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ペットの売買で売主の瑕疵担保責任を認めなかった地裁判決紹介

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令和 2年 2月 5日(水):初稿
○「交通事故でのペットへの傷害に対する慰謝料等の請求を認めた高裁判決紹介」に引き続き、ペットに関する損害賠償請求事件として、売主の瑕疵担保責任は認めませんでしたが、病気の犬を預かりながら獣医師の診察を受けさせるべき注意義務を怠ったとして、売主に不法行為責任を認めた平成22年1月25日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)関連部分を紹介します。

○事案は、被告から愛玩犬を買い受けた原告が、被告に対し、①同犬に隠れた瑕疵があったため死亡したと主張して、瑕疵担保責任等に基づき売買代金相当額の支払を求めるとともに、②同犬を預かった被告が、獣医師による医療措置を受けさせず同犬を死亡させたと主張して、不法行為に基づく損害賠償を求めたものです。

○東京地裁判決は、同犬が引渡時に何らかの疾患に罹患していたとは断定できないとして①の請求は棄却し、被告が同犬を預かった段階では、子犬販売業者としての被告の世話によっては症状が改善しない状況だったのであるから、獣医師の診察を受けさせるべき注意義務があったとしつつ、獣医師の資格のない被告に同犬を預けた原告にも5割の過失があるなどとして、②の請求の一部を認めました。

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主   文
1 被告は原告に対し,5万7875円及びこれに対する平成21年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを8分し,その7を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決の第1項は,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は原告に対し,42万4832円及びこれに対する平成21年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,被告から愛がん犬を買い受けた原告が,被告に対し,①同犬に隠れた瑕疵があったため死亡したとして,瑕疵担保責任,債務不履行ないし契約の解除に基づき,同犬の売買代金相当額23万1000円,②被告が原告に対し,上記犬を自分(被告)に預けさせたにもかかわらず,早急に獣医師の診察を受けさせるなどの医療措置を講ずる義務を怠ったとして,不法行為に基づき治療費,診断書料,葬儀費用,慰謝料及び弁護士費用合計19万3832円及び③上記①と②に対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の各支払を求めている事案である。

1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)


    (中略)


第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件犬について隠れた瑕疵の有無)について検討する。

(1) 原告は,本件犬が引き渡された時点で,何らかの疾患により体調を崩しており,特にパルボウィルスに罹患していたことが疑われる旨主張する。


    (中略)


(3) 以上によれば,争点(1)に関する原告の主張は,理由がない。

2 争点(2)(被告の原告に対する不法行為責任の有無)について検討する。
(1) 原告は,本件動物病院に入院させる予定であった本件犬を被告に指示されて被告に預けたところ,その時点で既に本件犬に下痢や嘔吐の症状があった以上,被告は速やかに獣医師による相応の措置を受けさせる注意義務があったがこれを怠った旨主張する。

(2) 被告が,本件犬を預かったことにより原告に対し負う注意義務の内容は,被告が原告から本件犬を預かったことの趣旨により決まるというべきところ,本件犬は,既に本件動物病院の診察を受け,そのまま本件動物病院で入院治療を受けることが可能であったにもかかわらず,原告は,獣医師の資格のない子犬販売業者にすぎない被告に本件犬を預けたのであり,このことによれば,被告は原告に対し,自ら又は獣医師に依頼して獣医療行為を提供する義務があったということはできず,むしろ,子犬販売業者としての知識及び能力の範囲内で,本件犬の世話をする義務があったにとどまるというべきである。

もっとも,被告の負う注意義務が,子犬販売業者としての知識及び能力の範囲内で本件犬の世話をすることであったとしても,この範囲内で対応できないような状況が本件犬に発生した場合には,被告は,本件犬に獣医師の獣医療行為を受けさせるべき注意義務があったと解するのが相当である。

