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ツイッターへのリツイート投稿に名誉毀損を認めた地裁判決紹介

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令和 2年 4月22日(水):初稿
○他人がした投稿を引用する形式で自己のアカウントから投稿する方法(リツイート)によりなされたツイッター上の投稿が、名誉毀損に該当するとして、リツイートをした者に民法709条の不法行為責任を認めた令和元年9月12日大阪地裁判決(判時2434号41頁)関連部分を紹介します。

○超有名人の本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。)が、ツイッターにおける有名ジャーナリストの本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)のリツイート投稿が名誉毀損に当たると主張して100万円の損害賠償を求め、被告は、原告による本件提訴が訴権の濫用である「スラップ」に当たるとして300万円の反訴請求をしましたが、大阪地裁は、超有名人に軍配を上げました。

○私はツイッターは利用していませんが、他人ツイッターを見ると、リツイート投稿が頻繁に見られます。判決は、元ツイートをそのまま引用するリツイートは,ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,リツイートの投稿者が,自身のフォロワーに対し,当該元ツイートの内容に賛同する意思を示す表現行為と解するとしています。安易なリツイートに対する戒めです。

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主   文
1 本訴被告は,本訴原告に対し,33万円及びこれに対する平成29年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 本訴原告のその余の請求を棄却する。
3 反訴原告の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴ともに,これを5分し,その1を本訴原告・反訴被告の負担とし,その余を本訴被告・反訴原告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 本訴
 本訴被告は,本訴原告に対し,110万円及びこれに対する平成29年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 反訴
 反訴被告は,反訴原告に対し,300万円及びこれに対する平成29年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の概要

 本訴請求は,本訴原告・反訴被告(以下,単に「原告」という。)が,ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)における本訴被告・反訴原告(以下,単に「被告」という。)の投稿(以下「本件投稿」という。)が原告に対する名誉毀損に当たると主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,慰謝料及び弁護士費用の合計110万円及びこれに対する不法行為日(本件投稿の日)である平成29年10月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 反訴請求は,被告が,原告による本訴提起行為(以下「本件提訴」という。)が訴権の濫用である「スラップ」に当たると主張して,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,肉体的・精神的・財産的損害として300万円及びこれに対する不法行為日(本訴提起日)である平成29年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

         (中略)


第3 争点に対する判断
1 争点1(名誉毀損の有無)について
(1)本件投稿の行為主体(責任の帰属主体)について

 前提事実(2)のとおり,本件投稿は,リツイートの形式で,何ら被告によるコメントを付すことなく投稿されたツイートであるところ,被告は,この点を指摘して,本件投稿は本件元ツイートの投稿者の発言とみるべきであると主張する。

 そこで検討するに,ツイッターにおいては,投稿者は,自己の発言を投稿するのみならず,他者の投稿(元ツイート)を引用する形式で投稿(リツイート)することができるところ,リツイートの際には,自己のコメントを付して引用することや,自己のコメントを何も付さずに単に元ツイートをそのまま引用することもできる。そして,投稿者がリツイートの形式で投稿する場合,被告が主張するように,元ツイートの内容に賛同する目的でこれを引用する場合や,元ツイートの内容を批判する目的で引用する場合など,様々な目的でこれを行うことが考えられる。

 しかし,他者の元ツイートの内容を批判する目的や元ツイートを他に紹介(拡散)して議論を喚起する目的で当該元ツイートを引用する場合,何らのコメントも付加しないで元ツイートをそのまま引用することは考え難く,投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることなどを明らかにするべく,当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常であると考えられる。

したがって,ツイッターが,140文字という字数制限のあるインターネット上の簡便な情報ネットワークであって,その利用者において,詳細な説明や論述をすることなく,簡易・簡略な表現によって気軽に投稿することが想定される媒体であることを考慮しても,上記のような,何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するリツイートは,ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,例えば,前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など,一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り,リツイートの投稿者が,自身のフォロワーに対し,当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である。

 そうすると,本件投稿においては,本件投稿前後のツイートに被告が本件元ツイートを引用した意図が読み取れるようなものはなく(甲5),他に一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような上記特段の事情は認められないから,本件投稿で引用された本件元ツイートの内容は,本件投稿の投稿者である被告による,本件元ツイートの内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としての被告自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり,被告は,本件投稿の行為主体として,その内容について責任を負うというべきである。 

 被告は,本件投稿について,本件元ツイートを情報提供の趣旨でリツイートしたに過ぎないから,本件投稿は本件元ツイートの投稿者の意見とみるべきである旨主張するが,仮に,被告が本件投稿を行った主観的意図がフォロワーに対する情報提供という点にあったとしても,前記のとおり,一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすると,何のコメントも付さないままリツイートするという本件投稿の態様からすれば,その情報提供には本件元ツイートの内容に賛同する被告の意思も併せて示されていると理解されるというべきであるから,この点に関する被告の主張は採用できない。

