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対弁護士懲戒請求呼び掛け発信者情報開示請求を棄却した地裁判決紹介

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令和 1年11月27日(水):初稿
○弁護士である原告が、インターネット上のブログにおける別紙投稿記事目録記載の氏名不詳者による各投稿記事について,これらの投稿記事が,弁護士である原告に対する違法な懲戒請求を呼び掛ける行為ないし名誉毀損行為に該当し,これによって原告の人格権等の権利利益が侵害されたことが明らかであると主張して,氏名不詳者にサーバホスティング等のサービスを提供した被告のプロバイダ会社に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,被告の保有する発信者情報の開示を求めました。

○これに対し懲戒請求の呼び掛けを内容とする本件投稿を行ったという情報の流通自体によって権利侵害が生じたということはできず、本件投稿の趣旨,態様,主観的意図,本件投稿及びこれに起因して寄せられた本件懲戒請求により負うことになった原告の負担の程度等を総合考慮しなければ,本件投稿によって原告の被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えたものであるかは明らかにならないものであるから,「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかである」ということはできず、原告の社会的評価を低下させるものではないなどの理由で請求を棄却した平成31年4月19日大阪地裁判決(ウエストロージャパン)の関連部分を紹介します。

○この地裁判決は、令和元年10月25日大阪高裁判決で覆されていますので、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は,原告が,インターネット上のブログにおける別紙投稿記事目録記載の氏名不詳者による各投稿記事について,これらの投稿記事が,弁護士である原告に対する違法な懲戒請求を呼び掛ける行為ないし名誉毀損行為に該当し,これによって原告の人格権等の権利利益が侵害されたことが明らかであると主張して,上記氏名不詳者にサーバホスティング等のサービスを提供した被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,被告の保有する発信者情報の開示を求める事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者
ア 原告は,東京弁護士会に所属する弁護士であり,労働事件を取り扱っているほか,ブラック企業被害対策弁護団の代表を務める。
イ 被告は,サーバの販売,貸与,保守及び管理,ドメイン名の取得代行及び管理並びにコンピュータネットワークシステムの開発,管理及び運用等を業とする株式会社である。
(以上ア,イにつき,甲2,4,20,弁論の全趣旨)
(2)本件投稿の内容

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められ,これを左右するに足りる証拠はない。
(1)本件ブログの概要等
ア 本件投稿者は,朝鮮学校に対する国家による補助金の支給が,北朝鮮による核・ミサイル開発の援助に繋がり,日本国民の主権,名誉や平和的生存権の侵害をもたらすものであって,憲法や国連人権規約その他各法令に違反し,違憲,違法であり,各弁護士会において朝鮮学校に対する補助金支給を求める会長声明を出すこと等も上記の観点から日本国民の国益を損なう敵対的行為であって許されないとの見解を有している(乙1・資料A,同B)。

イ 本件投稿者は,本件投稿以前から,本件ブログへの投稿を通じて,安保法制,従軍慰安婦問題,在日韓国人や同朝鮮人に関する問題等につき,これらの問題等を巡る中国や韓国の対応について批判的な立場をとり,多数の意見を表明してきた(甲12,13,15,16,乙1)。
 青林堂は,本件ブログの投稿記事をまとめた「c」と題する書籍を平成○○年○○月○○日頃出版し,また,本件ブログに関連して「d」,「e」などといった題名の書籍も出版している(甲19)。

ウ 原告は,本件投稿以前に,青林堂の社員が社内でパワハラを受けたと主張して同社に対して民事訴訟を提起した事件において,同社員の訴訟代理人を務めたことがあった(甲20)。

(2)本件投稿に至る経緯

         (中略)

エ 本件投稿が本件ブログに掲載された後,平成30年5月頃までに,原告について,東京弁護士会に対して送付された懲戒請求書の総数は約3000件に及んだ。これ受け,同月16日,原告及びf弁護士は,記者会見を開き,同人らについての懲戒請求は根拠を欠く違法なものであり,懲戒請求者らを被告として,弁護士1名当たり30万円の損害賠償を求める訴訟提起を予定している旨及び同年6月20日頃までに謝罪と弁護士1名当たり5万円の金員の支払に応じるのであれば和解に応じる旨発表した(甲6,13,15)。

オ 平成29年12月頃,日弁連は,本件ブログの閲読者からのものと思われる多数の懲戒請求書が各地の弁護士会に対して送付される事態となったため,各弁護士会の会長に宛てて,同様の懲戒請求書が送付されても懲戒請求として扱わないよう伝達した旨の発表をした。
 これを受け,各弁護士会の対応として,本件ブログの閲読者からのものと思われる同様の懲戒請求書が送付されても綱紀委員会に取上げないといった取扱いがされた。
(以上につき,乙1・資料B23)

カ 平成30年5月頃までに,各弁護士会に送付された本件ブログの閲読者からのものと思われる懲戒請求書の総数(本件懲戒請求を含む。)は,全国21の弁護士会に対し,約13万件に及んだ(甲12)。

