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パワハラ等の損害賠償債務不存在確認訴訟を却下した地裁判決紹介

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令和 6年 7月 3日(水):初稿
○相談者本人は、具体的な請求がないが、相談者が、パワハラ・セクハラしていると周辺の人に言い立てられて困っており、なんとかできませんかとの相談を受けることがたまにあります。周辺の人に言い立てている具体的事実を特定できますかと聞くと、それがハッキリしないと言う場合は、被害を受けたという本人から具体的請求があるまで待つしかないですと回答します。

○被告が原告会社の従業員からマタニティハラスメントやパワーハラスメントを受けたとして原告に対し謝罪文等を要求しているが、いずれのマタニティハラスメントやパワーハラスメントも存在しないとして、被告に対する安全配慮義務違反による債務不履行、使用者責任又は会社法350条に基づく損害賠償債務及び謝罪文の交付義務が存在しないことの確認を求める訴えを提起しました。

○被告は原告の本件訴えは,請求の特定(民事訴訟法133条2項,民事訴訟規則53条1項)を欠く不適法なものであり、且つ、訴えの利益を欠く不適法なものとして,いずれにしても却下を免れないと答弁しました。

○これについて、債務不存在確認請求訴訟であるところ、確認の訴えは権利関係の存否自体が訴訟物であるから、原告は、請求の趣旨において、権利の主体、目的物及び権利の種類に加え、その発生原因事実を明記し、他の債務から識別して、その存否が確認しうる程度に特定の上で請求することを要するが、原告は、行為者の職業上の地位、年齢、行為者と被害を訴えている者(被告)が担当する各職務の内容や性質行為の日時・場所等の特定をしないから、特定を欠くと言わざるを得ず、その余の点につき判断するまでもなく、原告の被告に対する訴えは、いずれも不適法であるとして却下した令和4年2月10日横浜地裁相模原支部判決(労働判例1268号68頁)関連部分を紹介します。

○まだ具体的請求がない時点で、先手を打っての確認請求訴訟でしたが、やはり、被害を受けたと称する人が、パワハラ・セクハラ等で損害を受けたと具体的請求をしてくるまで待つべきでした。

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主   文
1 原告の訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求等

1 原告の被告に対する別紙発言目録記載の発言を理由とする損害賠償債務が存在しないことを確認する。
2 原告の被告に対する平成27年4月から平成30年4月までの間に行われた原告会社社員Aによる優越的な関係を背景とする業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動による損害賠償債務が存在しないことを確認する。
3 原告の被告に対する別紙発言目録記載の発言を理由とする謝罪文を交付する義務が存在しないことを確認する。

第2 事案の概要等
1 本件は,原告が,被告が原告の従業員からマタニティハラスメントやパワーハラスメント(以下あわせて「パワハラ等」という。)を受けたとして原告に対し謝罪文等を要求しているが,いずれのパワハラ等も存在しないとして,原告の被告に対する上記パワハラ等にかかる安全配慮義務違反による債務不履行,使用者責任又は会社法350条に基づく損害賠償債務及び謝罪文の交付義務が存在しないことの確認を求める事案である。

2 前提事実(争いがないか,後掲の証拠(特記しない限り枝番含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。)
(1)当事者等
ア 原告は,建築リフォーム等を業とする株式会社である。
イ 被告は,原告の従業員である。
ウ 訴外A(以下「訴外A」という。)は,原告の従業員で被告の上司である。

(2)訴訟等
ア 不当労働行為救済命令申立
 被告加入の労働組合が,原告を被申立人として,原告が,被告と同労働組合との団体交渉に誠実に応じないこと等を理由に不当労働行為救済命令を申し立てた(甲12。以下単に「救済命令申立」という。)。
イ 損害賠償請求訴訟
 訴外Aが,被告に対し,被告が訴外Aをパワハラ行為等を行った者と名指しした行為等が名誉棄損に当たる等として,損害賠償(慰謝料)を求める訴訟を提起した(甲16。以下「別件訴訟」という。)。

3 争点及び争点に対する当事者の主張の要旨
(1)請求の不特定による訴えの却下

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(請求の不特定による訴えの却下)について

(1)訴訟においては,その審理判断の対象が明確になるよう,請求の特定を要する(民事訴訟法133条2項,民事訴訟規則53条1項)。本件は債務不存在確認請求訴訟であるところ,確認の訴えは権利関係の存否自体が訴訟物であるから,対象となる権利が債権(債務)である場合,原告は,請求の趣旨において,権利の主体,目的物及び権利の種類に加え,その発生原因事実を明記し,他の債務から識別して,その存否が確認しうる程度に特定の上で請求することを要すると解される。

