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業務災害の雇用主安全配慮義務違反損害賠償を認めた地裁判決紹介

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令和 4年11月17日(木):初稿
○業務中に負った傷害について、雇用会社にどこまで責任を追及できるかとの相談を受け、労働災害について雇用主の責任を認めた判例を探しています。

○電電公社の電話交換手の頚肩腕障害について、業務起因性が肯定され、安全配慮義務違反の損害賠償責任が認められた昭和58年3月31日津地裁判決(判タ557号239頁)の関連部分を紹介します。これは、熊野電報電話局事件と名付けられた有名な判決で、最高裁まで争われており、それぞれ別コンテンツで紹介します。

○判決は、雇用会社被告は、使用者として、労働基準法、労働安全衛生法及びその関連法規並びに労働契約の趣旨に基づき、その被用者に対し、その業務から発生しやすい疾病の発症ないしその増悪を防止すべき注意義務(安全配慮義務)を負つていると解されるところ、労働基準法、労働者災害補償保険法等の法意に照らすと、被用者の疾病について業務起因性が肯認される以上、被用者の右疾病は特段の事情なき限り使用者側において右注意義務を充分つくさなかつたことによるものと推定するのが相当として、安全配慮義務違反を認定しています。

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主   文
一 被告は、原告に対し、金120万円及び内金100万円に対する昭和51年5月27日から内金20万円に対する本裁判確定の日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを10分し、その九を原告の、その余を被告の各負担とする。

事   実
第一 当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金1000万円及びこれに対する昭和51年5月27日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二 当事者の主張
一 請求原因

1 当事者
(一) 被告は、前身の電気通信省から、昭和27年8月1日、日本電信電話公社として設立され、その主たる業務は公衆電気通信業務及びこれに付帯する業務その他公社設立の目的を達成するために必要な業務を目的とする。

(二) 原告(昭和8年8月28日生)は、昭和26年12月、当時の電気通信省(後の日本電信電話公社)に入社し、当時の木本電報電話局(昭和29年12月1日、熊野電報電話局となる。以下「熊野局」という。)に電話交換手として配属されて以来、昭和30年から31年にかけての約1か年付帯業務と交換手の新入社員の作業訓練に従事したほかは、昭和47年4月18日の休業に至る迄の間一貫して電話交換業務に従事してきたものである。

2 原告の発症・増悪の経過
(一) 原告の病状の経過

         (中略)


理   由

一 請求原因1の各事実は当事者間に争いがない。

二 原告の発症、増悪の経過及び医師の診断結果等
 原告が昭和26年12月被告に入社した当時は健康であったこと、昭和34年、36年に出産したこと、昭和41年6月20日仕事場に冷暖房機が設置され、窓が密閉されたこと、昭和43年に卵巣の手術を受け、50日程度休業したこと、昭和47年4月18日から10日間休業し、津市柳山診療所において「頸肩腕症候群」との診断を受けたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)を総合すれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1 原告の入社当時から昭和47年までの症状の経過(主に主訴による)は次の点を付加するほか請求原因2・(一)のとおりである。
(一) 昭和39年4月の健康診断の際に健康管理医に「右下肢のしびれが時々ある」と訴え、「心音純、下肢浮腫なし、肺呼吸音異常なし」と診断された。
 同年11月の健康診断では「両側扁桃腺やや腫大、心音、呼吸音とも異常なし」と診断された。
(二) 昭和40年5月の健康診断の際の「右下肢浮腫特に午後あり」との訴えについて、健康管理医が診察したところ、「心音、呼吸音とも異常なし」と診断された。
(三) 昭和41年11月の健康診断の際、胃炎で治療中の旨健康管理医に連絡した。
(四) 昭和42年6月と10月の健康診断の際、偏頭痛を訴えた。
(五) 昭和43年11月の健康診断の際、心悸昂進症を訴えたが、心音に異常はなかった。
(六) 昭和44年11月の健康診断で健康管理医に対し、心電図に病的所見があり、治療を受けていると話す。
(七) 昭和45年6月の健康診断で神経性心悸昂進症を訴えた。
(八) 昭和46年11月の健康診断では右腕関節炎を訴えた。

         (中略)

三 原告の業務内容等

         (中略)


