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一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定高裁判決紹介1

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令和 2年 9月15日(火):初稿
○「一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定地裁判決紹介」の続きで、その控訴審の昭和42年12月20日東京高裁判決(最高裁判所民事判例集23巻12号2528頁)の事実摘示部分まで紹介します。

○事案は、牛乳小売業者Aの債権者である控訴人が、被控訴人に対して支払遅滞を生じたAにおいて、被控訴人からの取引の打切りや本件建物の上の根抵当権の実行等を免れ、従前どおり牛乳類の供給を受け、その小売営業を継続することを目的として、Aが本件建物を被控訴人に対して譲渡担保に供した行為が詐害行為に当たるとして、詐害行為取消権を行使したものです。

○控訴審判決においても、被控訴人の財産権取得については、Aの債権者に対する詐害行為に当たらない特段の事情があるというべきであるとして控訴を棄却しました。

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主   文
本件控訴を棄却する。
控訴人の第二次的請求を却下する。
控訴費用は控訴人の負担とする。

事   実
控訴代理人は、第一次的請求として、「原判決を取消す。被控訴人が訴外有限会社Aから昭和36年7月25日成立した和解に基き別紙第一目録(一)記載の建物の所有権及び別紙第二目録(一)記載の営業用動産並びに同目録(二)記載の営業権を譲り受けた行為、及び被控訴人が訴外Bから同和解に基き別紙第一目録(二)記載の建物並に同目録(三)記載の借地権を譲り受けた行為は、いづれもこれを取消す。被控訴人は、控訴人に対し金80万円およびこれに対する昭和38年9月22日より右支払済みまで年5分の割合による金員を支払え、訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を、第二次的請求として、「被控訴人は控訴人に対し金80万円を支払え。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第1、2項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、つぎのとおりである。
一、控訴人の主張(請求原因)
(一)第一次請求の原因

控訴人は、昭和36年6月1日訴外有限会社A(以下訴外会社という)同B外2名を連帯債務者として金80万円を弁済期同月30日、利息日歩4銭9厘と定めて貸し渡し、同人らに同額の債権を有している。
被控訴人は、昭和36年7月25日渋谷簡易裁判所において訴外会社および訴外Bと和解をなし、右訴外会社からその所有である別紙第一目録(一)記載の建物の所有権及び別紙第二目録(一)記録の営業用動産並びに同目録(二)記載の営業権を譲り受け、また、Bからその所有である別紙第一目録(二)記載の建物並に同目録(三)記載の借地権を譲り受け、右(一)(二)の建物につき、昭和36年8月23日所有権移転登記手続を経由した。

右和解当時、訴外会社およびBの経済状態は、つぎのとおりであつた。
訴外会社は、牛乳の小売販売を業とし、得意先約1500軒を擁し、1ケ月の売上約90万円、利益12、3万円位を挙げていた。そして、その資産は、別紙第一目録(一)記載の建物(その価格は、同(二)記載の建物およびそれぞれの敷地の借地権と併せて昭和37年8月27日金640万円で被控訴人により処分されたが、和解当時もこの程度の価格であつた)、第二目録(一)記載の営業用動産(価格40万円)、同(二)記載の営業権(価格250万円であるが、被控訴人により100万円で不当に安く処分された)、売掛金6、70万円である。

Bの資産は、第一目録(二)記載の建物、同(三)記載の借地権(以上の価格は、(一)記載の建物と共に640万円で処分された程度の価格であること前記のとおり)である。以上、訴外会社およびBの資産は合計1000万円位であつた。これに対し、負債は、抵当権附債務265万円、一般債務314万円位合計579万円位であつた。しかし、右資産は、営業存続を前提とする価格であり、営業を廃止して精算するとすれば処分の対象は主として不動産となるから債務がやや超過する。しかも、訴外会社は運転資金が極度に不足し倒産寸前の状態にあつた。

被控訴人は、当時訴外会社に対し244万円の債権を有していたが(うち担保付債権は150万円)、もし訴外会社が支払を停止し精算に入るとすれば自己の債権全部の、ことに無担保債権の回収ができなくなることを危惧し、債権回収の目的で前記の和解によつて訴外会社およびBの財産の全部を取得したものである。

その結果、前記の資産1000万円から担保附債務265万円を差引いた残り700万円程度の一般債権者の担保となるべき財産が失われた。訴外会社、Bおよび被控訴人は他の債権者を害することを知りながら右財産譲渡をなしたものであるから、右財産譲渡行為は詐害行為として取消されるべきである。