2 争点1(懲戒請求の呼び掛けを内容とする本件投稿をもって,「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に当たるか。)に対する判断
(1)ア 原告は,本件懲戒請求は,通常人であれば普通の注意を払うことにより容易に真実でないと知り得た事実を懲戒事由としてされた根拠を欠くものであって,弁護士である原告の名誉,信用等の権利利益を違法に侵害する不法行為に該当するとともに,本件投稿を通じてこれに関与した本件投稿者についても,原告に対する共同不法行為責任を負うとして,プロバイダ責任制限法4条1項1号にいう「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」という要件を満たす旨主張する。

 しかしながら,プロバイダ責任制限法は,特定電気通信を通じた情報流通が拡大したことに伴い,他人の権利を侵害するような情報の流通に対処すべき必要が生じたこと,特定電気通信による情報発信は,他の情報流通手段と比較しても発信に係る制約が少ないために情報の発信が容易であり,しかも,いったん被害が生じた場合には,情報の拡散に比例して被害が際限なく拡大していくという特質を有すること,及び特定電気通信による情報の流通によって被害を受けた者がかかる権利侵害に適切に対処して救済を得るためには,特定電気通信役務提供者から発信者情報の開示を受ける必要性が高い一方で,発信者情報は,発信者のプライバシー及び匿名表現の自由,通信の秘密等の憲法上の権利を根拠として保護されるべき情報であって,その性質上いったん開示されてしまうとその原状回復が困難であることに鑑み,発信者と情報の流通によって被害を受けた者の被害救済との利害を調整する観点から,「特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合」(同法1条)に限って,発信者情報の開示を求めることができる権利を認めたものと解される。

 そして,発信者情報開示請求権の要件として,「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(同法4条1項1号)と定められているのも,上記した立法趣旨及び同条の文言に照らせば,特定電気通信による情報の流通に起因する権利侵害に関しても無限定な発信者情報の開示を許容するものではなく,「情報の流通によって」,すなわち,情報の流通自体によって個々人の権利利益の侵害が生じた場合に限って,開示請求権を認めた趣旨と解するのが相当である。したがって,本件投稿についても,本件投稿による情報の流通それ自体によって,原告の権利利益の侵害が生じる場合でなければ,上記要件を満たさないということになる。 

 そこで検討するに,本件懲戒請求者らが行った本件懲戒請求について,これらが事実上又は法律上の根拠を欠き,本件懲戒請求者らがそのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求したなど,弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠く懲戒請求を行った場合には,本件懲戒請求者らの行為が原告に対する不法行為を構成することになり(最高裁平成17年(受)第2126号同平成19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1102頁参照),本件投稿者についても,本件懲戒請求者らの行為との関わり如何によっては,共同不法行為が成立する余地はある。しかしながら,本件投稿者の行為が共同不法行為に該当するか否かについては,具体的な本件懲戒請求者らの行為との関係で,本件投稿以外の種々の事情を考慮する必要があり,また,本件懲戒請求によって弁護士である原告の名誉,信用等の権利利益が侵害されたとしても,ここでの権利侵害は直接的には本件懲戒請求によって生じたものということになるから,「侵害情報の流通」によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるということはできない。

 もっとも,証拠(甲12,13)によれば本件ブログの記載に無批判に従って本件懲戒請求に及んだことを自認する者が複数名存在することは窺われる。しかしながら,本件懲戒請求をするには請求者の意思に基づく具体的な請求行為を要するものであり,また,インターネットによる呼び掛けの性質上,呼び掛け行為を認識するには本件ブログに対する主体的なアクセスを要し,かつ,本件懲戒請求に及ぶには,別途,現実社会における請求行為を要するものであるから,本件投稿者が本件懲戒請求者ら自身の主体的な判断を妨げたものとして,本件投稿をもって本件懲戒請求者らの行為と同視することもできない。

イ 以上によれば,本件投稿者が本件ブログに本件投稿を行ったという情報の流通自体によって権利侵害が生じたということはできず,この点に関する原告の主張には理由がないといわざるを得ない。

(2)原告は,本件投稿による懲戒請求の呼び掛け行為自体について,これによりその対象者の被る不利益が社会通念上受忍限度を超えるものといえる場合には,違法な権利侵害として,発信者情報の開示が認められるべき旨主張するため,この点について検討する。
 一般に,特定の弁護士につき懲戒請求をするように呼び掛ける行為によって当該弁護士の名誉感情その他の人格的利益が侵害されることもあるところ,呼び掛けに応じて実際にされた懲戒請求が違法な懲戒請求として不法行為を構成するのとは別に,当該呼び掛け行為自体が不法行為を構成する場合もあるものと解され,このような場合には,まさに,呼び掛け行為自体によって権利侵害が生じていると評価することができる。すなわち,このような場合には,呼び掛けに係る情報の流通自体によって,つまり,「情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)権利侵害が生じているものと解される。

