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小学校教諭の児童に対する行為及び発言に国賠責任を認めた地裁判決紹介

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令和 6年 6月11日(火):初稿
○判例時報令和6年6月1日号に、小学校の教諭の行為及び発言が、いずれも教諭が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱したものであるとして、国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例として、令和5年2月10日熊本地裁判決が掲載されていました。その関連部分を紹介します。

○小学6年生だった原告が、被告熊本市設置小学校クラス担任B教諭から
(1)原告の腕を強く掴み正面から首元を掴んで教室の壁方向に押しやる行為(本件行為)を受けたこと、
(2)同クラスの児童全員の前で、
〔1〕「お前ははっきり言ってクソだ。」、
〔2〕「もう学校に来なくていい。」、
〔3〕「もう原告とは話すな。」「もう原告とは関わるな。」「友達を選びなさい。本当にこの人といたら楽しい、安心できるという友達と過ごしなさい。」、
〔4〕「親に言っても無駄だ。俺は撤回しないから。」
と言われたこと(本件発言)
について、いずれも違法な行為であるなどと主張して、被告熊本市に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料250万円と弁護士費用合計275万円の支払を求めました。

○被告熊本市は、本件行為・本件発言、いずれも遺憾なものとしながら、いずれも教育的指導の一環で、指導中の出来事と評価されるべきで国賠法上の違法性はないと答弁していました。

○これに対し、熊本地裁判決は、B教諭の本件発言は、原告を侮辱する内容、原告を小学校生活から排除する内容、親権者らへの口封じを内容とするものであって、これらの発言により、肉体的・精神的に未熟な小学生である原告の心を深く傷つけたであろうことは想像に難くないばかりか、クラス担任であるB教諭が、原告の同級生である児童らの面前で本件発言をすれば、当該児童らにおいて、原告に対して友人として接することが困難となり、原告自身がクラス全員から仲間外れにされる危険性もあったことからすると、本件発言が原告に対して及ぼす不利益が非常に大きなものであったことは明白であり、教諭が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱したことは明らかであるとして慰謝料等12万1000円の支払を命じました。

○認容金額は僅少で原告は不満と思われますが、B教諭の行為が違法と評価されたことが重要です。慰謝料はもう少し認めても良さそうな気がしますが。

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主   文
1 被告は、原告に対し、12万1000円及びこれに対する令和2年11月11日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを22分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨

 被告は、原告に対し、275万円及びこれに対する令和2年11月11日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、当時通っていた被告が設置する小学校において、原告のクラスの担任であったB教諭(以下「B教諭」という。)から、(1)原告の腕を強く掴み正面から首元を掴んで教室の壁方向に押しやる行為(以下「本件行為」という。)を受けたこと、(2)同クラスの児童全員の前で、〔1〕「お前ははっきり言ってクソだ。」、〔2〕「もう学校に来なくていい。」、〔3〕「もう原告とは話すな。」「もう原告とは関わるな。」「友達を選びなさい。本当にこの人といたら楽しい、安心できるという友達と過ごしなさい。」、〔4〕「親に言っても無駄だ。俺は撤回しないから。」と言われたこと(以下〔1〕~〔4〕の発言を合わせて「本件発言」といい、個別の発言については、上記の数字に応じて「本件発言〔1〕」などという。)が、いずれも違法な行為であるなどと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料等の損害合計275万円及びこれに対する本件行為の後であり本件発言の日である令和2年11月11日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)当事者等
ア 原告
 原告は、令和3年3月までの間、熊本市内の小学校(以下「本件小学校」という。)に在籍しており、本件行為及び本件発言時、本件小学校に6年生として在籍していた者である(争いなし)。
イ B教諭
 B教諭は、熊本市の公務員(教諭)であり、本件小学校において、原告の在籍するクラスの担任をしていた者である(争いなし)。
ウ 被告
 被告は、B教諭を使用する地方公共団体である(争いなし)。

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

(1)本件行為の経緯及びその態様

     (中略)