被控訴人は昭和37年8月27日右(一)、(二)の建物を訴外大商不動産株式会社に売渡し、その他の財産も処分したから、控訴人は、自己の債権額80万円の範囲内で被控訴人に対しその価額の償還を求めることができる、よつて金80万円およびこれを被控訴人に請求した日の翌日である昭和38年9月22日から支払済みまで年5分の遅延損害金の支払を求める。

(二)第二次請求の原因。
本件和解により訴外会社が被控訴人に譲渡した財産は、訴外会社の営業の全部に当るところ、訴外会社は有限会社であるから、右営業譲渡には社員総会の特別決議を要するのに、訴外会社においてその決議がなされなかつた。よつて、右財産譲渡は無効である。また、本件和解によるBの被控訴人に対する財産譲渡は、右訴外会社の財産譲渡と一体としてなされたものであるから、後者が無効である以上前者も無効である。被控訴人は、右取得財産を他に処分し、その処分代金1038万0715円のうち407万2070円を取得したが、これは右の理由により訴外会社およびBに返還すべきものであるところ、控訴人は、訴外会社およびBに対し前記のように80万円の債権を有し、訴外会社およびBは現在全く無資産であるので、控訴人は、これに代位し、被控訴人に対し右80万円の限度で右処分代金の返還を求める。

二 被控訴人の主張(答弁、抗弁)
(一)本案前の主張

第二次請求の追加には異議がある。

(二)第一次請求に対する答弁。
控訴人主張事実中、被控訴人が訴外会社およびBとの間の和解により控訴人主張の財産を取得したこと、訴外会社の売上げ額、Bの資産がその主張の建物および借地権のみであることは認めるが、その余の事実は争う。

(三)第一次請求に対する抗弁。
(1)本件譲受財産は、総債権者の一般担保財産でなかつたこと。

被控訴人は、昭和30年6月10日Bを連帯保証人として訴外会社と牛乳等継続販売契約を締結し、昭和33年5月16日訴外会社およびB所有の前記(一)および(二)の建物につき債権極度額を150万円とする順位二番の根抵当権および債務不履行のときは債権150万円をもつて右各建物を代物弁済として所有権を取得する旨の停止条件附代物弁済予約契約を締結し、それぞれ所要の登記手続を経た。

以来、被控訴人は訴外会社と牛乳等販売契約を継続したところ、訴外会社は昭和36年5月25日までに金244万円の売買代金の支払を遅滞するに至つたので、右訴外会社およびBの申出により昭和36年7月25日控訴人主張の和解をなし、被控訴人は訴外会社およびBより右未払債務および将来の牛乳等代金債務の支払を担保するために、控訴人主張のように本件各財産の譲渡を受けたのである。

ところで、前記(一)(二)の建物は、訴外住宅金融公庫のために債権額65万円、利息年5分5厘の抵当権および訴外東京西南信用組合のために債権極度額を50万円とする根抵当権を負担し、また、建物敷地55坪6合3勺は借地であるから、昭和33年における担保権設定当時右各建物の残存価額は約150万円と判断されていた。

昭和36年の和解による譲渡担保契約当時も、住宅金融公庫、東京西南信用組合に対する債務は若干減少したが、当時右建物には右訴外会社および訴外Bのほか第三者(喫茶店鹿の園)が入居しており、その間における建物の値上りを考慮しても、その残存価額は前記150万円の価額をそれ程上廻るものではなかつたから、被控訴人としては、反対給付なしに右昭和33年の契約に基き同建物を代物弁済として取得しうる立場にあつたものである。

従つて、もともと本件各建物は総債権者の一般担保財産ではなかつた(被控訴人は、昭和37年8月27日、右各建物をその敷地とともに大商不動産株式会社に金900万円で売却できたが、これは僥倖という他はない。つまり、被控訴人は本件建物の敷地を地主から260万円で購入し、土地建物を一括して売却することのできたこと、当時証券会社が好調の波にのり設備の拡張を競つていたので、当時としては高額に売却できたこと、所有者が著名な被控訴人であつたため、直接大商証券株式会社を通じ大商不動産に売却でき、不動産仲介業者の手数料が不要であつたこと等の好条件に恵まれたのである)。

