仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 法律その他 > 憲法 >    

日本国憲法第53条臨時会召集について判断した最高裁判決紹介

法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 6年 6月25日(火):初稿
○判例時報最新号の令和6年6月21日号に、憲法53条後段の規定により国会の臨時会の召集を決定することの要求をした国会議員は内閣による前記の決定の遅滞を理由として国家賠償請求をすることができるか(消極)とした令和5年9月12日最高裁判決(判時2590号50頁)が掲載されていたので紹介します。

○憲法は、受験時代は最重要科目で全文一字一句漏らさず暗記していたのですが、実務家になってからは殆ど使うことはなく、読むこともなくなって完全に忘却の彼方です。立憲民主党参議院議員小西洋之氏が訴えた憲法の条文は以下の通りです。

日本国憲法第53条
 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。


○この憲法53条後段の規定により、内閣に対し、国会の臨時会の召集を決定を要求した参議院議員の一人である上告人(原告・控訴人)小西洋之氏が、被上告人(被告・被控訴人。国)に対し、
〔1〕主位的に、上告人が次に参議院の総議員の4分の1以上の議員の一人として国会法3条所定の手続により臨時会召集決定の要求をした場合に、内閣において、20日以内に臨時会が召集されるよう臨時会召集決定をする義務を負うことの確認を、予備的に、上記場合に、上告人が20日以内に臨時会の召集を受けられる地位を有することの確認を求めるとともに、
〔2〕内閣が臨時会召集決定の要求から92日後まで臨時会召集決定をしなかったことが違憲、違法であり、これにより、上告人が自らの国会議員としての権利を行使することができなかったなどとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めました。

○第1審令和3年3月24日東京地裁判決は確認訴訟部分に係る各訴えを不適法として却下し、国賠請求部分に係る請求を棄却し、控訴審令和4年2月21日東京高裁判決は控訴を棄却したため、上告人小西洋之参議院議員が上告及び上告受理申立てをしていました。

○上告審最高裁判決は、上告理由(憲法53条後段の解釈の誤りをいう部分に限る。)及び上告受理申立て理由中、本件各確認の訴えの適否に係る部分、及び、本件損害賠償請求に係る部分について、本件各確認の訴えは、法律上の争訟に当たるというべきであり、臨時会召集要求がされた場合には、内閣が臨時会召集決定をする義務を負うこととしたものと解されるとして、これと異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるとしながら、結論においては、原審の判断は是認することができるとし、その余の上告理由については、民事訴訟法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しないとして、上告を棄却しました。

************************************************

主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人伊藤真ほかの上告理由及び上告受理申立て理由について
第1 事案の概要
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 参議院の総議員の4分の1以上である72名の議員は、平成29年6月22日、憲法53条後段の規定により、内閣に対し、国会の臨時会の召集を決定すること(以下「臨時会召集決定」という。)を要求した。
 内閣は、同年9月22日、臨時会(第194回国会)を同月28日に召集することを決定した。同日、第194回国会が召集されたが、その冒頭で衆議院が解散され、参議院は同時に閉会となった。

2 本件は、上記1の要求をした参議院議員の一人である上告人が、被上告人に対し、〔1〕主位的に、上告人が次に参議院の総議員の4分の1以上の議員の一人として国会法3条所定の手続により臨時会召集決定の要求(以下「臨時会召集要求」という。)をした場合に、内閣において、20日以内に臨時会が召集されるよう臨時会召集決定をする義務を負うことの確認を、予備的に、上記場合に、上告人が20日以内に臨時会の召集を受けられる地位を有することの確認を求める(以下、これらの請求に係る訴えを「本件各確認の訴え」という。)とともに、〔2〕内閣が上記1の要求から92日後まで臨時会召集決定をしなかったことが違憲、違法であり、これにより、上告人が自らの国会議員としての権利を行使することができなかったなどとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める(以下、この請求を「本件損害賠償請求」という。)事案である。

