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雇用と業務委託の違い1-令和2年9月3日大阪地裁紹介

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令和 2年12月14日(月):初稿
○「労働者派遣・請負・委託・出向の違い等基礎の基礎」の続きです。労働に従事させ雇用契約が成立すると、使用者としての種々の制約が生じるため、雇用ではなく請負・委任(委託)だと主張される例が問題になりますと記載していましたが、この点について判断した令和2年9月3日大阪地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○原告が、被告会社との間で労働契約を締結したと主張して、被告に対し、労働契約に基づき、労務提供期間に対する、労働基準法37条1項所定の割増賃金及びこれらに対する遅延損害金等の支払を求めるとともに、同法114条に基づく付加金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めました。

○被告会社は原告との契約は、雇用契約ではなく業務委託契約であり、原告は労働者ではないと主張しました。これに対し、大阪地裁判決は、原告は、被告との間で、形式的には業務委託契約を締結しているものの、時間的場所的な拘束を受けているうえ、その業務時間・内容や遂行方法が、被告との間で労働契約を締結した場合と異なるところがなく、被告の指揮監督の及ぶものであったことからすると、原告は、実質的には、被告の指揮命令下で労務提供を行っていたというべきであり、原告は、労働基準法上の「労働者」に該当するとして、原告の請求の殆どを認めました。

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主   文
1 被告は,原告に対し,737万9533円及びうち700万9219円に対する平成30年6月30日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,520万2182円及びこれに対する本判決確定日の翌日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は,原告に対し,775万8029円及び別紙1各月「割増賃金未払額」欄記載の各金員に対する各月「賃金月度(支払期日)」欄記載の各支払期日の翌日から平成30年6月29日まで年6%,平成30年6月30日から支払済みまで年14.6%の各割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,575万6920円及びこれに対する本判決確定日の翌日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は,原告が,被告との間で労働契約を締結したと主張して,被告に対し,〔1〕労働契約に基づき,平成28年7月1日から平成30年6月29日までの間(以下「本件請求期間」という。)の労務提供分につき,労働基準法(以下「労基法」という。)37条1項所定の割増賃金合計775万8029円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から,退職日である平成30年6月29日まで,商事法定利率年6%の割合(平成29年法律第45号による改正前商法によるもの)による遅延損害金及び退職日の翌日である同月30日から支払済みまで,賃金の支払の確保等に関する法律(以下「賃確法」という。)6条1項所定の14.6%の割合による遅延損害金の各支払い,〔2〕労基法114条に基づく付加金575万6920円及びこれに対する本判決確定日から支払済みまで法定利率年3%の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1)当事者等
ア 被告は,ホテルの経営等を目的とする株式会社である。
イ 原告は,平成27年9月11日から,被告の経営する大阪府池田市α△丁目△△番△△号所在の,いわゆるラブホテルと呼ばれる種類のホテルである「グランレオン」(以下「本件ホテル」という。)にて業務に従事し,平成30年6月29日に被告との契約関係を終了した。

(2)労働契約の締結等
ア 労働契約の締結
 原告は,平成27年9月11日,被告との間で,以下の内容で労働契約を締結した。



     (中略)


第5 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件ホテルにおける勤務体制
ア 本件ホテルの店長
 c元店長は,本件請求期間のうち,平成29年5月までの間,e(以下「e店長」という。)は,同月以降,それぞれ本件ホテルの店長を務めていた。店長は,概ね10時から22時までの間,本件ホテルに在店していた。

イ キッチン係及びメイク係の勤務時間帯等
 メイク係は,〔1〕昼メイク(9時から17時までの間又は10時から18時までの間)が3~4人,〔2〕夜メイク(18時から24時までの間)が1名,〔3〕深夜メイク(24時から4時までの間)が1名,それぞれ勤務することになるようシフトが組まれていた。
 キッチン係は,9時から24時間が勤務時間帯となり,同時間帯を2名が半分ずつ勤務することとなるようシフトが組まれていた。
(以上,証人e)