(2)不当性を欠くこと。
本来、債権者詐害の行為は、単に計算上債務者の総債権者のための一般担保財産を減少する行為があつただけでは足りず、なお、その減少行為が不当性を有する場合にはじめて成立するものである。被控訴人は、昭和36年7月25日訴外会社に対する牛乳等代金債権244万円の支払を猶予して分割払とすることを承認するとともに、今後とも牛乳等の売り渡しを継続することとし、既存債権および将来生ずべき牛乳等代金債権支払のための譲渡担保として本件各財産の譲渡を受けたのである。当時訴外会社およびBの更生の道は、引き続き被控訴人より牛乳等の供給を受けて牛乳販売業を継続する以外にはなかつたのであるから、本件各財産の譲渡担保行為は不当性を欠き詐害行為とならない。

(3)善意
被控訴人は当時訴外会社およびBが控訴人らに多額の債務を負担していた事実を全く知らなかつた。せいぜいBの親戚知人より少額の借入があることを予想していたものにすぎない。従つて、牛乳等取引の継続によりその利益中から旧債務の弁済が十分可能であると考えていた。ことに控訴人の訴外会社およびBへの貸付は、昭和36年6月1日のことであつて、ほぼ本件譲渡担保契約の時期に同じであるから、被控訴人はその事実を認識しえなかつたのである。

(4)債務者の弁済資力の回復。
被控訴人は、本件財産を処分した売得金から諸経費を控除し、被控訴人が訴外会社に対し有する債権(損害金債権の大部分を免除)の弁済に充当した上、その残金として昭和37年9月8日5万円、同月18日15万円、同月23日10万円、同年10月2日30万円、同月11日144万4958円合計204万4958円を訴外Bに交付した。従つて、訴外上田は、遅くとも昭和37年10月11日にはその債権者に対する債務の弁済資力を回復したものであるから、かりに被控訴人が訴外会社および訴外Bとなした本件和解が詐害行為に当るとしても、控訴人はもはやこれを理由に取消権を行使しえなくなつたというべきである。

三、控訴人の主張(抗弁に対する答弁)。
(1)抗弁(1)について。

被控訴人は、本件建物には抵当権があり、敷地が借地であるから、本件建物には一般担保財産たる余地がないというが、被控訴人は本件建物を訴外大商不動産株式会社に金640万円(売買代金900万円から敷地取得経費260万円を控除した額)をもつて売却した事実によつても、一般担保財産たる価値が残存していたことは明らかである。

(2)抗弁(2)について。
債務者が所有不動産を特定の債権者に対し譲渡担保としてその所有権を移転し無資力となつたときは、特段の事情がないかぎり詐害行為となる(最高裁昭和36年(オ)第286号判決民集16巻三号436頁参照)。本件の譲渡担保契約は、単に旧債権の回収を確保するためになされたものであつて、債務者の更生の手段ではないから、前記の特段の事情がなく、詐害行為に当ると解すべきである。けだし、本件の譲渡担保契約の締結によつて債務者が得たものはわずかに旧債務の分割弁済の利益にすぎない。

これでは債務者の更生の手段として役に立たない。控訴人は、訴外会社が本件契約により被控訴人より牛乳の継続供給を受けることができたことを強調する。しかし、経済的弱者である債務者が経済的強者である被控訴人より唯一の生業である牛乳販売につき牛乳の供給を止めるとおどされてやむなく本件譲渡担保契約の締結に応じたものにすぎない。このようなことで詐害行為の成立が阻却されるならば、製造業者と代理店というおよそ経済力において優劣の差のある者の間ではすべて詐害行為が成立しないことになるであろう。牛乳供給の継続は、訴外会社と被控訴会社との間の従前からの関係の継続に止まり、新たなる更生の手段の提供に当らない。

(3)抗弁(3)について。
本件債務者が他から多額の債務を負担していたことは、被控訴人も十分認識していた。

(4)抗弁(4)について。
被控訴人は、Bに対し被控訴人主張のとおり本件建物を処分して得た代金より債権を精算した残額を引き渡したことは認めるが、右金員は、当時その日の暮らしにも困つていたBの生活費に充てられてしまい、到底控訴人に対し負担する債務その他の債務の弁済に充てる余裕はなかつた。すなわち、この程度では債務者の弁済資力の回復といえないから、被控訴人の右抗弁は理由がない。

五 証拠関係(省略)


以上:5,516文字

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