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支払合意のない消費税相当額請求はできないとした地裁判決紹介

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令和 2年 5月12日(火):初稿
○判例時報令和2年5月1日号掲載の判例紹介です。事案は、NHK放送受信料の集金、放送受信契約の締結等の契約取次等の業務を個人事業者として受託していた原告らがNHKに対し、消費税相当額を受領していないと主張して、主位的に、消費税法に基づく消費税額相当額の報酬支払請求を求めたものです。

○原告らは、予備的に、業務委託契約上必要な事務費決定のための協議が十分になされてこなかったと主張して、業務委託契約に基づき、十分な協議を求め、それがなされない場合、優越的地位の濫用を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として、主位的請求と同額の各支払を求めました。

○しかし、平成31年1月25日大阪地裁判決(判時2436号80頁)は、業務委託契約において、消費税相当額に対応する合意を行っていなかった場合に、消費税法に基づき、業務委託報酬として消費税相当額の支払を求めることは認められないと全て請求を棄却しました。

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主   文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1(主位的請求)
(1) 被告は,原告X1に対し,171万135円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告X2に対し,111万8675円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 被告は,原告X3に対し,175万9738円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4) 被告は,原告X4に対し,759万6525円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(5) 被告は,原告X5に対し,160万1223円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(6) 被告は,原告X6に対し,133万1378円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(7) 被告は,原告X7に対し,208万8204円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(8) 被告は,原告X8に対し,147万7122円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(9) 被告は,原告X9に対し,114万1699円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(10) 被告は,原告X10に対し,167万5855円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(11) 被告は,原告X11に対し,112万6219円及びこれに対する平成28年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2(予備的請求)
(1) 被告は,原告らと別紙一覧表「請求期間」欄記載の各請求年度における支払事務費にかかる消費税額の支払について十分に協議せよ。
(2) 前項の協議が整わないときは,主位的請求(1)ないし(11)と同旨。

第2 事案の概要
1 本件は,別紙一覧表「請求期間」欄記載の各期間中,個人事業者として被告の放送受信料の集金,放送受信契約の締結等の契約取次等の業務を受託していた原告らが,被告から委託契約に基づく業務委託報酬(以下「事務費」という。)の支払を受けたが,消費税相当額を受領していないとして,被告に対し,主位的に,消費税法に基づき,消費税相当額の報酬支払を求め,そうでないとしても事務費の決定につき被告に優越的地位の濫用を理由とする不法行為又は協議・説明義務違反の債務不履行があった等と主張して,消費税法に基づく消費税額相当額の報酬支払請求,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として,請求の趣旨1項のとおり金員の支払を求め(附帯請求は訴状送達日の翌日からの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金),予備的に,業務委託契約上必要な事務費決定のための協議が十分になされてこなかったと主張して,業務委託契約に基づき,十分な協議を求め,それがなされない場合,優越的地位の濫用を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として,主位的請求と同額の支払を求める事案である。

2 前提事実(当事者間に争いのない事実,後掲各証拠【枝番があるものは枝番も含む。以下同じ。】及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 当事者
 被告は,放送法(昭和25年法律第132号)に基づいて設立された放送事業を行う特殊法人である。
 各原告は,被告から,別紙一覧表の「請求期間」欄記載の各期間(以下「請求期間」という。)において,個人事業者として,放送受信料の集金,放送受信契約の締結等の契約取次等の業務(以下「本件業務」という。)を受託し(以下,被告と原告らとの間における契約をまとめて「本件業務委託契約」といい,原告らを含め,被告との間で本件業務委託契約と同様の業務委託契約を締結していた者を総称して「地域スタッフ」という。),事務費の支払を受けていた(各原告が請求期間中に支払を受けた事務費を「本件事務費」という。)者である(弁論の全趣旨)。

 地域スタッフの多くは,その権利・利益を守るため,事業者団体(労働組合)を組織しており,そうした事業者団体が複数あるところ,原告らは,その1つであるaユニオン(以下「aユニオン」という。)に加入していた(弁論の全趣旨)。

(2) 本件業務に係る事務費は,毎月1日~末日締めで,各原告が履行した委託業務の委託種別ごとに,予め設定された単価と処理した件数をもとに算出される。
 被告は,毎年4月頃,上記単価の設定について,地域スタッフが加入する各事業者団体と協議を行っている。

(3) 平成元年4月1日から施行された消費税法は,国内において個人事業者が行った資産の譲渡等(事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供,以下「資産の譲渡等」という。)に消費税を課しているところ,各原告が本件業務に従事したことは国内において個人事業者が行った資産の譲渡等に該当し,その対価である事務費には消費税が課される。

(4) 導入時の消費税率は3%であったが,その後,平成9年4月1日より税率5%に,同26年4月1日より税率8%にそれぞれ引き上げられている。
 一方,小規模事業者ということで納税義務の免除がされるのは,平成15年10月1日までは,課税期間に係る基準期間における課税売上高が3000万円以下の者であったが,同日からは,1000万円以下の者と変更された。
 原告らは,請求期間を通じて,納税義務を免除される要件を備えていた(弁論の全趣旨)。

