである。
 しかし,証拠(甲18,28,55,乙15)によると,本件土地は,小室4号緑地の北西端の市道7926号線に接する部分にあり,上記市道と控訴人A寺所有の本件通路との間の不整形な形状の土地であることが認められ,その面積及び位置に照らし,本件土地に210条通行権が認められることにより,小室4号緑地の緑地としての景観保護や環境対策等の目的や機能を阻害するものとはいえず,公共用地としての機能が充分に果たせなくなるものともいえない。

(2)また,証拠(乙27)によると,墓地造成工事に際しては,鉄塔敷地である955番2の土地及び957番2の土地の一部を借用し,鉄塔の周囲に設置されている木杭を撤去して鉄板を敷き詰め,工事用車両が出入りしていたことが認められる。

 これについて,被控訴人らは,今後も鉄塔敷地を借用すべきであると主張しているが,一般に,鉄塔敷地は,鉄塔の保守点検のために必要な範囲の土地であり,鉄塔周辺の住民らの安全確保のため,鉄塔の周囲には隣接土地からの侵入を防ぐ柵やフェンス等の設備を要するものというべきであるから,短期的な工事に際して借用することが可能であったからといって,長期的に墓地の経営のために借用することが可能であるとはいえないし,墓地の管理者や利用者らの安全を確保した上で,借用することが可能であることを認めるに足りる証拠もない。

 さらに,被控訴人らは,本件一団の土地の南側にある978番3,同番1及び983番1の土地を順次通行して南側にある市道7964号線に至ることができると主張している。
 しかし,上記各土地を通行して市道7964号線に至ることができるとしても,上記各土地の通行が可能であることを認めるに足りる証拠はないから,上記被控訴人の主張は理由がない。

(3)補助参加人らは,本件土地について210条通行権が認められると,市道7926号線の車両の通行量が増え,市道7926号線の見通しが悪いため,交通事故の発生が懸念される上,お盆やお彼岸の時期には,渋滞が発生し,生活道路がふさがれ,国道16号線まで渋滞が広がる可能性があると主張している。

 証拠(甲17,18,28,35,52,93,乙22,23,32)によると,本件通路から市道7926号線に入る場合,左側の見通しはよいが,右側は,市道7926号線が湾曲していることもあって,見通しはよくないこと,市道7926号線は,本件通路との合流地点の東側で,千葉ニュータウンに面している外,国道16号線に通じる道路が分岐していることが認められる。

 また,お盆やお彼岸等墓参が集中する時期には,駐車場に入ろうとする自動車が滞留する可能性は否定できないが,これがどの程度の規模で滞留するのかを認定しうる資料は存在していないし,本件通路からの見通しがよくないとはいえ,これを改善するためのカーブミラーの設置等の方策がないわけではなく,本件通路の形状からしても,ある程度以上の速度で自動車を運行することは困難であるから,見通しがよくないことから直ちに交通事故が発生するとまではいえない。

5 以上のとおり,控訴人A寺所有の土地の利用につき,自動車の通行を認める必要性があり,平成12年1月までは本件道路を使用して自動車により本件一団の土地に出入りすることができたこと,本件土地が公共施設内にあるとはいえ,小室4号緑地の北西端に位置する約20平方メートルの土地であって,210条通行権が認められることにより,公共施設としての目的を充分に達し得ないものとはいえないことと本件土地に210条通行権が認められることにより,市道7926号線を走行する車両が増加し,その限度で,周辺住民がある程度の不利益を被ることが予測されるが,上記認定の事情を考慮すると,控訴人A寺の自動車の通行の必要性を否定すべき程度の不利益を被るものとまではいえないことを総合すると,控訴人A寺は,955番12の土地等のうちその所有土地のために,本件土地につき,自動車による通行を前提とする210条通行権を有するものというべきである。

 したがって,本件土地について,被控訴人に対し,囲繞地通行権を有することの確認を求める控訴人らの訴えは不適法であり,控訴人A寺の引受人に対する請求は理由があるが,その余の控訴人らの引受人に対する請求はいずれも理由がない。よって,原判決を変更し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 太田幸夫 裁判官 森一岳 裁判官 石栗正子)

別紙
物件目録〈省略〉
図面〈省略〉
以上:5,054文字

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