平成31年 1月22日(火):初稿 |
○「管理会社名義預金は区分所有者団体に帰属するとした高裁判決紹介2」、「管理会社名義預金は管理会社に帰属するとした地裁裁判決紹介1」で、マンション管理者名義預金の帰属者について判断した平成12年12月14日東京高裁判決(判時1755号65頁)と平成10年1月23日東京地裁判決(金商1053号37頁)を紹介しました。 ○事案概要は、以下の通りです。 ・マンション分譲業者Aは、分譲に際し、買主に対して自ら作成した管理規約の承認を求め、さらに子会社であるマンション管理会社Bとの間で管理委託契約を締結 ・管理規約ではBが管理者となり、各区分所有者は管理費・修繕積立金などをBに支払うとされ、管理委託契約でBは経理事務・修繕事務・設備保守等を行い、各区分所有者から支払われた管理費から必要な費用や管理報酬を受取ることとされた ・これに基づき各区分所有者は、BがC銀行に開設した「B名義の普通預金口座」に管理費などを支払 ・この口座はBが管理している各マンションごとに専用とされ、他のマンションの管理費等やB固有の資金が入金されることはなかった ・その後、Bは管理費等がある程度多額になると普通預金を「B名義の定期預金」(これも各マンションごと)にし、最終的にC銀行はBに対する貸付金の担保としてこの定期預金に質権を設定(預金通帳及び銀行印は一貫してBが保管) ・Bが破産宣告を受けるに至り、C銀行が質権を実行して定期預金をBに対する貸付金の回収に充てたため、この定期預金の帰属を巡ってBの破産管財人、C銀行、マンション管理組合法人の間で裁判となる ・Bは毎年、各マンションごとに、「管理費収支決算書」等を作成して全区分所有者に配布しており、その中には上記定期預金のことが記載。 ・Bは管理組合の理事からB名義の預金の名義変更を求められた場合には、これらの預金は管理組合に帰属する財産であるとの考えのもとに、管理組合の理事名義などに変更し、印鑑も変更していた ○一審平成10年1月23日東京地裁判決は、マンションの管理会社が自己の名をもってした管理費を原資とする預金は、区分所有者団体ではなく管理会社に帰属するもので、質権設定も無効ではないとして、破産管財人・参加人いずれの請求も棄却しました。 ○控訴審平成12年12月14日東京高裁判決は、預金者の認定について、自らお金を出して自分の預金とする意思で銀行に対して自ら又は使者・代理人を通じて預金契約した者が、特段の事情がない限り当該預金の預金者であると解するのが相当、という最高裁判所の判決を引用し、そして管理者であるBは、法律上、管理業務の執行者であり、とすれば各区分所有者が管理費等の支払義務を負うのは管理組合に対してであり、管理者Bは管理費を受領・保管する権限はあるが管理費等の債権自体は管理組合に帰属するのが相当である、とし、結論として、各マンションの区分所有者団体は、本件定期預金について、自らの出損によって、自己の預金とする意思で、管理者たるBを代理人として銀行との間で預金契約をしたものであり、本件定期預金の預金者であると判断し、各マンション管理組合に対して預金を払い戻すよう命じました。 ○最終的に、結論としては管理組合が勝訴しましたが、管理組合が勝訴したのは、管理会社Bが区分所有法上の「管理者」と位置付けられており、管理組合の代理人と考えやすかったこと、B管理会社が、受託しているマンションごとに預金口座を開設し、他の資金と一切混同していなかったこと、B会社の認識としても各預金がマンション管理組合のものと考えており、管理組合から要望があれば名義変更などに応じていたこと、銀行もこれらの事情を知り、または知り得るべき立場にあったためで、Bが自己固有の資金と混同したり、複数のマンションの管理費を同じ預金口座にしていれば(これらの事情は外部からは通常分かりません)、管理組合の請求は認められなかったと可能性があります。 ○現在は、マンションの管理の適正化の推進に関する法律第76条(財産の分別管理)「マンション管理業者は、管理組合から委託を受けて管理する修繕積立金その他国土交通省令で定める財産については、整然と管理する方法として国土交通省令で定める方法により、自己の固有財産及び他の管理組合の財産と分別して管理しなければならない。」との規定で管理会社BがB名義で修繕積立金等を保管することができなくなっていますので、本件の様な問題は生じない状況となっています。 以上:1,844文字
|