(3) しかるに,前記前提事実のとおり,原告は,平成19年10月23日,本件犬を本件動物病院に連れていき,診察を受けさせ,その結果,本件診断書記載のとおり,下痢,嘔吐及び低血糖の診断がされたが,原告は被告に連絡した上,本件犬を被告に預けることとしたこと及び被告は本件犬が同月28日に死亡するまで,獣医師の診察を受けさせなかったことが認められる。

 そして,乙12及び被告本人の供述によれば,被告は,本件犬を預かってから,本件犬に対し整腸剤,ぶどう糖及び抗生剤を投与し,食事を与え,電話で獣医の指示を仰ぐ等し,店を臨時休業し,また他の顧客訪問もキャンセルして,被告の妻と交代して本件犬の栄養補強を図り,平成19年10月25日か26日ころ,本件犬は,多少動くことができるような状態になったが,下痢の症状は改善せず,平成19年10月27日の夜中ころから,本件犬がぐったりし,意識も混濁しているような状態にあったことから,ブドウ糖投与等の応急措置をした上,翌28日午前6時ころ,獣医師による点滴の要否を電話で照会したところ,無駄である旨の回答を受け,その直後,本件犬が死亡したことが認められる。

 このように,被告が,整腸剤や抗生物質を投与したにもかかわらず,本件犬を平成19年10月23日に預かってから下痢の症状が改善しなかったことからすると,子犬販売業者としての被告の世話によって,本件犬の下痢や嘔吐を止めることができなかったのであるから,下痢の症状が改善しなかいことが明らかになった時点で(具体的には,前記のとおり,平成19年10月24日,被告が原告に対し,本件犬に下痢及び嘔吐がみられ,脱水症状である旨述べたことからすると,同時点で,被告の世話が奏功していないことが明らかになったとみることができる。),本件犬に獣医師の診察を受けさせるべき注意義務があったというべきである。したがって,被告が,この時点で,自ら本件犬の世話をし,本件犬に獣医師の診察を受けさせなかったことは,本件犬の飼主である原告に対する不法行為に当たるというべきである。

 なお,上記のとおり,原告は,本件犬を預かっている間,適宜電話で獣医師と連絡を取り,指示を仰いでいたが,獣医師の資格のない被告が獣医師の指示の下で本件犬の世話をしたとしても,それは,獣医師の診察に基づいた措置と同視することはできないので,上記認定を左右するに足りない。また,被告本人の供述には,原告からの電話により,やむを得ず本件犬を預かるに至ったとする部分があるが,仮に,被告がそのような経緯により本件犬を預かるに至ったとしても,被告がいったん本件犬を預かり,自分の管理下においた以上,上記認定を左右するに足りない。
 そうすると,争点(2)に関する原告の主張は理由がある。

3 争点(3)(原告の損害)について検討する。
(1) 原告は,被告の不法行為により,本件動物病院の治療費相当の損害を被った旨主張するが,被告の不法行為は,被告が平成19年10月23日に本件犬を預かって以降に生じたというべきであり,それ以前に生じた本件動物病院の治療費は,被告の不法行為と因果関係がない。

(2) 甲4によれば,原告は,本件診断書に係る費用として3150円を支払ったことが認められるところ,同支払は,被告の不法行為と因果関係のある原告の損害であると認められる。

(3) 原告は,本件犬の葬儀費用として3万6120円を支払った旨主張し,甲5には,これに沿う部分がある。しかしながら,甲5,7ないし9及び弁論の全趣旨によれば,同費用は,宗教施設において,飼主が立会いの上,個別に火葬した場合の料金であり,合同葬の場合にはこれより安価であり,さらに,清掃事務所による動物死体処理料金の場合には,処理料金が1頭につき2600円にとどまることが認められる。そして,一般論として,あたかも家族の一員であったかのように愛がんの対象となったペットが死亡した場合に,飼い主が宗教施設における葬儀を希望することは想像できるところである。

