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民法210条通行権の当然接道要件充足権利性を否定した最高裁判決紹介

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令和 5年 6月 6日(火):初稿
○他の土地に囲まれ公道に接していない土地を袋地といい、以下の民法第210条で、他の土地を通行する権利が認められています。昔は、これを囲繞地通行権と言ったのですが、現在はこの言葉は使われていません。
第210条(公道に至るための他の土地の通行権)
 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。


○この袋地の所有者から、家を改築したいが、現在利用している通路は、道路位置指定がなく、市の建築宅地課から建築確認が降りず、家の改築に着手できないので、現在利用している通路所有者に対し、建築基準法第43条の接道義務を満たす通行権を認めて貰いたいが、そのためには道路整備が必要でその費用もないとして拒否されており、何とかならないかとの相談を受けました。

○そこでこの問題について判断した裁判例を探したところ、残念ながら、民法210条は、相隣接する土地の利用の調整を目的として、囲繞地の所有者に対して袋地所有者が囲繞地を通行することを一定の範囲で受忍すべき義務を課し、これによって、袋地の効用を全うさせようとするものである。一方、建築基準法43条1項本文は、主として避難又は通行の安全を期して、接道要件を定め、建築物の敷地につき公法上の規制を課している。このように、右各規定は、その趣旨、目的等を異にしており、単に特定の土地が接道要件を満たさないとの一事をもって、同土地の所有者のために隣接する他の土地につき接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権が当然に認められると解することはできない」とした平成11年7月13日最高裁判決(判時1687号75頁)が見つかりました。

○最高裁は、囲繞地通行権が認められる趣旨と、接道要件を定めた趣旨は、異なるものであって、囲繞地通行権の通路幅を決定する際に建築基準法の接道要件を満たすことを求めることは当然には認められないとしていますが、原審高裁では認めています。当然には認められないということは、認められる場合もあるということで、認められる場合の要件を検討するため、原審・一審判決も別コンテンツで紹介します。

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主    文
原判決を破棄し、被上告人の主位的請求を棄却する。
被上告人の予備的請求につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
第一項の部分に関する訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人○○○○、同○○○○の上告理由について
一 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯するに足りる。これによれば、本件の事実関係の概要等は、次のとおりである。
1 Aは、昭和24年当時、第一審判決別紙物件目録五記載の土地(以下「1381番1の土地」という。)、これに隣接する大阪府北河内郡枚方町大字村野1381番地の5の土地(以下「旧1381番地の5の土地」という。)のほか、右各土地上に存在する木造の長屋を所有していたが、同年12月2日、被上告人に対し、1381番1の土地を売却した。

2 Aは、昭和32年5月28日、被上告人に対して旧1381番地の5の土地のうち前記目録三及び四記載の各部分(以下、それぞれ、「本件東側通路」、「1381番5の土地」といい、被上告人所有の各土地を合わせて「被上告人所有地」という。)並びに4戸から成る前記長屋のうち被上告人所有地上にある3戸(以下「旧被上告人所有建物」という。)を、Bに対して旧1381番地の5の土地のうち公道と約13.42メートルにわたって接する残りの部分(以下「上告人所有地」という。)及びその上にある前記長屋のうちの残りの1戸(以下「旧上告人所有建物」という。)を売却した。

右各売却に係る上告人所有地と被上告人所有地の位置関係は、第一審判決別紙図面(一)のとおりであり、右のころ、旧1381番地の5の土地については前同所1381番5及び同番九の各土地に分筆する登記が、前記長屋については右のとおり分棟する登記がされている。なお、旧被上告人所有建物の居住者は、公道との出入りに関し、幅員1.45メートルの本件東側通路のほか、上告人所有地のうち西側の前記目録二記載の幅員1.25メートルの部分(以下「本件西側通路」という。)を利用していた。

3 上告人所有地及び旧上告人所有建物は、昭和38年3月25日、BからCに対して譲渡され、さらに、昭和43年6月3日、Cから上告人に対して譲渡された。

4 上告人は、昭和47年8月、旧上告人所有建物を取り壊し、同年11月、建物(以下「上告人所有建物」という。)を建築した。上告人所有建物は、上告人所有地を敷地とし、その東側の幅員約1.2メートルの部分(以下「玄関前部分」という。)及び本件西側通路を除く部分に、玄関を東向きに構えて配置され、玄関前部分の南端及び東端に沿って、コンクリートブロック塀(以下「本件ブロック塀」という。)が設置された。

