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コロナ対策のマスク不着用等を理由とする解雇を無効とした地裁判決紹介

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令和 5年12月 6日(水):初稿
○マンション管理員業務をしていた原告に対し、①新型コロナウイルス感染症対策のためのマスク着用という指示に従わず,居住者に不安を抱かせる行為を行ったこと,②住所変更の届出を怠り,通勤手当を不正受給したことなどを理由に,普通解雇をした被告会社に対し、原告が解雇は無効であり、所定賃金を支払えとの訴えを提起しました。

○これに対し、新型コロナウイルス感染対策として指示されていたマスク着用をしなかったこと等による解雇が違法な行為とまでは言えず、解雇を無効と判断した令和4年12月5日大阪地裁判決(判タ1505号163頁、判時2570号○頁)関連部分を紹介します。

○原告がマスクをしなかったことについて、新型コロナウイルス対策の不履行に関する一連の原告の行動が規律違反(パートタイマー就業規程45条2号)に当たるとはいえるものの、同事情をもって、原告を解雇することが社会通念上相当であるとまではいうことができないとしたもので、極めて妥当な判決です。

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主   文
1 被告は、原告に対し、90万4821円及びうち82万1995円に対する令和3年12月26日から支払済みまで、うち7万8954円に対する令和4年1月26日から支払済みまで、それぞれ年14.6%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 主文1項同旨
2 被告は、原告に対し、33万円及びこれに対する令和3年6月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、被告の従業員であった原告が、合意退職はしておらず、また、解雇は無効であるとして、〔1〕雇用契約に基づき、未払賃金及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまでの遅延損害金(退職日までは民法所定の年3%の割合、退職日の翌日から支払済みまでは賃金の支払の確保等に関する法律6条1項に基づく年14.6%の割合。ただし、退職後に支払期日が到来するものについては、同支払期日の翌日以降の遅延損害金。)、〔2〕一方的な配置転換(労働条件変更)を迫り、これを拒否すれば自主退職するしかないと迫った被告の行為及び解雇により法的保護に値する人格的利益を違法に侵害されたとして、不法行為に基づき、慰謝料及び弁護士費用並びにこれらに対する民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 なお、原告は、当初は、雇用契約に基づく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認も求めていたが、定年に達したため、同部分については訴えを取り下げ、被告も取下げに同意した。

1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認めることができる。)

     (中略)

3 争点に関する当事者の主張

     (中略)

(2)争点2(本件解雇が解雇権の濫用に当たるか)について
(原告の主張)
ア 新型コロナウイルス対策の不履行について
(ア)原告が意図的・日常的に勤務時間中にマスクを着用しなかったとの事実は存在しない。この点については、被告の主張によっても令和3年5月5日に住民からメールでの苦情申出があったということに尽きている。同メールの情報がどこまで具体的事実として存在するのかについて、被告において調査し、それが確認された形跡さえ存在しない。このような不確かなメールで解雇事由に該当するとの判断自身が客観的に合理的な理由を欠く。
 また、原告は、これまでに被告からマスクを着用していないとして格別の注意を受けたこともなく、住民からの一度の不確かな苦情をもって解雇をなすことは、社会的相当性を欠いていることが明白である。(
     (中略)

(被告の主張)
ア 新型コロナウイルス対策の不履行について
(ア)原告は、再三にわたる新型コロナウイルス感染対策の指示に従わず、勤務時間中にマスクの着用をしなかったため、緊急事態宣言が発令されている状況の中で、本件マンションの居住者に不安を抱かせた。
 マスクを着用しない管理員が新型コロナウイルスに感染したことが住民に知られると、被告の新型コロナウイルス感染対策に対する信頼を損ない、ひいては管理委託契約の継続に対する懸念材料となることが容易に想像できた。
(イ)原告は、恒常的に勤務中にマスクを着用しておらず、本件マンションの住人から、令和3年5月5日付けメールで苦情申出がなされている。原告は、同年6月2日の面談の際に、上記事実を認め、謝罪していた。
 同日の面談において、清掃員への配置転換に応じなければ自主退職するよう申入れたことはない。また、清掃員への配置転換の理由は、被告の信頼を裏切るというものではなく、住民及び管理組合の理解を得られないと判断したためである。

