平成31年 1月11日(金):初稿 |
○「マンション管理組合委託管理会社名義管理費等預金の帰属について1」の続きで、ここで紹介した平成12年12月14日東京高裁判決(判時1755号65頁)の必要部分を紹介します。 ○同判決は、 ①マンションの管理会社が区分所有者から徴収した管理費を原資とする定期預金は、区分所有者団体ないし管理組合法人に帰属する、 ②マンションの区分所有者団体に帰属すべき定期預金につき、銀行が管理会社の預金としてその関連会社に対する債権の担保として質権を設定しても、真実の預金者たる区分所有者団体に対抗できない ことを明らかにしました。 ******************************************* 主 文 一 原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。 二 原判決別紙預金目録2記載の定期預金債権(元本額1668万8055円)が控訴人ルイマーブル乃木坂管理組合法人に帰属することを確認する。 三 被控訴人株式会社東京三菱銀行は、控訴人ルイマーブル乃木坂管理組合法人に対し、1668万8055円及びこれに対する平成4年9月19日から支払済みまで年2.695パーセントの割合による金員を支払え。 四 原判決別紙預金目録1記載の定期預金債権(元本額899万5516円)が控訴人アルベルゴ御茶ノ水管理組合法人に帰属することを確認する。 五 被控訴人株式会社東京三菱銀行は、控訴人アルベルゴ御茶ノ水管理組合法人に対し、899万5,516円及びこれに対する平成4年2月26日から支払済みまで年2.4パーセントの割合による金員を支払え。 六 訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人らの負担とする。 七 この判決の第三項及び第五項は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第一 控訴の趣旨 一 控訴人ルイマーブル乃木坂管理組合法人(以下「参加人ルイマーブル」という。)の控訴の趣旨 1 原判決中参加人ルイマーブル敗訴部分を取り消す。 2 主文第二、三、六項同旨 3 仮執行宣言 二 控訴人アルベルゴ御茶ノ水管理組合法人(以下「参加人アルベルゴ」という。)の控訴の趣旨 1 原判決中参加人アルベルゴ敗訴部分を取り消す。 2 主文第四ないし六項同旨 3 仮執行宣言 第二 事案の概要 本件は、マンションの管理者であった株式会社B社(以下「B社」という。)が区分所有者から徴収した管理費等を原資とする原判決別紙預金目録1ないし3記載の定期預金(以下「本件定期預金1、2、3」という。)の帰属を巡る訴訟である。 一 前提事実 (一)B社は、不動産業者である株式会社A社(以下「A社」という。)の建築、分譲したマンションの管理業務を行うことを主な目的として昭和50年9月9日に設立された同社の子会社であり、平成4年11月に破産するまで、これらのマンションの管理業務を行っていた。 A社は、平成4年11月20日、東京地方裁判所において破産宣告を受けた。 B社も、同月30日、同裁判所において破産宣告を受け、同日、弁護士奥野善彦が破産管財人に選任された(東京地方裁判所平成4年(フ)第3644号)。(〈証拠略〉) (二)ルイマーブル乃木坂マンションは、A社が昭和53年に建築し分譲を開始したマンションであり、参加人ルイマーブル(ルイマーブル乃木坂管理組合法人)は、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)3条の定めるルイマーブル乃木坂マンション区分所有者の団体であり、平成4年12月5日に開催された区分所有者の集会において管理組合法人を設立することが決議され、平成5年1月19日に設立登記がされたことにより、法人格を取得したものである(同法47条1項)。 アルベルゴ御茶ノ水マンションは、A社が昭和52年に建築し分譲を開始したマンションであり、参加人アルベルゴ(アルベルゴ御茶ノ水管理組合法人)は、区分所有法3条の定めるアルベルゴ御茶ノ水マンション区分所有者の団体であり、平成4年12月18日に開催された区分所有者の集会において管理組合法人を設立することが決議され、平成5年1月18日に設立登記がされたことにより、法人格を取得したものである(同法47条1項)。(争いのない事実、弁論の全趣旨) (三)B社は、平成4年11月まで、ルイマーブル乃木坂マンション、アルベルゴ御茶ノ水マンションその他A社が分譲したマンションについて、区分所有法の定める「管理者」の地位にあり、かつ各区分所有者との間の管理委託契約により管理業務の委託を受けた管理会社であった。 この時期まで、右各マンションの区分所有者は、管理規約の定めるところに基づき、B社と管理委託契約を締結し、これらの規約及び契約に従って、マンション毎に開設されたB社名義の普通預金口座に保証預り金のほか毎月の管理費、修繕積立金等を送金して支払い、B社は、右各口座の預金通帳及び銀行印を保管し、そこから管理業務に必要な費用を支払い、B社としての管理報酬を受領し、管理費の剰余金、修繕積立金及び保証預り金が一定の額に達すると、これらを順次定期預金に組み替えて貯蓄していた。