 そして,特定の弁護士につき懲戒請求をするよう呼び掛ける行為が不法行為法上違法といえるかについては,懲戒請求を呼び掛けられた弁護士の被った精神的苦痛という人格的利益と懲戒請求をするよう呼び掛ける表現行為との調整の問題であることから,当該呼び掛け行為の趣旨,態様,及び対象者が被った負担の程度等を総合考慮し,対象者の被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるといえる場合には,そのような呼び掛け行為は不法行為法上違法の評価を受けると解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第1906号同平成23年7月15日第二小法廷判決・民集65巻5号2362頁参照)。

 もっとも,前記のとおり,プロバイダ責任制限法による発信者情報開示制度は,発信者情報が発信者のプライバシー及び匿名表現の自由,通信の秘密等の憲法上の権利を根拠として保護されるべき情報であることを前提としつつ,情報の流通によって被害を受けた者の被害救済との利害を調整するものとして,厳格な要件のもとに開示請求を認めたものであること,発信者情報開示請求権は,侵害情報の発信者自体に対してではなく,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)に対する請求の形で実現されるものであることに鑑みれば,同法4条1項1号にいう「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」とは,問題とされた侵害情報それ自体から他人の権利を侵害するものであることが明らかといえる場合をいうものと解するのが相当である。したがって,当該投稿後に現実に生じた損害の有無や発信者の主観的意図,実社会における投稿前後のやり取りなどを踏まえて初めて,対象者の被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるか否かが判断されるような場合には,侵害が明らかであるとはいえないものと解される。

 そうすると,本件においては,本件投稿の趣旨,態様,主観的意図,本件投稿及びこれに起因して寄せられた本件懲戒請求により負うことになった原告の負担の程度等を総合考慮しなければ,本件投稿によって原告の被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えたものであるかは明らかにならないものであるから,「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかである」ということはできない。

(3)よって,争点1に関する原告の主張には理由がない。

3 争点2(本件投稿が原告に対する違法な名誉毀損に当たるか)に対する判断
(1)本件投稿の記載は,前記前提事実(2)に記載のとおりであるところ,本件ひな形が東京弁護士会に対して行う懲戒請求のひな形であり,懲戒の「対象弁護士」として,同会所属の弁護士である原告の氏名,所属事務所及びその住所があらかじめ記載され,懲戒事由として「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し,その活動を推進する行為は,日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重の確信的犯罪行為である。」との記載があること,実際に,本件投稿に先立って日弁連及び東京弁護士会では朝鮮学校に対する補助金の支給停止に反対する会長声明(本件会長声明)が出されていたことからすれば,一般人の普通の注意と読み方を基準とすると,本件投稿は,弁護士である原告が,日弁連及び東京弁護士会の会長による朝鮮学校に対する補助金の支給停止に反対する声明に賛同し,朝鮮学校に対する補助金の支給に向けた活動を推進しているという事実を前提として摘示した上で,そのような行為は,違法行為ないし日弁連のみならず東京弁護士会でも積極的に行われている確信的な犯罪行為であるから,原告について懲戒処分をすることが相当であるという意見論評を述べたものと解釈することができる。

(2)原告は,本件投稿は,原告が違法行為に加担し,また懲戒処分に値するような非違行為を行ったとの意味内容のものであるから,これによって原告の社会的評価を低下させるものである旨主張する。

 しかし,本件投稿が摘示する前提事実は,原告が,本件会長声明に賛同し,また,朝鮮学校に対する補助金の支給に向けた活動を推進しているというものであるところ,朝鮮学校に対する補助金の交付の適否に関して様々な見解が述べられていることは公知であるが,少なくとも,朝鮮学校に対する補助金の支給に向けた活動をすること一般が憲法及び何らかの法令に反するものではなく,弁護士としての品位を損なう行為でもないことは明らかであって,同活動に関する本件会長声明及びこれに賛同する行為についても,表現行為の一環として,同様に法令や弁護士倫理に反するものでないことは明らかである。そうすると,一般読者の普通の読み方を基準としても,本件投稿によって摘示された事実及びこれを前提とする本件投稿全体による意見の表明によって,一般人において,原告が違法行為に加担したとか,懲戒処分に値する非違行為を行ったと受け止められることはないというべきであって,本件投稿は,原告の社会的評価を低下させるものではないというべきである。

 したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(3)以上によれば,争点2に関する原告の主張には理由がない。

第4 結論
 よって,その余の争点(争点3)につき判断するまでもなく,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用につき民訴法61条を適用し,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官 大須賀寛之 裁判官 中武由紀 裁判官 中村公大

別紙 発信者情報目録
1 ドメイン「○○○○○○○○○○.xsrv.jp」にかかるウェブサイトに関するデータが蔵置されているサーバ領域の,平成27年5月15日時点及び口頭弁論終結時における契約者に関する情報であって、以下のもの。
(1)氏名または名称(フリガナ)
(2)住所
(3)メールアドレス
2 ドメイン「○○○○○○○○○○.xsrv.jp」にかかるウェブサイトに関するデータが蔵置されているサーバ領域に対する、本判決確定日から30日前までのログイン及びログアウトに関する年月日、時刻並びにアイ・ピー・アドレス。
以上:7,382文字

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