2 争点(1)(本件行為及び本件発言の国家賠償法1条1項上の違法性及び故意又は過失の有無)について
(1)違法性
ア 判断枠組み
 国家賠償法1条1項にいう「違法」とは、国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいうから、公務員である教諭が児童に対してした行為については、その行為の目的、態様等に照らして、教諭が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱したと認められる場合に、当該教諭が当該児童に対して負担する職務上の法的義務に違反したものとして、国家賠償法1条1項上、違法と判断されるというべきである。

イ 本件行為について
 本件行為は、クラスの実行リーダーであった原告が、修学旅行に際し、同クラスの児童全員に課された目標枚数の折り鶴のうち3羽を折らず、友人と遊ぶために帰宅しようとしたため、B教諭が、その帰宅を制止しようとして行われた行為であり(前提事実(2)、認定事実(1))、原告に課された目標枚数の折り鶴を提出させることを目的とするものであるから、当該行為の目的自体は、生徒指導の一環として不合理なものとはいえない。

 しかしながら、B教諭は、折り鶴を作成したがなくなったという原告の弁解に対し、「ないわけないやろ、おまえがちゃんとさがさんけんた。」と叫ぶなどしており、B教諭においてある程度は興奮した状態にあったと考えられる上、教室の扉付近にいた原告の背後から、右手で、原告の左手首を掴み、原告を教室に引き戻した上、原告と正対し、その首元を掴んだ上、原告を窓側にあった原告の席の近くまで押しており、原告が当時、小学校6年生であったにもかかわらず、5メートル程度の距離を押されて後退していることに照らすと、B教諭において原告をその意思に反してと押しやる程度の強い力で押したものと認められる(前提事実(2)、認定事実(1))。そうすると、B教諭による上記の行為は、原告の身体に対して危害を加える危険性のある有形力の行使であるとともに、原告を制止する必要まではないとはいえないとしても、その手段の必要性や相当性との関係では、翌日に他の児童の協力を得て、原告に折り鶴を折らせるなどの措置をとるなどの方法が考えられることからすると、当該時点において本件行為を行わなければならない必要性や相当性も乏しいから、生徒指導の一環である行為としては、行過ぎたものであったといわざるを得ず、教諭が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱したものと認められる。
 そうすると、B教諭は、原告に対して負担する職務上の法的義務に違反したものといえるから、B教諭の行った本件行為は、国家賠償法1条1項上、違法である。

ウ 本件発言について
 本件発言は、B教諭が、当該女子児童らをバレーボールの遊びから仲間外れにしたのは原告であると判断した上、原告を含むクラスの児童全員の前で本件発言をしたものであり(前提事実(3)、認定事実(2))、本件発言の内容が原告を侮辱するもの(本件発言〔1〕)や原告を学校生活から排除するもの(本件発言〔2〕及び本件発言〔3〕)、本件発言〔1〕ないし本件発言〔3〕について原告に対して親権者への口封じをするもの(本件発言〔4〕)であることに照らすと、仲間外れがいけないことであるとの生徒指導を目的として6時限目の授業が開始されたとしても、遅くとも本件発言がされた時点においては、原告の態度に憤慨したB教諭において感情の赴くままに本件発言に及んだものと認められ、その目的自体が不合理なものであるから、本件発言については生徒指導の一環としてされたものと評価することはできない。そして、B教諭の本件発言は、上述のとおり、本件発言〔1〕が原告を侮辱する内容であり、本件発言〔2〕及び〔3〕が原告を小学校生活から排除する内容であり、本件発言〔4〕が親権者らへの口封じを内容であって、これらの発言により、肉体的・精神的に未熟な小学生である原告の心を深く傷つけたであろうことは想像に難くないばかりか、クラス担任であるB教諭が、原告の同級生である児童らの面前で本件発言をすれば、当該児童らにおいて、原告に対して友人として接することが困難となり、原告自身がクラス全員から仲間外れにされる危険性もあったことからすると、本件発言が原告に対して及ぼす不利益が非常に大きなものであったことは明白であり、教諭が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱したことは明らかである。

(2)故意又は過失
ア 本件行為について
 上記(1)イのとおり、本件行為の目的自体は不合理なものとはいえず、その態様等が教育的指導の範囲を逸脱したものであることからすれば、B教諭は、原告の権利を侵害するという結果の発生を予見することが可能な状況の下、職務上の法的義務に違反して本件行為に及んだものであって、過失が認められる。しかし、違法に原告の権利を侵害することを認識していたとまでは認め難く、故意までは認められない。