五 業務起因性
 そこで、以上の考え方にしたがって原告の疾病の業務起因性について判断する。
1 まず、原告の症状が変形性頸椎症に起因しているとする被告の主張について判断するに、前記2・5のK医師の診断、同7のS医師の鑑定において認定した事実と(証拠略)によれば、原告の疾病は少なくともK医師による診断が行われた昭和49年2月当時は主として加齢的変化による変形性頸椎症(変形性頸椎症とは、頸椎骨軟骨症、頸部脊椎症とも呼ばれ、頸椎の退行変性的変化であり、椎間板の変性、骨棘形成により脊髄及び神経根に圧迫刺激を生じ、二次的に斜角筋症候群発症による腕神経叢、鎖骨下動脈圧迫などを生ずるものであり、レントゲン写真の所見として(1)椎間板の狭小化、椎体上・下縁の硬化像、(2)椎体前後縁の骨棘形成、(3)生理的前彎の消失、限局性後彎形成、(4)椎間孔の狭小化、鉤状突起と椎間関節突起の変形、骨棘化が見られるのが特徴であるとされている。)に起因していたものと認めるのが相当であり、(証拠判断略)他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2 しかしながら、原告の症状、とりわけ昭和49年2月ころ以前のものについては、前同様主として変形性頸椎症に起因しているものと認めるのは以下の諸点からみて相当でない。
(一) 前記2・3のM医師の診断は前記のように原告の疾病について、従前からの経過もふまえ自覚症状、他覚的所見、諸検査等に基づく診断である。

(二) 前認定のように、原告の頸椎骨の変性変化は向井医師が診断した昭和47年4月当時には顕著なものではなかったものの、症状は悪化しており、これに対して、小菅医師が診断した昭和49年2月当時には頸椎骨の変性は進行しているにもかかわらず、症状はむしろ好転した状態にあったことが認められる(森崎証人は、「変形性頸椎症という病気は経過の長いものですから、波をうつことがあってもおかしくないですし、ある程度の治療とか安静などということをされておればよくなることがあってもよろしいかと思います。」と証言しているが、少なくとも積極的に右の関係を合理的に説明しつくしたものとは認め難い。)。

(三) K医師の診断は、前認定のように原告が病気休業となった昭和47年4月18日から約2年後になされたものであるうえ、証人小菅真一の証言によれば、同医師は業務上外の認定の精密検診の依頼を受けたとは認識しておらず、原告の既往症を詳しく尋ねてはいないこと、循環障害の有無の詳しい検査をもしていないこと、圧痛点について痛覚針等を使用して調べることはしていないこと(たくさんの場合いちいちやれないとの理由で)などが認められ、原告に変形性頸椎症があったことの診断のほかに頸肩腕症候群がなかったと診断した点については、前記の向井医師の診断内容と比較して厳密さを欠くものと推認される。

(四) S医師は前記のとおり原告を直接診察して鑑定したわけではなく、間接的な判定にとどまるものである。

(五) (証拠略)を総合すれば、原告の勤務する熊野局において労働組合により請求原因5の(四)の(1)ないし(3)記載の各アンケート結果が出ており、原告と同一の電話交換業務を担当する交換手の中に原告と同一の症状を訴えるものが多数存在していたものと認められ、原告とほぼ同じ時期に被告に入社し、電話交換手をしていたA、B、C、Dらは原告とほぼ同一の症状を訴え(4名の症状は別表(略)5のとおりである。)、いずれも被告により業務上の頸肩腕症候群であると認定されている(右認定を左右するに足りる証拠はない。)。

(六) 更に、前掲原告本人尋問の結果及びE証人の証言によれば原告の休業と症状の回復、復職と症状の悪化との間に多少の波はあるもののある程度の相関関係が認められる。

(七) (証拠略)によれば、熊野局では昭和42年から同48年にかけ、周辺局の半自動即時化、地域集団電話の増設等により加入者数も2倍以上となり、したがって、当然取扱数も増加したのに対し、昭和47年に至るまで電話取扱要員は増加されず(その間なされた増員は退職者の補充に見合う程度であった。)、昭和47年度に13名の新規採用者によりはじめて純増が計られた。その間昭和41年6月設置された大型冷暖房機をめぐり、冷気、換気、騒音等職場環境の改善について組合(分会)から要求が出されたが昭和45年以降までめぼしい改善策はとられなかった。昭和47年10月21日の団体交渉において罹病者6名ありとして頸肩腕症候群対策が問題とされ、局においても検討する旨回答された。

 以上の事実と前記2・1で認定の原告の発症増悪の経過同3のM医師の診断並びに同三で認定した原告の業務内容を総合して考えれば、少くとも原告の昭和47年4月前後頃から同49年2月頃までの症状は主として頸肩腕症候群(頸肩腕障害)によるもので、業務に起因して生じたものと認めるのが相当である。