第2 上告理由(憲法53条後段の解釈の誤りをいう部分に限る。)及び上告受理申立て理由中、本件各確認の訴えの適否に係る部分について
1 原審は、臨時会召集要求は国会議員が国の機関として有する権限を行使するものであり、個々の国会議員が臨時会召集要求に係る権利を有しているということはできないから、本件各確認の訴えは、国会議員が上記権限の侵害を理由とするものであって自己の権利又は利益の保護救済を目的とするものではないというべきであり、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟には当たらないと判断して、本件各確認の訴えを却下すべきものとした。

2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 本件各確認の訴えは、上告人が、個々の国会議員が臨時会召集要求に係る権利を有するという憲法53条後段の解釈を前提に、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、上告人を含む参議院議員が同条後段の規定により上記権利を行使した場合に被上告人が上告人に対して負う法的義務又は上告人が被上告人との間で有する法律上の地位の確認を求める訴えであると解されるから、当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であって、法令の適用によって終局的に解決することができるものであるということができる。そうすると、本件各確認の訴えは、法律上の争訟に当たるというべきであり、これと異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。

3 もっとも、本件各確認の訴えは、将来、上告人を含む参議院議員が憲法53条後段の規定により臨時会召集要求をした場合における臨時会召集決定の遅滞によって上告人自身に生ずる不利益を防止することを目的とする訴えであると解されるところ、将来、上告人を含む参議院の総議員の4分の1以上により臨時会召集要求がされるか否かや、それがされた場合に臨時会召集決定がいつされるかは現時点では明らかでないといわざるを得ない。

 そうすると、上告人に上記不利益が生ずる現実の危険があるとはいえず、本件各確認の訴えは、確認の利益を欠き、不適法であるというべきであるから、これを却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない事項についての違憲、違法をいうものにすぎず、採用することができない。

第3 上告理由(憲法53条後段の解釈の誤りをいう部分に限る。)及び上告受理申立て理由中、本件損害賠償請求に係る部分について
1 憲法は、国会について会期制を採用し、内閣がその召集を実質的に決定する権限を有するものとした上で、52条、53条及び54条1項において、常会、臨時会及び特別会の召集時期等について規定している。そのうち憲法53条は、前段において、内閣は、臨時会召集決定をすることができると規定し、後段において、いずれかの議院の総議員の4分の1以上による臨時会召集要求があれば、内閣は、臨時会召集決定をしなければならない旨を規定している。

これは、国会と内閣との間における権限の分配という観点から、内閣が臨時会召集決定をすることとしつつ、これがされない場合においても、国会の会期を開始して国会による国政の根幹に関わる広範な権能の行使を可能とするため、各議院を組織する一定数以上の議員に対して臨時会召集要求をする権限を付与するとともに、この臨時会召集要求がされた場合には、内閣が臨時会召集決定をする義務を負うこととしたものと解されるのであって、個々の国会議員の臨時会召集要求に係る権利又は利益を保障したものとは解されない。

 所論は、国会議員は、臨時会が召集されると、臨時会において議案の発議等の議員活動をすることができるというが、内閣は、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求があった場合には、臨時会召集要求をした国会議員が予定している議員活動の内容にかかわらず、臨時会召集決定をする義務を負い、臨時会召集要求をした国会議員であるか否かによって召集後の臨時会において行使できる国会議員の権能に差異はない。

そうすると、同条後段の規定上、臨時会の召集について各議院の少数派の議員の意思が反映され得ることを踏まえても、同条後段が、個々の国会議員に対し、召集後の臨時会において議員活動をすることができるようにするために臨時会召集要求に係る権利又は利益を保障したものとは解されず、同条後段の規定による臨時会召集決定の遅滞によって直ちに召集後の臨時会における個々の国会議員の議員活動に係る権利又は利益が侵害されるということもできない。

 以上に説示したところによれば、憲法53条後段の規定による臨時会召集決定の遅滞により、臨時会召集要求をした国会議員の権利又は法律上保護される利益が侵害されるということはできない。


2 したがって、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求をした国会議員は、内閣による臨時会召集決定の遅滞を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることはできないと解するのが相当である。
 以上によれば、本件損害賠償請求を棄却した原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。

第4 その余の上告理由について
 論旨は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠くものであって、民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
 よって、裁判官宇賀克也の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 
以上:4,127文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 法律その他 > 憲法 > 日本国憲法第53条臨時会召集について判断した最高裁判決紹介