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旧優生保護法強制不妊手術除斥期間適用を排除した最高裁判決理由文紹介

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令和 6年 7月31日(水):初稿
○旧優生保護法による強制不妊手術についての国家賠償請求事件の先駆けとなった仙台弁護士会所属新里宏二弁護士提起国家賠償請求事件で一審・二審とも除斥期間を理由に請求棄却となっていたものを、国が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利濫用として許されないとした令和6年7月3日最高裁判決判断部分(LEX/DB)を紹介します。

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主   文
原判決を破棄する。
本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理   由

上告代理人新里宏二の上告受理申立て理由第4について

     (中略)

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1)改正前民法724条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、同請求権は、除斥期間の経過により法律上当然に消滅するものと解されるが、同請求権が同条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができると解するのが相当である(最高裁令和5年(受)第1319号同6年7月3日大法廷判決参照)。

(2)そこで、この点について検討する。
ア 本件請求権は、本件規定に基づいて不妊手術が行われたことを理由とする上告人らの被上告人に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権である。しかるところ、本件規定は、憲法13条及び14条1項に違反するものであったというべきであり、本件規定の内容は、国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白であったというべきであるから、本件規定に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けると解するのが相当である(前掲令和6年大法廷判決参照)。


(ア)改正前民法724条は、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図した規定であると解されるところ、上記アのとおり、立法という国権行為、それも国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害することが明白であるものによって国民が重大な被害を受けた本件においては、法律関係を安定させることによって関係者の利益を保護すべき要請は大きく後退せざるを得ないというべきであるし、国会議員の立法行為という加害行為の性質上、時の経過とともに証拠の散逸等によって当該行為の内容や違法性の有無等についての加害者側の立証活動が困難になるともいえない。そうすると、本件には、同条の趣旨が妥当しない面があるというべきである。

(イ)その上で、被上告人は、上記アのとおり憲法13条及び14条1項に違反する本件規定に基づいて、昭和23年から平成8年までの約48年もの長期間にわたり、国家の政策として、正当な理由に基づかずに特定の疾病や障害を有する者等を差別してこれらの者に重大な犠牲を求める施策を実施してきたものである。さらに、被上告人は、その実施に当たり、審査を要件とする優生手術を行う際には身体の拘束、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される場合がある旨の昭和28年次官通知を各都道府県知事宛てに発出するなどして、優生手術を行うことを積極的に推進していた。そして、上記施策が実施された結果として、少なくとも約2万5000人もの多数の者が本件規定に基づいて不妊手術を受け、これにより生殖能力を喪失するという重大な被害を受けるに至ったというのである。これらの点に鑑みると、本件規定の立法行為に係る被上告人の責任は極めて重大であるといわざるを得ない。

 また、法律は、国権の最高機関であって国の唯一の立法機関である国会が制定するものであるから、法律の規定は憲法に適合しているとの推測を強く国民に与える上、本件規定により行われる不妊手術の主たる対象者が特定の疾病や障害を有する者であり、その多くが権利行使について種々の制約のある立場にあったと考えられることからすれば、本件規定が削除されていない時期において、本件規定に基づいて不妊手術が行われたことにより損害を受けた者に、本件規定が憲法の規定に違反すると主張して被上告人に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を行使することを期待するのは、極めて困難であったというべきである。

本件規定は、平成8年に全て削除されたものの、その後も、被上告人が本件規定により行われた不妊手術は適法であるという立場をとり続けてきたことからすれば、上記の者に上記請求権の行使を期待するのが困難であることに変わりはなかったといえる。そして、上告人らについて、本件請求権の速やかな行使を期待することができたと解すべき特別の事情があったこともうかがわれない。

 加えて、国会は、立法につき裁量権を有するものではあるが、本件では、国会の立法裁量権の行使によって国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な本件規定が設けられ、これにより多数の者が重大な被害を受けたのであるから、公務員の不法行為により損害を受けた者が国又は公共団体にその賠償を求める権利について定める憲法17条の趣旨をも踏まえれば、本件規定の問題性が認識されて平成8年に本件規定が削除された後、国会において、適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講ずることが強く期待される状況にあったというべきである。

そうであるにもかかわらず、被上告人は、その後も長期間にわたって、本件規定により行われた不妊手術は適法であり、補償はしないという立場をとり続けてきたものである。本件訴えが提起された後の平成31年4月に一時金支給法が成立し、施行されたものの、その内容は、本件規定に基づいて不妊手術を受けた者を含む一定の者に対し、被上告人の損害賠償責任を前提とすることなく、一時金320万円を支給するというにとどまるものであった。

(ウ)以上の諸事情に照らすと、本件請求権が改正前民法724条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない。したがって、上告人らの本件請求権の行使に対して被上告人が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。そうすると、本件請求権は、同条後段の除斥期間の経過により消滅したとはいえない。

5 これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、上告理由及びその余の上告受理申立て理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、損害額等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官三浦守、同草野耕一の各補足意見、裁判官宇賀克也の意見がある。

 裁判官三浦守の補足意見は、次のとおりである。
 判例を変更すべき範囲等に関する私の意見については、最高裁令和5年(受)第1319号同6年7月3日大法廷判決における私の補足意見で述べたとおりである。裁判官草野耕一の補足意見は、次のとおりである。
 私は多数意見の結論及び理由の全てに賛成するものであるが、多数意見が、上告人らの本件請求権の行使に対して被上告人が除斥期間の主張をすることは信義則に反し、権利の濫用として許されない旨述べている点については、それ自体として十分に説得的であるとは思うものの、改正前民法724条の立法趣旨について考察を深めることによって一層説得的なものになると考える。そう考える理由は、最高裁令和5年(受)第1319号同6年7月3日大法廷判決における私の補足意見で述べたとおりである。

 裁判官宇賀克也の意見は、次のとおりである。
 私は、本件規定が憲法13条及び14条1項の規定に違反すると解する点、改正前民法724条後段について、期間の経過により請求権が消滅したと判断するには当事者の主張がなければならないと解すべきであり、また、その主張が信義則に反し又は権利濫用として許されない場合があり、本件はまさにかかる場合に当たるとする点については、多数意見に賛成であるが、同条後段の期間を除斥期間と解する点については、多数意見と意見を異にし、同条後段は消滅時効を定めるものと考える。その理由は、最高裁令和5年(受)第1319号同6年7月3日大法廷判決における私の意見で述べたとおりである。
(裁判長裁判官 戸倉三郎 裁判官 深山卓也 裁判官 三浦守 裁判官 草野耕一 裁判官 宇賀克也 裁判官 林道晴 裁判官 岡村和美 裁判官 安浪亮介 裁判官 渡邉惠理子 裁判官 岡正晶 裁判官 堺徹 裁判官 今崎幸彦 裁判官 尾島明 裁判官 宮川美津子 裁判官 石兼公博)


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