(2)具体的な勤務日の決定
 被告は,平成28年頃から平成29年2月頃までの間,毎月11日を始まりとする原告や被告従業員の具体的な勤務日1か月分を決定し,その内容を1枚のシフト表に集約していた。同シフト表は,変形期間開始前の,前月末又は当月初めに同シフト表を本件ホテル内の所定の箇所に貼り出す方法で,周知されていた。
 シフト表の内容は,平成29年3月頃以降は,毎月1日を始まりとする1か月分の具体的な勤務日が記載されたものに変更され,同シフト表の勤務日が開始する前の月の月末までには貼り出されていた。
 もっとも,被告が作成したシフト表には,仮眠時間,昼食時間及び夜食時間の開始時刻及び終了時刻は特定されていなかった。
(乙10〔1〕~〔3〕,11)

(3)業務委託契約締結の経緯等
ア 業務委託契約締結の経緯
(ア)被告は、平成28年7月頃,社会保険等の加入を行うこととなり,原告を含む従業員にその旨を説明した。そうしたところ,原告を含む複数の従業員が,被告に対し,給与から社会保険料の労働者負担分が源泉徴収されるなどの結果,手取り給与額が減少することに難色を示した。そこで,被告は,これらの従業員の処遇について検討を行い,これらの従業員が,被告が「フリーランス契約」と呼ぶ業務委託契約を締結すれば,報酬額が減ることはないと判断した。被告は,原告を含む従業員に対し,「フリーランス契約」を選択することによって,手取りの報酬額が減少することを避けられる旨を伝えた上,「フリーランス契約」を希望する者を対象として,社会保険労務士を交えた説明会を開催した。同説明会においては,「フリーランス契約」を選択した者が,労働者でなくなる結果,被告に対し,労基法上の割増賃金の支払いを求めることができなくなるという説明はなされなかった。
 その結果,原告は,本件業務委託契約書に署名押印を行ない,被告との間で業務委託契約を締結した。原告と同時期に被告との間で業務委託契約を締結した者は,原告以外にはいなかった。 
(証人f,原告)

(イ)原告は,被告との間で「フリーランス契約」を締結したくはなかったものの,c元店長から何度も「フリーランス契約」の話をされるうちに,「フリーランス契約」を締結しなければ,被告から解雇されるのではないかと考えるようになり,「フリーランス契約」の締結に応じざるを得ないと考えるに至ったなどと主張し,これに沿う供述をしている。
 しかしながら,被告との間で,原告と同時期に「フリーランス契約」を締結した者は,原告以外にはいないことからすると,被告が,原告を含む従業員に対し,「フリーランス契約」の締結を迫ったとはうかがわれない。また,原告は,「フリーランス契約」締結に消極的であった理由として,手続が煩雑そうであると考えた旨を述べているところ,「フリーランス契約」の締結に伴う書類の準備などは被告が行っていること(前提事実(4))からすると,原告が「フリーランス契約」に消極的であったともうかがわれない。
 そうすると,原告の主張は採用することができない。

イ 業務委託契約締結後の変更点
 原告は,業務委託契約の締結前から,フロント係の業務に従事していたところ,業務委託契約後も,業務の内容には変化がなかった。また,具体的な勤務日の決定方法についても,業務委託契約の前後で変更はなく,原告は,被告の従業員とともに,1枚のシフト表によって具体的な勤務日が定められていた。
(甲36,乙10〔1〕~〔3〕,11,原告)

(4)受託業務報告書の作成
 原告は,本件業務委託契約書に調印をした,平成28年7月1日以降,本件ホテルでの業務に従事する度に,受託業務報告書に記入をし,被告に提出をすることとなっていた。受託業務報告書の書式には,業務の開始及び終了時刻や,利用客についての報告事項,引継ぎ事項を記載する欄のほか,一時間ごとの入室中,掃除中及び利用停止中の客室数を記載する欄などがあった。客室数の記載は,受託業務報告書によれば,毎時0分に件数を記入することとされていた。
 原告は,本件ホテルでの業務に従事する度に,受託業務報告書の上記各記載事項欄に記入を行い,被告に提出していた。
(甲7~30)

(5)本件ホテルの利用状況
ア 客室の利用状況
 本件ホテルでは,利用客が,おおむね,毎週土曜日に多くなり,平日に減少するという傾向がある。土曜日には,おおむね,32室の客室中,20室前後が利用され,ときには32室全てが利用中となることもあった。平日は,10室前後の客室が利用されている状態にあった。
(甲7~30,証人e)

