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水漏れ事故による転居・仮住まい等に慰謝料支払を認めた地裁判決紹介

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令和 5年12月26日(火):初稿
○マンション居住者の原告らが、給排水管の保存の瑕疵により漏水事故を発生させて自室に漏水被害を与えた上、長期間にわたり漏水原因の調査及び漏水箇所の補修を行わなかったことにより原告らの損害を拡大させたとして、不法行為(民法709条、717条1項、719条1項)による損害賠償請求として、原告らに慰謝料等の請求をしました。

○これに対し、原告らは、長期間にわたり、仮住まいによる不便な生活を続けざるを得なかったことや、原告X1は、本件漏水事故発生当時、胆嚢結石症及び壊死性膵炎の治療中で、平成31年1月に手術を予定していたところ、本件漏水事故による心身の負担もあって、同年3月に手術を延期せざるを得なかったこと、原告X2は、甲状腺癌等の複数の病歴があり、本件漏水事故当時も投薬治療を受けていたところ、本件漏水事故後、引越作業による肩の痛みや不眠症状の悪化がみられるなど、本件漏水事故への対応が心身への大きな負担となったことなどから、それぞれに金100万円の慰謝料支払を命じた令和4年9月22日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○水漏れ事故で転居を余儀なくされこの精神的苦痛についての慰謝料請求をしている事案を抱えており、参考になる判例でした。

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主   文
1 被告らは、原告X1に対し、各自603万9166円及びこれに対する平成30年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告X2に対し、各自110円〈原文ママ〉及びこれに対する平成30年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを5分し、その2を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告らは、原告X1に対し、各自922万8163円及びこれに対する平成30年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告X2に対し、各自220万円及びこれに対する平成30年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、マンション5階の503号室の共有者で居住者である原告らが、6階の603号室の共有者である被告Y1及び被告Y2並びに居住者である被告Y3に対し、被告らが、603号室の給排水管の保存の瑕疵により漏水事故を発生させて503号室に漏水被害を与えた上、長期間にわたり漏水原因の調査及び漏水箇所の補修を行わなかったことにより原告らの損害を拡大させたなどと主張して、不法行為(民法709条、717条1項、719条1項)による損害賠償請求として、原告X1につき922万8163円、原告X2につき220万円、及びこれらに対する不法行為後の日(漏水事故発覚日)である平成30年12月20日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

     (中略)

2 争点

     (中略)

(2) 原告らの損害
(原告らの主張)
ア 原告X1

(ア) 仮住まい費用等 637万8163円
 別紙損害明細その1及びその2のとおり。

(イ) 慰謝料 200万円
 本件漏水事故の被害は著しく、503号室は、リビングを中心にほぼ全室の天井、床、壁が水損して使用不能となった。原告X1は、高齢で、胆嚢結石症、壊死性膵炎の治療中であったが、年末の急な転居による心身の負担が大きく、平成31年1月に予定していた手術を同年3月に延期せざるを得なかった。原告X1は、年末という節目の時期に突然平穏な住環境を奪われ、自宅にて新年を迎えることができず、その後も、責任逃れに終始する被告らの不誠実かつ悪質な態度により、長期間にわたる仮住まい生活で様々な不便を強いられ、多大な精神的苦痛を被った。原告X1の上記精神的苦痛に対する相当な慰謝料額は200万円を下らない。

(ウ) 弁護士費用 85万円

(エ) 合計 合計922万8163円

イ 原告X2
(ア) 慰謝料 200万円
 本件漏水事故の被害が著しいこと、被告らの不誠実かつ悪質な態度により長期間にわたる仮住まい生活で様々な不便を強いられたことは上記ア(イ)と同様である。原告X2は、高齢で、過去に甲状腺癌、子宮腺筋症、卵巣嚢腫に罹患し、10種類上の投薬治療を受けていたところ、年末の急な転居による心身の負担が大きく、首ヘルニアの疑い及び不眠症状の悪化による投薬治療も受けるようになった。原告X2は、本件漏水事故及びその後の被告らの態度により多大な精神的苦痛を被っており、これに対する相当な慰謝料額は200万円を下らない。

 (イ) 弁護士費用 20万円

 (ウ) 合計 220万円

(被告らの主張)
 否認ないし争う。

第3 争点に対する判断
1 認定事実

前提事実、証拠(甲5、10ないし15、40ないし51、53、56、57、59、63ないし68、81、82、乙1ないし12、16ないし22、丙1ないし6、丁1ないし6、原告X1本人、原告X2本人、被告Y3本人。書証は特記しない限り枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 本件漏水事故の発生等
ア 原告らは、平成9年4月に本件マンション5階の503号室を購入し、その頃以降、同室に居住していた。平成30年12月当時、503号室の直上にある6階の603号室は、被告Y3が住居として使用し、直下にある4階の403号室は、A弁護士(以下「A弁護士」という。)が法律事務所として使用していた。なお、原告X1と被告Y3は、いずれも一級建築士の資格を有している。(甲5)

イ 平成30年12月19日夜、A弁護士は、403号室玄関内の天井からの漏水を発見し、管理会社であるA株式会社(以下「A」という。)に通報して対応を依頼した。翌20日午後4時頃、Aから調査依頼を受けたココプラントのBが503号室を訪問したが、原告らは旅行中であったため、室内を確認することはできなかった。(甲44、丙4)