六 被告の債務不履行責任
 業務起因性の認められる原告の頸肩腕症候群についての被告の債務不履行責任について検討する。
(一) 被告は、使用者として、労働基準法、労働安全衛生法(昭和47年10月以降)及びその関連法規並びに労働契約の趣旨に基づき、その被用者に対し、その業務から発生しやすい疾病の発症ないしその増悪を防止すべき注意義務(安全配慮義務)を負っていると解されるところ、労働基準法、労働者災害補償保険法等の法意に照らすと、被用者の疾病について業務起因性が肯認される以上、被用者の右疾病は特段の事情なき限り使用者側において右注意義務を充分つくさなかったことによるものと推定するのが相当であり、右特段の事情の存在については使用者側においてこれを証明する責任を負うものと解すべきである。

(二) しかるところ、(証拠略)によれば、被告は、既に昭和32年5月、健康管理規程を制定し、被告の事業場に即した健康管理の基準となるべき事項及び実施手続を定め、その後昭和36年、同43年にそれぞれ改正を行い、健康管理所等の設置、職場における健康管理の実施、一般検診、特殊検診等の健康診断の実施、休憩室の設置など環境衛生に対する配慮等を行ってきたこと、被告の行ってきた定期健康診断の内容としては、健康管理医が職員に対して、自覚症状等の問視診及び諸検査を行い、その結果、精密検診の実施又は専門医の診断、治療等の措置を講じてきたことが認められ、また、原告に対する休暇関係についても、原告は年次有給休暇を比較的早期に発給分全部を取得しており、生理休暇、病気休暇についても他の職員と同様に、又はより多く取得し、しかも、病気休暇については診断書の不要な2日以内のものが多いことが認められる。

(三) しかしながら他方、前記五の2の(五)及び(七)で認定した諸事実と(証拠略)により認められる組合と被告との業務上疾病としての頸肩腕症候群に対する認識とこれに対する対応のずれ(〈証拠略〉参照)などを併せ考えると、右(二)の事実だけでは被告が原告ら電話取扱要員に対して適切な頸肩腕症候群予防対策を講じてきたものとは認め難く、他にこの点について適切な措置を講じてきたと認めるに足りる証拠はない。

 以上によれば、結局特段の事情について立証されたものとはいいえず、そうとすると、被告は原告に対する前記注意義務を怠ったものというほかはないから、被告は原告が前記疾病によって受けた損害を賠償すべき責任があるというべきである。

七 損害
1 慰謝料

 原告が前記認定のとおり頸肩腕障害に罹患し、また昭和47年4月以降長期間の療養生活により個人生活上も職場生活上も種々の身体的、精神的苦痛を受けたことは推測に難くないが、既に認定したところから明らかなように発症後の右療養期間における原告の症状のうち、少なくとも昭和49年2月以後におけるものの多くは加齢的変化に基づく変形性頸椎症に起因するもので、これについては本人の体質的要素の占める比重が大きいと認められること、(証拠略)によれば、被告は原告に対し、特別措置を適用して一般私傷病罹患者より有利な扱いをしていると認められること、症状に応じた勤務軽減も行ってきていると認められること、本訴が内部規程に則った再審査請求の方途をとりうるにもかかわらずあえてこれによらずして提起されたものであること(仮に原告が再審査請求の手続において被告指定病院で診断を受け、その結果業務上疾病の認定をうけえたとしても、証拠上、そのことによって前認定の昭和47年4月前後ころの罹病から同49年2月ころまでの間の頸肩腕障害によって原告が被った前記精神的損害が当然に回復されるものとは認め難いから右手続を経ていないことをもって直ちに本訴請求を理由なしとすることはできないが、事柄の性質上慰謝料額の算定につき当然斟酌すべき事由の一つとなる。)、その他記録にあらわれた諸般の事情を総合すると、被告に負担させるべき慰謝料は金100万円とするのが相当である。

2 弁護士費用
 原告が本訴提起にあたって訴訟に関する一切を原告代理人らに委任したことは本件記録上明らかであり、本件事案の難易度、本訴で認容される額、日本弁護士連合会報酬等基準規程その他諸般の事情を総合して判断すると、被告に負担させるべき弁護士費用は金20万円をもって相当と認める(本件は債務不履行に基づく請求であるが、前認定の事実関係からすれば不法行為の構成要件をも充足している。)。

八 結論
 以上のとおりであるから、被告は原告に対し、前記七の1及び2の合計金120万円及び内金100万円に対する本訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和51年5月27日から内金20万円に対する本裁判確定の日の翌日から(弁護士費用については支払期の主張立証がない。)各支払ずみまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
 よって、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法89条、92条本文を適用し、なお、仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。
津地方裁判所民事第一部 裁判長裁判官 上野精 裁判官 大津卓也 裁判官 今泉秀和
以上:6,184文字

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