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実のほか、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
(1)従業員に対する通知
ア 被告は、令和2年4月7日付けで、従業員に対し、「新型コロナウイルス感染症対策の徹底について」と題する文書を発出した。同文書には、「新型コロナウイルス感染拡大を受け、従業員一人ひとりが『自分の身は自分で守る』・『他の人にうつさない』という強い意識と自覚をもって、感染が収束するまでの間、下記の対策を徹底するようお願いします。」などと記載されている。
(乙2の3)
イ 被告は、令和2年4月8日付けで、マンションスタッフに対し、「『緊急事態宣言』発令による勤務形態について」と題する文書を発出した。同文書には、「当社の基本方針として、当該期間中は、管理員等マンション勤務者の方は、原則、必要最小限(ごみ収集時の作業等)の勤務とし、それ以外は『自宅待機』とさせてもらう旨、担当のフロントから理事長様にご説明をします。」などと記載されている。(乙2の4)


     (中略)


3 争点2(本件解雇が解雇権の濫用に当たるか)について
(1)新型コロナウイルス対策の不履行について

 被告の業務はマンションの管理等であるところ(前提事実(1)ア)、新型コロナウイルス禍においては、被告が管理するマンションの住民に不安を与えないようにすることが業務の遂行において必要であるといえ、被告が従業員に対して、感染防止対策の徹底を求める通知を繰り返し発出し、マスク着用等の徹底を求めていること(認定事実(1))も、その表れであるといえる。そうすると、被告の従業員としては、使用者である被告の指示に従って、業務を遂行する際には、新型コロナウイルス感染防止対策を徹底しながら職務を遂行する義務を負っていたことになる。

ところが、本件マンションの住民から、原告に関して、「マンション内や通勤途中でお見かけした時は、マスクをされていません」、「いつお見かけしても、マスクをされていない」との連絡がなされているところ(認定事実(2))、その文言に照らせば、同住民は、原告がマスクを着用しないことが常態化していると認識していたこと、原告の主張・供述を前提としても休暇を取得していた令和3年5月6日に本件マンションの管理事務所を訪問した際もマスクを着用していなかったこと(認定事実(3)ア)、管理事務所でマスクを外しており、着け忘れた状態で管理事務所の外に出たこともあること(原告本人尋問調書4頁)、通勤途中にたばこを吸うためにマスクを外していたこともあること(原告本人尋問調書19頁)などからすれば、原告は、本件マンションで管理員として業務を遂行する際や、通勤の際に、日常的にマスクを着用していなかったことがうかがわれる。そうすると、原告は、本件マンションの管理員として職務を遂行する際に、使用者である被告からの業務上の指示に従っていなかったことになる。

 しかし、原告が過去にも被告から同様の行為について注意を受けていたというような事情はうかがわれないこと、潜在的には認定事実(2)の連絡をした住民以外にもマスクを着用しない原告について不快感や不安感を抱いた本件マンションの住民がいたことがうかがわれるものの、現実に被告に寄せられた苦情は1件にとどまっていること、原告の行為が原因となって、本件マンションの管理に係る契約が解約されるというような事態は生じていないこと、E課長も原告に対してマスク未着用に関する注意をしていないことを認めており(証人E尋問調書19頁)、ほかに、被告が原告に対してマスク未着用に関する注意をしたことを認めるに足りる証拠もないこと、原告が新型コロナウイルスに感染したことで、本件マンションの住民あるいは被告内部において、いわゆるクラスターが発生したというような事態もうかがわれないことなどからすれば、新型コロナウイルス対策の不履行に関する一連の原告の行動が規律違反(パートタイマー就業規程45条2号)に当たるとはいえるものの、同事情をもって、原告を解雇することが社会通念上相当であるとまではいうことができない。
以上:3,777文字

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