令和 4年 8月 3日(水):初稿 |
○高層ビル建築による日照権侵害についての損害賠償或いは建築禁止等の相談は、30年位前には結構ありましたが、なかなか請求が認められる例がなく、ここ20年程は相談が殆どなくなっていました。 ○原告教会が運営するP1幼稚園の園児らであった原告園児らのうち9名及び同幼稚園の教諭らである原告園長らが、幼稚園の園庭の南隣にマンションが建築されたことによって、 ①日照阻害、風害、圧迫感等によって人格権(子どもの権利)侵害が生じているとして、人格権に基づく妨害排除請求として、被告P社らに対し、同建物の5階ないし15階の取り壊し ②原告園児ら及び原告園長らが、本件マンション建築工事に先立つ旧建物の解体工事の間、代替施設への引越しを余儀なくされ、本件マンションの建築期間中、タワークレーンの倒壊の危険、騒音等にさらされ、本件マンション完成後は上記日照阻害等によって人格権を侵害されていると主張し、不法行為に基づき、被告らに対し、連帯して、それぞれに慰謝料等の支払 ③原告教会が、本件マンションの建築によって生じた日照阻害を緩和するために園庭に建てられていた牧師館を解体・撤去しなければならず、解体・撤去に要した費用が損害として生じたと主張し、不法行為に基づき、被告らに対し、連帯して、損害金等の支払 を求めました。 ○この事案では、本件マンションの建築により午後の日照は阻害されているものの、1日を通じてみれば、本件幼稚園の園児らが受ける日照阻害の程度が著しいとまではいえず、その他原告らが本件マンションの建築に伴って原告園児らの権利が侵害されたと主張する点については、いずれも受忍限度を超える権利侵害が発生したとまでは認めることはできないとして前記①、②の請求は棄却しながら、③について、被告P社においては、本件幼稚園の日照等について配慮すべき義務を十分に尽くすことを怠ったため、原告教会に牧師館の解体・撤去の費用を負担させるという損害を被らせたものであるとして、被告P社に対し、不法行為に基づき、牧師館を解体・撤去するために要した費用等約260万円の支払を認めた令和3年3月30日名古屋地裁判決(判時2518号84頁)関連部分を紹介します。 ******************************************** 主 文 1 被告プレサンスは,原告教会に対し,259万2000円及びこれに対する平成30年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを12分し,その1を被告プレサンスの負担とし,その余を原告らの負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告プレサンスは,別紙物件目録記載1(2)の建物の5階から15階部分を取り壊せ。 2 被告らは,原告園児ら及び原告園長らに対し,連帯して,それぞれ110万円及びこれに対する平成30年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告教会に対し,連帯して259万2000円及びこれに対する平成30年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は, (1)原告教会,原告教会が運営するP1幼稚園(以下「本件幼稚園」という。)の園児らであった原告園児らのうち9名(原告園児らのうち,原告P2,同P3,同P4,同P5,同P6を除く9名)及び同幼稚園の教諭らである原告園長らが,本件幼稚園の園庭の南隣に別紙物件目録記載1(2)の建物(以下「本件マンション」という。)が建築されたことによって,日照阻害,風害,圧迫感等によって人格権(子どもの権利)侵害が生じているとして,人格権に基づく妨害排除請求(原告教会は,選択的主張として,所有権に基づく妨害排除請求)として,被告プレサンスに対し,同建物の5階ないし15階の取り壊しを求め, (2)原告園児ら及び原告園長らが,本件マンション建築工事に先立つ旧建物の解体工事の間,代替施設への引越しを余儀なくされ,本件マンションの建築期間中,タワークレーンの倒壊の危険,騒音等にさらされ,本件マンション完成後は上記日照阻害等によって人格権を侵害されていると主張し,不法行為に基づき,被告らに対し,連帯して,それぞれに慰謝料及び弁護士費用として110万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年9月13日から支払済みまで,平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め, (3)原告教会が,本件マンションの建築によって生じた日照阻害を緩和するために園庭の南側部分に建てられていた牧師館を解体・撤去しなければならず,解体・撤去に要した費用が損害として生じたと主張し,不法行為に基づき,被告らに対し,連帯して,損害金259万2000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年9月13日から支払済みまで,平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 (中略) 6 争点(5)(原告教会の損害賠償請求の可否)について (1)原告教会は,本件マンションが建築されたことによって,牧師館を解体・撤去せざるを得なくなったとして,被告らに対し,牧師館の解体・撤去に要した費用の損害賠償請求をしている。 先に認定したように,被告プレサンスは,本件マンションを建築にするに際し,本件マンションによって発生する日影が本件幼稚園における保育にどのような影響を与えるか十分に配慮した上でマンション建築をすべきであったところ,本件幼稚園への日照について一定の配慮をした社内検討案で,本件幼稚園の日照への配慮としては十分であると判断し,日照阻害が園児らに与える影響を園児らの立場に立って最も考えることのできる原告園長らの意見を聴くなどして,本件幼稚園における保育のカリキュラムに与える影響度合いなどの検討を十分にすることなく,本件マンションを建築することを決め,そのため,午後の「クラス活動」は,半年以上園庭に日差しがない状況で実施せざるを得なくなり,何らの対応策も講じなければ園児らに受忍限度を超える保育環境の悪化が発生することが予測される事態となったため,原告教会は,本件幼稚園における日照を確保するための対応策として基本財産である牧師館を撤去・解体することを行わざるを得なかったことが認められる。 被告プレサンスは,本件マンションを建築した場合には,本件幼稚園の園庭の日照が阻害されることは自ら作成した日影図等によって把握しており,その結果,園庭の外遊びを中心に実施されていた本件幼稚園における午後の「クラス活動」に支障が生じることも把握可能であった。 そのような状況で本件マンションを建築することにすれば,園児らの最善の利益を重視する原告教会が午前中の日照を改善して1日を通じての日照環境を確保するため牧師館の解体・撤去の決断をせざるを得なくなることについても認識可能であったといえる。 したがって,被告プレサンスは,本件幼稚園の日照について配慮すべき義務を十分に尽くすことを怠ったため,原告教会に牧師館の解体・撤去の費用を負担させるという損害を被らせたものであるから,原告教会は,被告プレサンスに対し,不法行為に基づき,牧師館を解体・撤去するために要した費用259万2000円及びこれに対する不法行為の後(訴状送達の日の翌日)である平成30年9月13日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 (2)原告は,被告大鉄工業に対しても,損害賠償請求をしている。しかし,被告大鉄工業は,被告プレサンスが設計した本件マンションの建築を請け負っただけであり,本件マンションの設計や,本件マンションの建築に関する本件幼稚園との協議には関与していない。したがって,被告大鉄工業には,本件マンションを建築することによって,原告教会が牧師館を解体・撤去せざるを得なくなることを予見することはできなかったと認められるから,原告教会が牧師館を撤去・解体することによって被った損害を賠償する責任は負わない。 第4 結論 よって,原告教会が被告プレサンスに対して牧師館の解体・撤去費用259万2000円の賠償を求める請求には理由があるので,これを認容し,その余の原告らの請求にはいずれも理由がないので,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官 唐木浩之 裁判官 片山健 裁判官 高橋祐二 以上:3,604文字
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