(2)本件投稿の名誉毀損行為該当性について
ア 一般に,名誉毀損の成否が問題とされている表現が,事実を摘示するものであるか,意見ないし論評の表明であるかについては,一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準として,当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は,上記特定の事項についての事実を摘示するものであり,そのような証拠等による証明になじまない物事の価値,善悪,優劣についての批評や論議などは,意見ないし論評の表明に属するものというべきである。

 また,人の社会的評価を低下させる表現は,事実の摘示であるか,意見ないし論評の表明であるかを問わず,人の名誉を毀損するというべきであるところ,ある表現における事実の摘示又は意見ないし論評の表明が人の社会的評価を低下させるかどうかは,当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準としてその意味内容を解釈して判断すべきものと解される。
 (以上につき,最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁,最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁,最高裁平成15年(受)第1793号,第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)

 そこで,これらを前提に,以下,本件投稿が原告に対する名誉毀損行為に該当するかについて検討する。
イ 本件投稿の性質について
(ア)本件投稿は,前提事実(2)ア(ア)のとおり,「D氏,E議員の党代表「茶化し」2度目...F代表「20歳も年下に我慢している」」との一文(以下「前文」という。)及びURLを前置きした上で,「Dが30代でA知事になったとき,20歳以上年上のAの幹部たちに随分と生意気な口をきき,自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」との一文(以下「本文」という。)を記載するものである。

 そして,この本文は,原告が「20歳以上年上のAの幹部たちに随分と生意気な口をきき,自殺にまで追い込んだ」との事実を記載するもので,原告が生意気な口をきいたAの幹部等と自殺した人物が同一であること(自殺した人物が,原告が生意気な口をきいた幹部等に含まれること)を明確に指摘しているわけではなく,必ずしも原告がAの幹部等に生意気な口をきいたことにより当該幹部を直接自殺に追い込んだと明示しているわけではないものの,他方で,原告が「生意気な口をき」いた人物と「自殺にまで追い込」まれた人物が別人であることをうかがわせる記載はなく,「20歳以上年上のAの幹部たちに随分と生意気な口をきき」の部分と「自殺にまで追い込んだ」の部分は読点を挟んで順接されており,原告が「生意気な口をき」いた人物について「Aの幹部たち」として特定した後に続く「自殺にまで追い込」まれた人物については何ら特定・限定する文言を付していないことからすると,一般の閲読者の普通の読み方と注意を基準とすれば,「自殺にまで追い込」まれた人物は,原告が「生意気な口をき」いた人物である「Aの幹部たち」のうちの誰かを指すものと理解される表現というべきである。

 そして,この表現部分が本文のほとんどを占めており,後記ウに説示するとおり,それ自体が原告の社会的評価に影響する事実であることに照らすと,この表現部分が本件投稿の中心的部分であり,それは証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものというべきであるから,本件投稿は,「A知事であった原告が,Aの幹部職員に対して生意気な口をきき,当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」事実を摘示する表現と認めるのが相当である。

(イ)これに対し,被告は,本件投稿の読み方は,本件投稿の文言のみならず,これに先行する報道内容,本件元ツイートの投稿者の意図や被告の意図のほか,本件投稿前後の状況をも含めて検討すべきである旨主張し,そのようにして本件投稿を検討すれば,仮に,本件投稿が被告の表現と理解されるとしても,本件投稿は,本文末尾の「忘れたのか!恥を知れ!」との部分を表現の核心的部分とする原告の言動に対する被告の意見論評であり,その前提となる重要な事実は,「〔1〕原告が,A知事という権力的立場でAの職員を威圧していた事実,〔2〕当該職員の職務上の負荷過重性を形成した過程に,原告が関与していた事実,〔3〕Aの職員が職務上の負荷を理由に自殺を図ったという客観的事実」の3点であって,原告がA職員に直接圧力をかけて当該職員を自殺に追い込んだか否かではない旨主張する。

 しかし,そもそも,被告の指摘するA職員の自殺に関する先行報道のほとんどは,本件投稿から約5年あるいはそれ以上前の平成22年ないし平成24年の出版物であり(乙52ないし54,56ないし60,67),本件投稿時点において,本件投稿に係るA職員の自殺に関する報道や出版物等の内容は,検索機能を通じてネットニュースやAホームページ等で確認することができる(乙61,62ないし66)にとどまると解されることに鑑みれば,本件投稿の一般的な閲読者の注意と読み方を判断するにあたり,一般的な閲読者が,被告指摘にかかる上記先行報道の内容を認識していることを前提とすることは相当とはいえない。また,本件投稿の一般的な閲読者(受信者)の注意と読み方を判断するにあたり,発信者である本件元ツイートの投稿者や被告の,表現内容に現れていない内心の意図を考慮することも相当であるとはいえない。