イ 本件発言について
 上記(1)ウのとおり、B教諭が本件発言を生徒指導としてではなく、感情の赴くままに行ったことや上記(1)で述べた本件発言の内容に照らすと、B教諭は、違法に原告の権利を侵害することを認識しながら本件発言に及んだものと推認され、仮にそうでないとしても、原告の権利を侵害するという結果の発生を予見することが可能な状況の下、職務上の法的義務に違反して本件発言をしたものであって、過失が認められることは明らかである。

3 争点(2)(損害の発生の有無及びその額)について
(1)本件行為 1万円
 上記2のとおり、本件行為は、原告の身体に対して危害を加える危険性のある有形力の行使であるとともに、その目的との関係では、その当時に本件行為に及ぶべき合理性、必要性、相当性があったとは認められない。そして、これにより肉体的・精神的に未熟な小学生であった原告に対して一定の肉体的、精神的苦痛を負わせたものということができる。

 もっとも、B教諭が本件行為に及んだのは、クラスの実行リーダーであった原告が、同クラスの児童全員に課された目標枚数の折り鶴のうち3羽を折らず、友人と遊ぶために帰宅しようとしたため、その帰宅を制止し、原告に課された目標枚数の折り鶴を提出させようとしたところにあり、その目的自体は生活指導の一環として不合理なものとはいえないこと、本件行為が単発的、一回的な行為であること、本件校長が、説明会を開催し、原告及びその親権者らに経緯説明と謝罪を行っていること(前提事実(4))、原告自身も、本件行為後、本件小学校に欠席することなく登校し(認定事実(4))、B教諭が体育の授業を担当することについて拒絶した事実も見受けられないこと(認定事実(3))などの事情を総合的に考慮すると、本件行為に関する慰謝料として、1万円を認めるのが相当である。

(2)本件発言 合計10万円
 本件発言は、B教諭により、同一の機会に一連の発言としてされたものであるから、本件発言による慰謝料を検討するに当たっても、個々の発言についての慰謝料を検討するのではなく、一連のものとして取り扱うのが相当である。
 上記2のとおり、本件発言は、原告を含むクラスの児童全員の前で、指導としてではなく、感情の赴くままに行われた不合理なものであり、上記2(2)イで述べたとおり、違法に原告の権利を侵害することを認識しながら行われた行為であると推認できることなども踏まえると、これにより小学生であった原告の心が傷つけられ、一定の精神的苦痛を負わせたものと認められる。そうすると、B教諭が本件発言に至った発端は、原告を含む男子児童らが女子児童らをバレーボールの遊びに入れなかったことについての生徒指導であり、本件発言自体が継続的に行われたものではなく、同一の機会における一連の発言であること(前提事実(3)、認定事実(2))、本件校長が、本件発言があった翌日に原告の両親に対して本件発言についての謝罪をするとともに、個別に、原告に対しても謝罪をした上、令和2年12月4日には説明会を開催し、経緯説明と謝罪を行い、本件発言により原告が受けた被害が比較的早期に一定の範囲で回復していると評価し得ること(前提事実(4))、B教諭自身も原告、その親権者ら及びクラス全員の前で謝罪を行い(認定事実(3))、原告が本件発言後に本件小学校を1日欠席した以外は登校していること(認定事実(4))、B教諭が体育の授業を担当することについて拒絶した事実も見受けられないこと(認定事実(3))などの事情を総合的に考慮すると、本件発言(〔1〕~〔4〕)に関する慰謝料としては、合計10万円を認めるのが相当である。

(3)弁護士費用 1万1000円
 本件事案の内容、認容額等に照らせば、本件行為及び本件発言と相当因果関係のある弁護士費用は、1万1000円と認める。

第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、12万1000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、仮執行宣言はその必要性がないから付さないこととして、主文のとおり判決する。
熊本地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官 品川英基 裁判官 細井直彰 裁判官 工藤優輔
以上:5,814文字

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