令和 5年 4月29日(土):初稿 |
○「中小企業退職金共済退職金と就業規則退職金規程を判断した地裁判決紹介1」の続きで、中小企業退職金共済退職金と会社規定退職金規程による退職金との優劣について判断した平成25年8月30日東京地裁判決(ウエストロージャパン)関連部分を紹介します。 ○事案は、原告会社が、退職した被告従業員との間で、退職金共済契約により支給される退職金のうち原告の退職金規程による算定金額超過部分の返還合意をしたとし、同合意に基づく超過金額の支払を求めた(本訴)のに対し、被告が、原告は被告の転職先に本件返還合意に基づく返還を被告が拒否しているなどとする書面を送付して被告の名誉や信用を毀損したとして、損害賠償を求めた(反訴)ものです。 ○判決は、本件で、被告は本件超過部分の返還を承諾する返事をしたと推認されるから、本件返還合意の成立が認められるものの、本件返還合意は強行法規である中退法の各規定に抵触し無効となるとして、本訴請求を棄却する一方、本件書面などが被告の社会的評価を低下させるとはいえないとして、反訴請求も棄却しました。 ○中小企業退職金共済法の趣旨によれば、被共済者の退職金受給権を保護する同法の各規定は、これに反する私法上の合意の効力を認めない強行法規であるとしています。中小企業退職金共済法の趣旨によれば、被共済者の退職金受給権を保護する同法の各規定は、これに反する私法上の合意の効力を認めない強行法規であるとの理由部分を紹介します。 ******************************************** (2) 判断 上記中退法の規定内容によれば,同法上の退職金共済制度は,従業員の福祉を図る観点から,事業者と機構との間で退職金共済契約が締結されると,被共済者及びその遺族は当然に上記契約の利益を受け,改めて受益の意思表示をすることなく,上記契約の効果として,直接,機構に対して退職金受給権を取得し,その支給を確保するため,共済契約者である事業主を介することなく,機構は,被共済者又は遺族に対して,退職金や解約手当金を支給するものとされているほか,退職金等の支給を受ける権利も原則として譲渡が禁止されているということができる。このような中退法の趣旨に照らせば,被共済者が退職金を受給する権利を保護する中退法の各規定は,これに反する私法上の合意の効力を認めない強行法規であると解するのが相当である。 これを本件について見ると,本件返還合意は,本件超過部分が被告に帰属することを前提とするものではなく(仮に,そうであるとすると,本件返還合意は,被告が本件超過部分を原告に贈与する趣旨ということになるが,被告と原告の関係から見て,そのような趣旨の合意がされたと認めることはできない。),原告に帰属することを前提としており,原告に本件超過部分を返還する前提として,機構から退職金が支給されるのに先立ち,本件超過部分の帰属を被告から原告に変更する趣旨を含むものであると認められるのであり,そのような趣旨の本件返還合意は,退職金の全額を被共済者へ支給するとした中退法10条1項や退職金の譲渡を禁止した同法20条の各規定に抵触して無効となるというべきである。 これに対し,原告は,中退法上の退職金共済制度は,事業主の退職金規程が定める退職金の支払を確保することを目的とするものであると主張するが,中退法の規定上,そのように解すべき根拠は見出だせない。すなわち,前記のとおり,中退法に基づく退職金の金額は,原則として,掛金月額と掛金納付月数に応じて定まるものであり,中退法上,共済契約者である事業主の定める退職金の金額との調整を行う規定は置かれていない。中退法に基づく退職金共済制度は,事業主に代わって従業員の退職金を支払う制度ではあるが,機構が支払う退職金は,中退法の規定によって発生するものであって,機構が事業主の負担する退職金支払債務を,事業主の履行補助者として支払うものではなく,このことは,同法10条5項の規定に基づき退職金が減額された場合においても,減額されない場合の金額との差額を事業者に返還する規定が置かれていないことや,退職金共済契約が解除された場合でも,積み立てられた掛金を事業主に返還せず,解約手当金として被共済者に対して支払うことになっている(同法16条1項)ことに照らしても明らかである。 したがって,原告の上記主張を前提として,機構から支払われる退職金が,事業主が定める退職金を超過する場合には,当該超過部分の帰属を当事者間の合意によって任意に変更できる旨の原告の主張は採用できない。 以上:1,899文字
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