ウ 平成30年12月20日午後6時10分頃、原告X2が帰宅して503号室に入ると、室内(間取りは別紙図面のとおり)は、天井からの漏水により、リビング天井の照明カバーからは水が溢れ、床の絨毯は水浸しで、リビングと台所が接する部分の床には水たまりができている状態であった。原告X2は、原告X1及びAに連絡し、同日午後7時前頃、原告X1が帰宅した。原告らは、603号室に赴いてインターホンを鳴らしたりドアを叩いたりしたが、応答がないため、住人の身に何かあったのではないかと思い、同日午後7時34分頃に110番通報した。

 同日午後8時頃までに、Aの依頼を受けたココプラントのBのほか、警察官、消防隊員及び東京電力の担当者らが現場に到着した。警察官らが603号室に赴いて室内に向かい呼びかけたところ、在室していた被告Y3が応答したため、警察官らは、503号室の状況を説明して、調査のため入室させるよう要請した。ところが、被告Y3は、室内では漏水は発生していないなどとして警察官らの入室を拒否し、室内を撮影してその写真を警察官らに示すなどした。警察官らの説得により、被告Y3が水道の元栓を閉めることには応じたことから、同日午後9時頃までに、Bによって603号室の元栓が閉められ、翌21日午後3時以降に室内の調査を行うこととなった。
 503号室は漏電のため停電していたが、原告らは、翌21日午前3時頃まで、室内の水の処理作業等を行った。(甲10、42ないし44、乙9)

エ 平成30年12月21日午後3時頃から、ココプラントのC(以下「C」という。)及びDにより、403号室、503号室及び603号室の調査(本件調査①)が行われた。Cらが603号室の給水管の耐圧試験を実施したところ、瞬時圧の低下が認められ、給水管からの漏水が推定された。漏水箇所を具体的に特定するためには、壁や床の開口調査を行う必要があったが、室内に大量の荷物があり、開口調査の実施が困難であったため、被告Y3が室内の荷物を片付けた上、再度、年明けに漏水箇所の調査及び補修を行うこととなり、それまでは元栓の閉鎖を継続することとなった。(甲44、68、丙4)

オ 平成30年12月23日頃までに503号室天井からの漏水は収まったが、漏水の被害は503号室のほぼ全室に及び、503号室は使用不能となった。そのため、原告らは、同月21日以降、近隣のホテルに滞在し、平成31年1月10日以降は、仮住まいの貸室(賃料等月額16万円)を賃借して、同所に転居した。原告らは、503号室からホテルに移動するに当たり、被告Y3に対し、漏水原因の調査が終了しなければ503号室に戻れない旨伝え、早急に調査を実施するよう求めた。一方、被告Y3も、平成30年12月28日にマンスリーマンションを賃借し、その頃、同マンションに転居した(甲10、14、15、68、乙10)。

     (中略)

3 争点(2)(原告らの損害)について
(1) 原告X1

ア 仮住まい費用等 合計448万9166円

     (中略)

イ 慰謝料 100万円
 上記認定のとおり、本件漏水事故により503号室は使用不能になるほどの大きな被害を受け、原告X1は、原告X2とともに、503号室からの転居を余儀なくされた。その後も、被告らが早期に603号室の調査及び補修を行わなかったことにより、長期間にわたり、仮住まいによる不便な生活を続けざるを得なかった。さらに、原告X1は、本件漏水事故発生当時、胆嚢結石症及び壊死性膵炎の治療中で、平成31年1月に手術を予定していたところ、本件漏水事故による心身の負担もあって、同年3月に手術を延期せざるを得なかった(甲55、56、原告X1本人)。これらの事情を考慮すると、原告X1は、本件漏水事故及びその後の被告らの対応により多大な精神的苦痛を被ったと認められ、これに対する慰謝料額は100万円と認めるのが相当である。

ウ 弁護士費用 55万円
 上記損害額、本件事案の内容及び審理経過等の諸事情を考慮すると、弁護士費用相当の損害額は55万円と認めるのが相当である。

エ 合計 合計603万9166円

(2) 原告X2
ア 慰謝料 100万円
 原告X2は、原告X1と同様に、503号室からの転居を余儀なくされ、長期間にわたり、仮住まいによる不便な生活を続けざるを得なかった。さらに、原告X2は、甲状腺癌等の複数の病歴があり、本件漏水事故当時も投薬治療を受けていたところ、本件漏水事故後、引越作業による肩の痛みや不眠症状の悪化がみられるなど、本件漏水事故への対応が心身への大きな負担となったことが認められる(甲58、59、84、原告X2本人)。これらの事情を考慮すると、原告X2は、本件漏水事故及びその後の被告らの対応により多大な精神的苦痛を被ったと認められ、これに対する慰謝料額は100万円と認めるのが相当である。

イ 弁護士費用 10万円
 上記損害額、本件事案の内容及び審理経過等の諸事情を考慮すると、弁護士費用相当の損害額は10万円と認めるのが相当である。

ウ 合計 110万円

第4 結論
 よって、原告らの請求は、民法709条、717条1項、719条1項に基づき、原告X1につき603万9166円、原告X2につき110万円、及びこれらに対する平成30年12月20日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第42部 (裁判官 澤田順子)
以上:4,915文字

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