(2)本件は,原告が,原告の従業員による被告に対するパワハラ等(不法行為)は存在しないとして,原告の被告に対する上記パワハラ等にかかる安全配慮義務違反による債務不履行,使用者責任又は会社法350条に基づく損害賠償債務及び謝罪文の交付義務が存在しないことの確認を求めるという事案である。

 パワハラ等が不法行為に該当するか否かは,行われた日時場所,行為態様や行為者の職業上の地位,年齢,行為者と被害を訴えている者が担当する各職務の内容や性質,両者のそれまでの関係性等を請求原因事実として主張して当該行為を特定し,行為の存否やその違法性の有無等を検討することにより判断されることとなる。

ア 原告は,「原告の被告に対する別紙発言目録記載の発言を理由とする損害賠償債務が存在しないこと」の確認を求めるが(請求の趣旨1),別紙発言目録を見るに,発言時期,発言者,発言内容を記載しているようではあるものの,発言時期については,令和元年4月と記載されているのみで,日時の記載はない。全く同じ発言内容であっても,日にち等が異なるという場合,それぞれ別の行為として不法行為(パワハラ等)該当性の判断をすることとなる。また,同目録には,発言者の氏名と発言内容が記載されているのみで,職務内容や地位,行為の態様等は全く不明である。
 以上のとおり,請求の趣旨1については,他の債務から識別して,その存否が確認しうる程度に特定がされていると認めることは困難と言わざるを得ない。

イ 次に,原告は,「原告の被告に対する平成27年4月から平成30年4月までの間に行われた訴外Aによる優越的な関係を背景とする業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動による損害賠償債務が存在しないこと」の確認を求めるが(請求の趣旨2),3年にも及ぶ期間を特定するのみで年月日の特定はなく,具体的な言動の特定も,優越的な関係についての具体的な記載もないから,請求の趣旨1にも増して,その存否や不法行為(パワハラ等)該当性をいかに審理判断すればよいのか不明と言わざるを得ない。

 以上のとおり,請求の趣旨2については,他の債務から識別して,その存否が確認しうる程度に特定がされていると認めることは,およそできない。

ウ さらに,原告は,「原告の被告に対する別紙発言目録記載の発言を理由とする謝罪文を交付する義務が存在しないこと」の確認を求めるが(請求の趣旨3),上記アで述べたとおり,別紙発言目録記載の内容では行為の特定が不十分であり,謝罪文の前提となる行為が不明と言わざるを得ないから,請求の趣旨3についても,他の債務から識別して,その存否が確認しうる程度に特定がされていると認めることはできない。

エ なお,原告は,債務不存在確認請求訴訟において審理対象とされた不法行為の存否の特定の程度は,不法行為の存在を主張する被告の主張の具体性との相関関係で決せられるもので,ある権利を主張する者の主張内容が曖昧であれば,これについて債務不存在確認請求という形で審理を求めた場合,特定性の要件は緩和されると主張する。

 たしかに,債務不存在確認請求の訴えにおいて,権利を主張する者の主張内容によっては,その請求の趣旨の特定を細かく行い難くなること(例えば日時については年月日頃という以上に特定ができない等)はあると思われるが,だからといって,特定の程度が直ちに緩和されるわけではない。本件についてみれば,行為者の職業上の地位,年齢,行為者と被害を訴えている者(被告)が担当する各職務の内容や性質等を原告が特定して主張することは可能と解されるし,行為の日時・場所についても「月」までの特定ではなく「日」(最低でも何日頃)の特定をした上で社内でのことなのか社外でのことなのか等の特定は可能と解されるが,原告は,これらの特定をしないから,その請求は,やはり特定を欠く(他の債務から識別して,その存否が確認しうる程度の特定がない)と言わざるを得ない。

2 以上のとおりであるから,その余の点につき判断するまでもなく,原告の被告に対する本件訴えは,いずれも不適法であるから,いずれも却下することとして,主文のとおり判決する。
横浜地方裁判所相模原支部 裁判官 高宮園美

(別紙)発言目録
以上:3,760文字

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