令和 4年11月13日(日):初稿 |
○「フランチャイズ契約競業禁止・違約金条項を無効とした地裁判決紹介」の続きで、フランチャイズ契約に関する平成15年7月24日神戸地裁裁判決(裁判所ウェブサイト)関連部分を紹介します。 ○フランチャイジーの原告がフランチャイザーの被告に対して、フランチャイズ契約に基づいて支払った加盟金800万円について、不当利得を理由に返還を求め、被告は、加盟金不返還特約を主張して争いました。 ○これに対し、神戸地裁判決は、本件における加盟金は、営業許諾料、被告の商号・商標の使用許諾料及び開業準備費用としての性質を有するところ、商号・商標の使用許諾料及び営業許諾料を合わせても800万円に相当する価値があるとは到底認められない上に、被告は開業準備費用も支出していないのであるから、本件加盟金800万円は著しく対価性を欠き、その返還を一切認めないという本件加盟金不返還特約は、暴利行為であって公序良俗に違反し無効であるとし、商号・商標の使用許諾料及び営業許諾料の対価は200万円を上回ることはないと推認され、これを超える600万円の部分については被告の不当利得に該当するとして、原告の請求を一部認容しました。 ********************************************* 主 文 1 被告は,原告に対し,600万円及びこれに対する平成13年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は1,3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は原告に対し,800万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,原告が被告に対して,フランチャイズ契約に基づいて支払った加盟金につき,不当利得を理由に返還を求めると共に,これに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。 1 争いのない事実 (中略) 第3 争点に対する判断 1 本件加盟金不返還特約の有効性 原告は,本件加盟金不返還特約は,被告が本件契約上の優越的な地位を利用して加盟店である原告に対して一方的な不利益を強いるものであって,公序良俗に反し無効であると主張する。 しかしながら,原告が被告との関係で格別不平等な関係にあったとは認められないし,原告代表者が,平成9年5月ころ,ベンチャーリンクから被告のフランチャイズチェーンについて紹介を受けてから同月26日に本件契約を締結するまでの間に,本件契約の内容について十分検討する機会はあったと認められる。 また,原告は飲食店の営業を主な目的とする有限会社であって,本件契約の利害得失について検討する能力も十分備えていたと推認される。さらに,原告が当時,本件契約を締結しなければならない差し迫った状況にあったとも認められない。そうすると,本件加盟金不返還特約をもって,被告が原告に対する優越的に地位を利用しての締結を強いたものとは認められないから,そのような理由で同特約が無効であると解することはできない。 もっとも,本件加盟金不返還特約は「加盟金は如何なる事由によっても返還しません」という一切留保のない規定であるところ,本件加盟金が800万円にも及ぶことを考えると,本件加盟金800万円が対価性を著しく欠く場合にまで,事由の一切を問わずおよそ返還を求めることができないというのは,暴利行為であって公序良俗に反し,無効と解すべきである(民法90条)。そして,そのような場合,原告は,本件加盟金800万円のうち対価性を欠く部分について不当利得として返還を求めることができると解する。 そうすると,次に,本件加盟金800万円が著しく対価性を欠くものかどうか,すなわち,本件加盟金の性質とその金銭的な評価が問題になる。 2 本件加盟金の性質 まず,本件加盟金に,被告から原告に対する営業許諾権と,商号・商標の使用許諾料が含まれていることについては,当事者間に争いがない。 また,証拠(甲37,証人A)によれば,被告は,本件契約の締結の前後を通じて,加盟店が出店するまでの間に,出店地の調査検討,収益分析,事業計画の策定,店舗の設計監理,開店に必要な販促物や挨拶状に関する援助など,開業準備行為を行うものとされていること,これも本件加盟金に含まれているものであることが認められる(なお,前記争いのない事実のとおり,本件契約において,オープン前,オープン後各1週間に本部が行う研修教育訓練費用は本件加盟金に含まれるものとすると規定されているところ,同研修教育訓練も上記開業準備行為の一環と認めることができる)。 原告は,これに加えて,本件加盟金には,店舗の内外装資金及びロイヤリティの先払いの性質も含まれていると主張し,原告代表者本人は,本件契約締結前に,被告の取締役であるAから同旨の説明を受けた旨述べる。 しかしながら,被告のフランチャイズ加盟店募集案内(甲37)に,加盟店の投下資金として,本件加盟金と区別して,「建物主体工事費4500万円,装飾工事・厨房設備工事費2550万円(5年リース),POSレジハンディターミナル費260万円(5年リース),オープン費・雑費490万円」と明確に記載されていること,証人Aが,原告が主張するような説明をしたことはない旨証言することに照らすと,原告代表者本人の上記供述を信用することはできず,その他に,本件加盟金に内外装資金及びロイヤリティの先払いも含まれていることを認めるに足りる証拠はない。 以上の次第で,本件加盟金は,営業許諾料,被告の商号・商標の使用許諾料及び開業準備費用(従業員に対する開店前後2週間の研修教育訓練費を含む)としての性質を有するものであると認めることができる。 3 本件加盟金の金額の相当性 そこで,上記認定の性質を有する本件加盟金が800万円の対価性を有するかどうかを検討する。 (1) まず,営業許諾料についてみるに,本件契約によれば,本件加盟金とは別個に,毎月売上高の5パーセントのロイヤリティの支払いが義務づけられているところ,証拠(甲37)によれば,被告の標準モデルとする加盟店の損益計算表によると,毎月の売上高としては1260万円が予想され,その5パーセントは63万円であるから,年間756万円ものロイヤリティを支払うものとされている。そして,証拠(甲1,37,証人A)によれば,これは,被告から原告に対する経営ノウハウの提供の対価であると認められる。 本件契約上,このような高額の経営ノウハウ代(ロイヤリティ)を支払うことになっている以上,これとは別個に,純然たる営業許諾料というものを観念しうるとしても,その対価がそれほど高額になるとは考えられない。 (2) また,商号・商標の使用許諾料についてみるに,証拠(甲40ないし42〔枝番号のあるものはこれを含む〕,乙1,4,原告代表者本人,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,本件契約締結当時(平成9年5月26日),「ステーキワン」は,未だにフランチャイズ商標登録すらされておらず(商標登録されたのは同年9月12日),フランチャイズ・チェーンとしての実績がほとんどなかったばかりか,被告は,テレビ,ラジオのCMなどメディアによる広告宣伝をしなかったため,「ステーキワン」の全国的な知名度は高いものにはならず,「ステーキワン」の商号・商標の使用によるフランチャイズ店の集客力は決して高くはなかったことが認められる。この点,被告の取締役である証人Aは,被告としては,地域の商圏に適した新聞折込広告等のチラシ配布,ノック運動などの宣伝広告活動をむしろ重視している旨証言するが,そうであるとすると,これらは,被告の商号・商標にあまり依拠しない,出店後における各加盟店ごとの経営努力というべきものであって,そのノウハウの対価は,むしろ,毎月のロイヤリティの中に含まれるものとみるのが合理的である。 以上の事実に照らすと,被告の商号・商標の使用許諾料もそれほど高額になるとは考えられない。 (3) さらに,開業準備費用について検討する。 証拠(甲42,乙4,5,証人A,原告代表者本人)によれば,原告代表者本人は,平成9年5月ころ,ベンチャーリンクの紹介で,被告のフランチャイズチェーンに興味を持ち,被告の本社や直営店を見学した際に,証人Aから,今後,全国に店舗を展開する等と説明を受けたことなどから,本件契約を締結することを決意し,出店予定地については名張市のa付近と決めただけで本件契約を締結したものの,その後,予定していた出店地を確保することができず,また,名張市会議員に立候補することになり多忙になったため,被告に対し具体的な出店予定地を示さなかったこと,そのため,被告としては開業準備に取りかかることができなかったこと,その後,原告代表者は,被告のフランチャイズ店の収益性に不安を感じて出店を取りやめるに至ったことが認められる。 以上の経緯に照らすと,被告が開業準備に取りかかれなかった原因としては,原告代表者が,具体的な出店計画もないままに拙速に本件契約を締結し,その後,出店予定地を確保できなかったという原告側の事情が大きいというべきであるが,いずれにしても,その結果として,被告は,原告に対し,何らの開業準備行為も行っていないことが認められる。 なお,被告は,原告から,三重県名張市b町cの国道バイパス隣接地への出店が可能かどうか相談を受け,これを検討したと主張するが,原告代表者本人はそのような相談を持ちかけた事実を否定する上に,被告が提出するこの点に関する書証をみても,「出店予定地クリニック依頼書」(乙2の1・2)と,上記の場所の写真と地図しかないのであって(乙2の3ないし7),被告が,同地への出店の可能性や収益性について検討したという事実を認めるには足りない。 そうすると,被告は,原告に対しては,ほとんど開業準備行為費用を支出していないことが認められる。 (4) 以上のとおり,本件においては,商号・商標の使用許諾料及び営業許諾料を合わせても800万円に相当する価値があるとは到底認められない上に,被告は開業準備費用も支出していないのであるから,本件加盟金800万円は著しく対価性を欠き,高額に過ぎると認められる。そうすると,その返還を一切認めないという本件加盟金不返還特約は,暴利行為であって公序良俗に違反し無効というべきである。 4 そうすると,次に,原告が不当利得として返還を求めることができる金額が問題になる。 上記のとおり,本件において,被告は,開業準備行為を行っていないのであるから,本件加盟金の実質(営業許諾料,商号・商標の使用許諾料,開業準備行為費用)のうち,被告が収受することができるのは,営業許諾料と商号・商標の使用許諾料に限られるというべきである。 そして,前記認定のとおり,被告の商号・商標に周知性・集客力が認められないこと,純然たる営業許諾料以外に,年間数百万円のロイヤリティが支払われることを考慮すると,商号・商標の使用許諾料及び営業許諾料の対価としては,いかに高く見積もっても,本件加盟金800万円の4分の1,すなわち200万円を上回ることはないと推認される。 従って,これを超える600万円の部分については被告の不当利得に該当すると認められるから,被告は原告に対し600万円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。 5 結論 以上の次第で,本訴請求は,600万円及びこれに対する平成13年11月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので一部認容する。(裁判官 太田敬司) 以上:4,914文字
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