しかしながら,本件においては,本件犬が原告に引き渡されてから死亡まで約1週間程度しか経過していない。また,後記(7)のとおり,本件動物病院の獣医師も,獣医療上の必要性や合理性という観点からでなく,本件犬に関する入院費の負担や保証に関する販売業者との交渉の円滑という観点から原告に対し本件犬を被告に預けるように助言し,原告がこれに従ったことなどに照らすと,本件犬が真に原告の愛がんの対象となっていたかどうか疑問なしとせず,原告が本件犬について,宗教施設における立会葬を営んだことに相当因果関係があったということはできない。このような観点からすると,被告の不法行為と相当因果関係のある葬儀費用は2600円が相当である。

(4) 原告の慰謝料について検討するに,前記のとおり,被告の不法行為により,原告が本件犬を引き取ってから約1週間で死亡したこと及び本件犬の売買代金が22万円(消費税相当額を除く。なお,原告は,この売買代金額を,被告の不法行為による損害として主張していないが,原告が主張する慰謝料の金額の範囲内で,これを考慮することとする。)であったこと,他方で,本件犬は,被告が預かるようになった段階で既に下痢,嘔吐及び低血糖症が見られたこと(この点が本件犬の瑕疵に当たらないことは前記のとおりである。),本件全証拠によっても,このような症状の発生が被告の過失によるものであったと言い切ることはできないこと及び上記のとおり本件犬が真に原告の愛玩の対象となっていたかどうか疑問なしとしないこと等本件に顕れたすべての事情を考慮すると,被告の不法行為により原告が被った精神的損害を慰謝するには10万円が相当である。

(5) 被告の不法行為と相当因果関係がある弁護士費用は1万円が相当である。

(6) 上記の合計は,11万5750円となる。

(7) 他方,前記のとおり,本件犬は,そもそも本件動物病院で診察を受け,入院治療を受けることが可能であったにもかかわらず,原告は,獣医師の資格を有しない被告に本件犬を預けたのであり,本件犬が適時に獣医師の治療を受けられなかった一因は,原告にもあるというべきであるから,原告の過失割合は5割とするのが相当である。

 この点について,原告は,本件動物病院の獣医師が,本件犬を被告に戻すよう指示した旨主張するが,甲17には,本件動物病院の医師は,本件動物病院で本件犬が死亡した場合に,本件犬の売買代金の返還や治療費の負担を巡って紛争が生じることを避け,子犬販売業者が治療費を節約し,買主としても保証を受けやすくするために,原告に対し,本件犬を被告に返還するよう助言した旨の記載があり,かえって,前記1(1)ア(ウ)のとおり,パルボウィルス感染症では発症から約1週間の対症療法が予後を左右するのであり,同期間は獣医師による治療が望ましいと考えられることに照らすと,上記助言が本件犬に対する獣医療上の必要性ないし合理性に基づくものでないことが認められ,原告としても,上記指示を受けた時点で,その獣医学上の必要性を確認することができたというべきであるから,そのことによって,原告の過失割合に関する上記認定は左右されない。

 また,原告は,被告が原告に対し,本件犬を自分(被告)に預けるよう指示した旨主張するところ,原告本人の供述によれば,原告は,本件犬のほかにも複数頭の犬を飼育しており,このように犬の飼育の経験のある原告が,その飼い犬である本件犬の治療について,獣医師の資格のない被告の指示に従い,獣医師の治療を提供できる本件動物病院への入院を中止すべき合理的な理由は見出し難いので,本件犬の世話に関する被告の注意義務に関する上記認定は左右されない(かえって,被告本人の供述には,上記連絡において,原告が本件犬の入院費について言及したとする部分があることからすると,原告は被告に対し,本件犬の入院費の負担を求め,被告がこれに消極的な態度を示したところ,原告が被告に対し,被告の負担において本件犬を本件動物病院に入院させる代わりに,被告が本件犬を預かることを求めた可能性等が否定できない。)。したがって,原告のこれらの主張は,上記判断を左右するものではない。

(8) そうすると,被告が原告に対し賠償すべき損害は,11万5750円からその5割を控除した額である5万7875円となる。

4 以上によれば,原告の請求は,主文第1項の限度で理由があり,その余については理由がない。
 (裁判官 倉澤守春)
以上:5,317文字

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