(5) 原告らは,被告に対し,平成28年10月11日,本訴請求債権について,支払を催告した。
 被告は,平成29年1月11日の本件口頭弁論期日において,平成23年10月20日支払分(平成23年9月分)より前に発生した本件事務費の支払請求権について消滅時効を援用する意思表示を行った。

3 争点
(1) 消費税法に基づく請求が認められるか(争点1)
(2) 本件事務費に消費税額分が含まれていたか(争点2)
(3) 被告による事務費決定が優越的地位の濫用に該当するか及び該当する場合の効果(争点3)
(4) 被告の事務費決定に当たって協議・説明義務違反があったか(争点4)
(5) 商事消滅時効の援用が権利濫用に当たるか(争点5)


         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 認定事実(前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)

(1) 本件業務委託契約の内容として,被告は,当月の業務にかかる事務費を翌月に受託者に支払うこと,その事務費は,委託業務について,各別に設定された単価に基づき,地域スタッフの処理した件数により算出すること,この単価は,毎年4月,被告と地域スタッフが協議のうえ,決定することが定められている(業務委託契約書第9条1項ないし3項。甲32ないし40)。

(2) 被告は,平成元年度において,最大の事業者団体であったb労働組合(以下「b労」という。)との協議を経た上,消費税導入による物価上昇を考慮した上で,事務費単価を決定した(乙16)。

(3) 被告は,平成元年度において,b労との協議において,平成元年度の事務費のモデルケースを提示しており,同モデルケースは,前年度と比較した場合,年収ベースで4.7%上昇している(乙17,証人B)。

(4) 消費税の被告における明示方法等の変遷について
ア 被告は,平成17年度のあらましにおいて,事務費には消費税が含まれること(内税方式)を明記した(乙1)。

イ 平成23年度に,従前,未収金及び未払金に含めて計上(税込)していた消費税額について,それぞれ別個に計上する(税抜)旨の放送法施行規則の変更が行われ,被告の会計処理が税込方式から税抜方式へと変更されたことから,被告は,平成24年度のあらましにおいて,第5期(同年12月分(翌年1月支払))の事務費に対する消費税を外税方式で明記した(乙2,乙9)。

ウ 被告は,平成25年度から同28年度のあらましにおいて,事務費の金額には消費税が含まれていないことを明記し,消費税は別途加算する外税方式を採用していることが明らかとなっている(乙3ないし6)。

エ 被告は,地域スタッフの利益を代表する複数の事業者団体との間で協議を行った上で,毎年度の事務費単価を決定するという運用を30年以上継続している(乙8)。

2 争点1(消費税法に基づく請求が認められるか)について
(1) 本件業務委託契約に基づく委託業務が消費税法4条1項により課税の対象とされるものであることに争いはないところ,同法5条1項は,事業者は,国内において行った資産の譲渡等につき,この法律により,消費税を納める義務があると定めているから,消費税の納税義務者は,事業者である。そして,本件業務委託契約における事業者は,役務を提供する主体である原告らであり,被告は,それに対する対価を支払う消費者であるから,同法における納税義務者としての事業者は,原告らと解される。

 そうすると,消費税法は,本件業務委託契約における取引について,原告らが消費税の納税義務を負うことのみを定めており,原告らが同法に基づいて消費者である被告に対して消費税相当額を請求する権利については,何ら定めていないというべきである。なお,消費者と事業者との間において行われる取引一般において,消費者が事業者に対して,消費税分を上乗せして支払うことがあるとしても,前記のとおり納税義務を事業者が負うという消費税の仕組みからすれば,この場合に消費者が事業者に対して支払う消費税分は,事業者の預かり分であるというものではなく,あくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないものと解すべきである。

(2) そして,税制改革法(昭和63年12月30日号外法律第107号)11条1項が,事業者は消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ,消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとすると定めていることについても,同規定は,抽象的に,消費税相当額が消費者に適正に転嫁されるべきことを規定しているにすぎず,消費者が納税義務者であると定めるものとは解されない。事業者が消費者から徴収すべき具体的な税額,消費者から徴収しなかったことに対する事業者への制裁等についても全く定められていないことからすると,同規定が,法律的な意味において,納税義務者たる事業者が,相手方に対して,消費税の転嫁を請求する権利を有することを予定したものとはいえない。

 また,消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(平成25年6月12日号外法律第41号)についてみても,特定事業者による減額,買いたたき,購入強制又は役務の利用強制,不当な利益提供,税抜き価格での交渉拒否・報復行為の禁止を遵守事項として規定し(同法3条),公正取引委員会等において,禁止行為の防止,是正のために必要な指導又は助言を行い(同法4条),主務大臣等が公正取引委員会に対し,違反行為に係る適当な措置をすべきことを求め(同法5条),公正取引委員会において特定事業者に対し,違反行為の是正等をすべきことの勧告等を行う旨を定めている(同法6条)ものの,これらは,税制改革法の立法趣旨を更に推し進め,より実効性のあるものとする措置を講じているものであって,同法の制定によって,消費税の基本的性格が変容したものではないから,新たに事業者に消費税の転嫁を請求する権利が認められるようになったと解することもできない。