 さらに,本件投稿前後の状況についても,確かに,別紙1のとおり,本件投稿の表示形式からすると,本件投稿に表示されたリンク先のURLは,前文と同タイトルのG新聞のインターネット上の記事(乙26)と関連するウェブページである可能性が高いと認められ,また,本件投稿に先立ち,原告がE議員について,複数回「ボケ!」などと記載する内容のツイートをしている(乙99)事実は認められる。しかし,前記(1)で説示した,字数制限のあるインターネット上の簡便な情報ネットワークとしてのツイッターの性質を前提とすれば,ツイッターの利用者は,その利用の簡便さから,気軽に,容易に情報を発信(投稿)できる一方,そのように発信(投稿)されたツイートを大量に受信するのであり,自ら新聞や週刊誌を購入・閲読する読者に比して,受動的な立場で情報に接する側面があることは否定できないことからすると,そのようなツイッターの一般の利用者(閲読者)は,必ずしも,本件投稿に表示されたリンク先のウェブページや本件投稿に先立つ原告のツイート内容まで逐一確認するものとは認め難いというべきである。したがって,本件投稿の一般的な閲読者の注意と読み方を判断するにあたり,一般的な閲読者が,上記リンク先の記事や本件投稿に先立つ原告のツイートを認識していることを前提とすることも相当でないというべきである。

 以上に検討したとおり,上記被告の主張は,その前提自体が採用できず,本件投稿で摘示された事実を,被告の主張する「〔1〕原告が,A知事という権力的立場でAの職員を威圧していた事実,〔2〕当該職員の職務上の負荷過重性を形成した過程に,原告が関与していた事実,〔3〕Aの職員が職務上の負荷を理由に自殺を図ったという客観的事実」と理解することはできない。

 また,「忘れたのか!恥を知れ!」との表現部分は,原告の言動を非難する表現ではあるものの,自己の見解を具体的に述べるものではなく,抽象的に非難する言葉を記載しただけのものであり,それが,「Dが30代でA知事になったとき,20歳以上年上のAの幹部たちに随分と生意気な口をきき,自殺にまで追い込んだこと」という,それ自体原告の社会的評価を低下させる事実を記載した文言に続くものであることからすると,本件投稿を全体としてみた場合,上記(ア)に説示したとおり,表現の中心的部分は「A知事であった原告が,Aの幹部職員に対して生意気な口をきき,当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」との事実を摘示する部分というべきであるから,本件投稿が意見・論評の表明であるとの被告の主張も採用できない。

ウ 本件投稿による原告の社会的評価の低下の有無について
(ア)上記イ(ア)のとおり,本件投稿は,被告が「A知事であった原告が,Aの幹部職員に対して生意気な口をきき,当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」との事実を摘示するものであるところ,本件投稿の一般の閲読者の注意と読み方を基準とすれば,同事実は,原告について,部下職員を自殺に追い込むようなパワーハラスメントを行った人物であるとの印象を与えるものであるから,本件投稿は原告の社会的評価を低下させる表現であると認められる。

(イ)この点,被告は,本件投稿の内容は,既に出版物等で繰り返し指摘・論評されてきたものであるから,原告の社会的評価は既に低下しており,本件投稿は新たに原告の社会的評価を低下させるものではない旨主張する。
 しかし,被告自身も自認するとおり,本件投稿にかかるA職員の自殺に関する先行報道や出版物の記載(乙52ないし54,56ないし61,67)は,いずれも「原告が職員に対して直接行った言動を理由に当該職員が自殺した。」というものではなく,本件投稿の内容は先行する報道や出版物と同じものとはいえない。また,そもそも,本件投稿が,人の社会的評価を低下させる表現である以上,本件投稿が摘示する事実が既に他の表現媒体によって報道等されているか否か,公知の事実となっているか否かにかかわらず,原告の名誉を毀損することに変わりはなく,原告に対する不法行為を構成するものというべきである。
 したがって,いずれにしても,この点に関する被告の主張は採用できない。

エ 以上に検討したところによれば,本件投稿は,被告の原告に対する名誉毀損行為に該当する。


         (中略)

4 争点4(本件提訴についての不法行為の成否)について
 被告は,本件提訴がスラップとして訴権の濫用に当たるとして,前記のとおり主張するが,「被告による本件投稿について不法行為が成立し,原告にこれと相当因果関係のある損害(慰謝料)が認められる。」という原告の主張に理由があることは上記1ないし3で説示したとおりであって,被告の主張する名誉毀損訴訟におけるスラップ該当性の要件を前提としたとしても,本件提訴がスラップに該当する余地はないといわざるを得ない。
 したがって,原告の本訴請求についてスラップを理由として却下判決を求める被告の本案前の抗弁の主張は採用できず,また,被告の反訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。

5 以上によれば,原告の本訴請求は,33万円及びこれに対する遅延損害金を求める限度で理由があり,その余の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がない。
 よって,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第13民事部 裁判長裁判官 末永雅之 裁判官 重高啓 裁判官 青木崇史
以上:7,448文字

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