5 被上告人は、平成2年、旧被上告人所有建物が老朽化したため、これを取り壊した。

6 現在、上告人所有建物は、第三者に賃貸されて飲食店として利用されており、被上告人所有地は、更地となっている。なお、上告人所有地及び被上告人所有地の付近は、いわゆる住宅地となっている。

二 本件において、被上告人は、主位的請求として、建築基準法43条1項本文は建築物の敷地は原則として同法所定の道路と2メートル以上接しなければならない旨定めているところ(以下、右規定が定める原則を「接道要件」という。)、被上告人所有地は、接道要件を満たしておらずその用法に従って宅地として使用することができないから、袋地に当たり、被上告人は上告人所有地のうち玄関前部分に含まれる原判決別紙係争地目録記載の幅員0.55メートルの部分(以下「本件係争地」という。)につき囲繞地通行権を有すると主張し、上告人に対し、右の旨の確認、本件ブロック塀のうち本件係争地上に存在する部分の収去等を求めている。

原審は、次のように判示して、被上告人の主位的請求を認容した。
1 被上告人所有地は、宅地として利用することがその用法に最もかなっているが、現状のままでは、接道要件を満たさないため、建築物を建築することができない。したがって、被上告人所有地は、袋地状態にあるというべきである。

2 本件東側通路は従前からいわゆる生活道路として使用されていたこと、本件ブロック塀のうち本件係争地上に存在する部分の収去に要する費用は20万4000円程度にすぎず被上告人はこれを負担することを申し出ていること、被上告人は本件係争地を通路として確保することができれば本件西側通路の通行権に関する主張を放棄することを申し出ていること、本件係争地が使用できなくなると上告人所有建物の出入口はやや手狭になり建物の印象が低下するおそれがあるものの、本件係争地を通路に提供することによる損害については上告人は被上告人に対して償金を請求することも可能であることなどを考慮すると、被上告人の本件係争地に関する囲繞地通行権の主張には、理由がある。

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 民法210条は、相隣接する土地の利用の調整を目的として、特定の土地がその利用に関する往来通行につき必要不可欠な公路に至る通路を欠き袋地に当たる場合に、囲繞地の所有者に対して袋地所有者が囲繞地を通行することを一定の範囲で受認すべき義務を課し、これによって、袋地の効用を全うさせようとするものである。

一方、建築基準法43条1項本文は、主として避難又は通行の安全を期して、接道要件を定め、建築物の敷地につき公法上の規制を課している。このように、右各規定は、その趣旨、目的等を異にしており、単に特定の土地が接道要件を満たさないとの一事をもって、同土地の所有者のために隣接する他の土地につき接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権が当然に認められると解することはできない(最高裁昭和34年(オ)第1132号同37年3月15日第一小法廷判決・民集16巻3号556頁参照)。

 ところで、本件において被上告人が囲繞地通行権を主張する理由は、被上告人がその所有地と公道との往来通行をするについて支障が存在するからではなく、現存の通路幅では本件係争地の奥にある被上告人所有地上に建築物を建築するために必要な建築基準法上の接道要件を満たすことができないという点にある。

しかしながら、前記の事実関係の下において、被上告人が平成2年に旧被上告人所有建物を取り壊し被上告人所有地に対して接道要件に関する規定が適用されることとなった当時、本件係争地は既に建築基準法上も適法に上告人所有建物の敷地の一部とされていたのであって、後に、もし、これを重ねて被上告人の建築物の敷地の一部として使用させたならば、特定の土地を一の建築物又は用途上不可分の関係にある2以上の建築物についてのみその敷地とし得るものとする建築基準法の原則(同法施行令1条一号参照)と抵触する状態が生じ、上告人所有建物は同法所定の建築物の規模等に関する基準に適合しないものとなるおそれもある。そのような事情をも考慮するならば、右被上告人の主張を直ちに採用することのできないことは明らかであり、原審の前記判断は、奥の土地の所有者の必要を配慮する余り、法令全体の整合性について考慮を欠くものといわなければならない。

 以上の次第で、原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものというべく、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、右に説示したところに徴すると、被上告人の主位的請求は理由がないから、これを棄却すべきである。しかし、被上告人の予備的請求については、更に審理を尽くさせる必要があるから、同請求につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣 裁判官奥田昌道)


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