令和 2年 2月 6日(木):初稿 |
○ペットに対する傷害や売買での瑕疵担保責任についての質問を受け、その回答をするために裁判例を調査した結果、見つけた判例を3件紹介しました。我が家でもペットとして猫を2匹飼っていますが、自宅マンションでも事務所マンションでもペットとして犬を飼って散歩に連れ歩く方が相当多く見受けられます。ペットブームと呼ばれるようになって久しいですが、これだけペットが増えると裁判事例も増えるかと思っていましたが、判例データベースには意外と少ないものでした。 ○ペットに対する傷害での典型的問題は、10万円で購入したペットの傷害治療のため100万円の治療費がかかった場合どこまで請求できるかというものです。この問題についての一般論は、平成20年9月30日名古屋高裁判決(交通事故民事裁判例集41巻5号1186頁)で示された「一般に,不法行為によって物が毀損した場合の修理費等については,そのうちの不法行為時における当該物の時価相当額に限り,これを不法行為との間に相当因果関係のある損害とすべきとしながら、愛玩動物のうち家族の一員であるかのように遇されているものが不法行為によって負傷した場合の治療費等については,生命を持つ動物の性質上,必ずしも当該動物の時価相当額に限られるとするべきではなく,当面の治療や,その生命の確保,維持に必要不可欠なものについては,時価相当額を念頭に置いた上で,社会通念上,相当と認められる限度において,不法行為との間に因果関係のある損害に当たる」というものです。 ○その要件は ①物の毀損と異なり、その時価相当額に限定されない(自動車毀損の場合、修理費がいくら高くても時価以上の損害は認められません) ②当面の治療や,その生命の確保,維持に必要不可欠なものについては,時価相当額を念頭に置いた上で,社会通念上,相当と認められる限度 において相当因果関係が認められるとされます。 ○生命の確保・維持に必要不可欠な治療費としても、時価相当額を無視することはできず、社会通念上相当と認められるとの抽象的概念では、実際事案への適用は大変難しいように感じます。平成20年4月25日名古屋地方裁判所(交通事故民事裁判例集41巻5号1192頁)では、傷害を受けた犬の治療費だけでなく、通院・自宅付添看護費として228万円、将来の通院・自宅付添看護費として246万円、慰謝料200万円等合計990万円も請求しました。 ○これに対し、一審名古屋地裁判決が合計約186万円認めましたが、控訴審名古屋高裁は約53万円に減額しました。990万円の請求に対し、最終的には53万円で請求額の5%強の認定でしたので、犬の飼い主からすればなんと酷い判決だとの感想と思われます。しかし、損害賠償請求を受けた加害者にしてみれば、購入額僅か6万5000円の犬のために53万円も支払わなければならないことに大いに不満のはずです。 ○請求する側では、動物愛護法を持ち出して、治療を受けさせ、付添看護をしたことは、動物愛護法に適合する行為であり、この治療を受けさせなかったり、付添看護をしなかったりすれば、動物虐待として同法による刑事罰に処せられる可能性もあると主張しました。しかし、名古屋地裁判決は、非常に手厚い診療等を受けさせ、付添看護をしたことは、確かに動物愛護法によく適合する行為というべきものであるが、そのことと、その診療等及び付添看護に係る費用を本件事故による損害として被告らに賠償させるべきか否かとは別個の問題であって、動物愛護法に適合する診療等及び付添看護がなされたからといって、必ずしもその費用がすべて本件事故から通常生ずべき損害と評価されることにはならないとして、動物愛護法を根拠にした主張は、一蹴しています。 ○江戸時代最悪の法と呼ばれる生類憐れみの令でもあれば話しは別ですが、やはり、現代では、極端な動物愛護の費用は、愛護者自身の負担とすべきと思われます。 以上:1,607文字
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