(3) よって,原告らは,被告に対し,消費税法に基づいて消費税相当額分の金銭を請求することはできない。

3 争点2(本件事務費に消費税額分が含まれていたかどうか)について
 原告らは,第5回弁論準備手続期日において,消費税法に基づく請求のみを主位的請求の訴訟物として選択していることを明らかにしており,当裁判所は,第3回口頭弁論期日において,人証調べを終えた後にされた黙示の合意に基づく請求を,時機に後れ,かつ,審理を長期化させるものとして却下した。

 この点につき付言すると,被告が各事業者団体と協議を行い,その結果に全ての地域スタッフが拘束される慣行が30年以上続いていたこと(認定事実(4)エ),消費税が導入されるに当たって,被告は,消費税導入による物価上昇を考慮しており(認定事実(2),(3)),実質的には消費税分も考慮されていたと認めることができること,そもそも前記のように,消費税は,価格の一部を形成するにとどまり,事業者が預り金として消費税相当額分を有するものではなく,最終的に決定された対価を超えて原告らの指摘する消費税相当額分なるものの請求ができるものではないと解されることからすれば,原告らの請求を基礎づけるような黙示の合意が認められるかどうかという問題がある。

4 争点3(被告による事務費決定が優越的地位の濫用に該当するか及び該当する場合の効果)について
(1) まず,独占禁止法2条9項5号ハにいう減額とは,取引当事者間で適法に定められた取引金額を,その後当事者の一方がその優越的地位に基づいて一方的に減額変更することをいう。本件では,前記のとおり,消費税相当額分まで,事務費に含まれていると考えるべきものであるから,そもそも,減額と見る余地はない。

(2) また,「不当に不利益となる取引条件を設定」したか否かについては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか,他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか等の事情により,判断する。
 この点,前記認定事実のとおり,地域スタッフと被告との間では,協議を行い,協議の結果決まった対価において,契約内容が確定し,協議が調わなかった場合には,被告が対価を決定するという方式(本件事務費単価取決ルール)が採用されてきたところ,かかる方式は,全国に存在する多数の地域スタッフ間との間で,地域スタッフ間の公平を確保しつつ,合理的な期間内に可能な限り地域スタッフの希望を契約内容に反映させるため,消費税法施行後約30年間にわたって被告と地域スタッフとの間で用いられてきた方式であり,その方式自体が不合理とはいえないし,最終的には被告が対価を決定するものの,事前に協議を行うことが前提とされており,また,実際に,協議を経て被告が対価を決定してきたと認められることは前記のとおりであって,被告において,強制的に対価を決定したと認めることはできない。また,本件事務費単価取決ルールによって定まった事務費は,全ての地域スタッフに適用されるものであるから,原告らに対して,差別的な対応が採られているものではない。これらの事情に鑑みれば,「不当に不利益となる取引条件を設定」したことには当たらない。

(3) よって,独占禁止法2条9項5号ハの優越的地位の濫用には当たらない。

5 争点4(被告の事務費決定に当たって協議・説明義務違反があったか)について
(1) 前記のとおり,消費税の納税義務者は原告ら地域スタッフであるところ,消費税導入が公知の事実であったことからすれば,消費税相当分をそのまま上乗せすることを求める場合,地域スタッフ側が,被告との協議において,持ち出すべきであったものである。被告が大規模な事業を行う法人であったとしても,被告はあくまで転嫁される側なのであるから,被告側があえてそのような上乗せを当然に容認しなければならないとか,消費税法施行時,上乗せを前提とする説明をしなければならない義務を負っていたとは解されない。

(2) そして,前記認定事実のとおり,被告は,消費税導入時,事業者団体との協議を経て,消費税導入による物価上昇を考慮した上で事務費単価を決定したことが認められるほか,その後も,毎年度,複数の事業者団体との間で協議を行った上で事務費単価を決定しているのであるから,消費税について十分な協議が行われてこなかったとする原告らの主張は理由がない。

(3) よって,被告には協議・説明義務違反の債務不履行は認められない。

(4) また,これまで相応の協議がされてきたこと,原告らが実際に過去分の消費税額を納付しなければならないわけではないことからすると,過去の消費税相当額について十分な協議を行うことを求める旨の原告らの予備的請求に係る主張も根拠を欠く。

6 争点5については,判断を要しない。

7 なお,原告らの文書提出命令の申立ては,以上に説示したところからすれば,必要性が認められないことは明らかであることから,第3回口頭弁論期日において,却下した。

第4 結論
 以上によれば,原告らの請求はいずれも棄却すべきであるから,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第16民事部 (裁判長裁判官 福田修久 裁判官 岡野慎也 裁判官 中澤崇晶)
以上:7,473文字

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