イ 軽食等の利用状況
 フロント係は,利用客からの軽食や飲み物の注文を,24時間体制で受け付けているものの,利用客は,スーパーマーケットやコンビニエンスストアにおいて飲食物を購入してから,本件ホテルへ来店することが多く,本件ホテルで軽食や飲み物を注文する利用客は,全体の3分の1程度の数であった。軽食や飲み物の注文は,12時から14時までの昼食の時間帯,19時から21時までの夕食の時間帯に行われることが多く,早朝や深夜の時間帯になされることは極めて少なかった。
(証人e)

(6)業務時間中における飲食等
 原告は,業務時間帯において,適宜食事を取り,喫煙をするなどしていた上,深夜時間帯においては,「椅子に座りながら落ちている」ことなど,睡眠を取ることがあった(原告)。

(7)追加業務の費目について
 原告に対して支給された報酬のうち,「追加業務」の費目のものは,被告が,原告の業務に対する熱心さ等を評価して,特別に支給したものである(証人f)。

2 争点1(原告の労働者性)について
(1)業務内容及び遂行方法に対する指揮命令

 原告の業務は,本件業務委託契約書中に,その内容が細かく特定されていた上,同契約書上,原告は,かかる業務を被告の指示によって行い,勤務日ごとに毎回各種状況の報告を行うこととされていた(前提事実(3))。そして,原告は,実際に,被告に対し,受託業務報告書の書式を用いて,利用客についての報告事項,引継ぎ事項を記載する欄のほか,一時間ごとの入室中,掃除中及び利用停止中の客室数に至るまで,業務につき詳細な内容の報告を上げていた(認定事実(4))。このように,被告による詳細な特定や報告の要求があったことからすると,原告の業務内容及び遂行方法に対しては,被告の指揮監督が及んでいたということができる。

(2)時間的場所的拘束性
 原告の業務は,その業務時間が,基本的に午前11時から翌日の午前11時と定められ,業務を行う場所も,本件ホテルという一つの場所に定められているものであって,時間的場所的な拘束性がある。

(3)労働契約との内容の近似性
 原告は,形式上,被告との間で,業務委託契約を締結している(前提事実(3),(5))。
 他方,午前11時から翌日の午前11時までという原告の業務時間(前提事実(7))は,労働者である被告の従業員を対象とした就業規則に記載されている始業時刻及び終業時刻の内容と同一である(前提事実(9)イ)。また,原告が,本件業務委託契約書に基づいて従事する業務内容や,原告の具体的な勤務日の決定方法については,業務委託契約の締結以前に,労働契約に基づいて労務を提供していたときのものと変わりがなかった(認定事実(3)イ)。

(4)小括
ア 以上によれば,原告は,被告との間で,形式的には業務委託契約を締結しているものの,時間的場所的な拘束を受けている上,その業務時間・内容や遂行方法が,被告との間で労働契約を締結した場合と異なるところがなく,被告の指揮監督の及ぶものであったことからすると,原告は,実質的には,被告の指揮命令下で労務提供を行っていたというべきである。

イ なお,被告は,原告の要望を受けて,原告との間で業務委託契約を締結し,原告が開業届や青色申告承認申請書を提出していることから,原告が労働者ではない旨を主張する。
 確かに,原告は,開業届及び青色申告承認申請書を提出しており(前提事実(4)),それ自体は,原告が労働者であることと相容れないものである上,本件業務委託契約書への署名押印は,原告が自発的に署名押印を行ったものであって,被告の意向を受けてやむを得ずに行ったものとはいえない(認定事実(3)ア)。

 しかしながら,原告は,業務委託契約の締結にあたり,被告から「労働者」に該当しなくなる結果,労基法上の割増賃金の支払いを求めることができなくなるなど,原告にとって不利益となる点につき説明を受けた上で,本件業務委託契約書に署名を行ったものではなく(認定事実(3)ア(ア)),また,上記アに説示の内容を踏まえると,原告は,被告からの指揮命令下において労務を提供していたということができることからすると,被告の指摘する事情は,原告が「労働者」であるとの評価を妨げるものとはいえない。

ウ したがって,原告は,労基法上の「労働者」に該当する。
以上:5,795文字

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