(〈証拠略〉) (四)前記(三)により形成された預金として、平成4年11月25日当時、被控訴人東京三菱銀行(以下「一審被告」という。)に本件定期預金1、2、3が存在していた。(争いのない事実) (五)一審被告は、A社に対する債権を担保するため、原判決添付の「預金担保設定一覧表」のとおり、B社の連帯保証のもとに、B社より、本件定期預金2につき平成2年9月18日に、本件定期預金1につき平成4年2月25日に、本件定期預金3につき平成4年3月9日に質権の設定を受けていた。(以下「本件質権設定」という。) 一審被告は、A社が破産宣告を受けた後の平成4年11月26日をもって、右質権の実行により、本件定期預金1、2の全部及び本件定期預金3の一部の返還請求債権を取り立て、A社の一審被告に対する4709万0763円の債務の弁済に充て、平成4年12月ころ、B社の破産管財人(以下「一審原告」という。)に対してその旨通知した。(以下「本件質権実行」という。)(〈証拠略〉) (六)原審〔1〕事件は、一審原告が一審被告に対し、本件定期預金1ないし3が破産財団に帰属することを主張してその返還を求めた事案、原審〔2〕事件は、参加人ルイマーブルが本件定期預金2が参加人ルイマーブルに帰属することを主張して一審原告及び一審被告に対しその確認を求め、一審被告に対しその返還等を求めた事案、原審〔3〕事件は、参加人アルベルゴが本件定期預金1が参加人アルベルゴに帰属することを主張して一審原告及び一審被告に対しその確認を求め、一審被告に対しその返還等を求めた事案である。 原判決は、一審原告の〔1〕事件請求、参加人ルイマーブルの〔2〕事件請求、参加人アルベルゴの〔3〕事件請求をいずれも棄却した。 これに対し、参加人ルイマーブル及び同アルベルゴは控訴したが、一審原告は控訴しなかった。 したがって、当審においては本件定期預金3は審理の対象になっていない。 二 争点 1 本件定期預金の預金者は、各マンションの区分所有者団体(参加人ら)かB社か 2 右預金者が区分所有者団体(参加人ら)である場合、本件質権実行に民法478条(債権の準占有者への弁済)の類推適用があるか 3 右預金者が区分所有者団体(参加人ら)である場合、本件質権設定に民法94条2項(通謀虚偽表示)の類推適用があるか (中略) 第三 当裁判所の判断 一 本件定期預金の預金者について 1〈証拠略〉及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。 (一)A社は、建築したマンションを分譲するに際し、区分所有権の買主に対して自ら作成したマンション管理規約及び使用細則を提示してその承認を求めるとともに、右買主(区分所有者)とB社との間で管理委託契約を締結させていた。 右管理規約及び管理委託契約においては、次のとおり定められていた。(〈証拠略〉) (管理規約) (1)B社が「管理者」となる。 (2)各区分所有者は、建物供用部分の通常の管理費をその持分に応じて負担し、定められた管理費を毎月「管理者」に支払う。 (3)各区分所有者は、建物供用部分の修繕費をその持分に応じて負担し、定められた修繕積立金を毎月「管理者」に支払う。修繕積立金は理由の如何を問わず払い戻さない。「管理者」は、修繕積立金を取り崩して修繕費を支払い、なお、不足する場合、修繕費を追加徴収することができる。 (4)各区分所有者は、保証預り金を「管理者」に預け入れる。保証預り金は各区分所有者がその資格を失った場合に返還する。 (管理委託契約) (1)B社が行う業務は、経理事務、折衝業務、修繕業務、設備保守点検業務、清掃業務、受付業務等とする。 (2)区分所有者は、管理費、修繕積立金をB社に支払う。 (3)管理費は、B社が前記(1)の業務を行うために必要な費用及びB社の管理報酬(管理費の15パーセント)に当てる。管理費の剰余金は管理預り金として積み立て、管理費が不足した場合、それを取り崩して充当できる。 (4)B社は、毎年年末において当該年度の会計報告をする。 (5)B社は、各区分所有者から保証預り金を預かる。各区分所有者がその資格を失った場合、B社は、これを返還する。 (二)各区分所有者は、右管理規約及び管理委託契約に従い、マンション毎に開設されたB社名義の普通預金口座に保証預り金のほか毎月の管理費、修繕積立金等を送金して支払っていた。 右支払手続は、各区分所有者と銀行との間の自動引落(振替)契約によって行われ、当該引落口座を開設する銀行は、主としてA社が分譲したマンションの建設に融資者として関与した銀行が選定されていた。 (三)B社は、右管理規約及び管理委託契約に従い、各区分所有者から管理費等の支払いを受けるため、各マンションの近くに所在する銀行にB社名義の普通預金口座を開設した。右普通預金口座は、各マンション専用とされ、他のマンションの管理費等やB社固有の資金が入金されることは一切なかった。 B社は、この普通預金口座から管理に要する諸費用とB社が受領すべき管理報酬を支出し、管理費の剰余金や修繕積立金等がある程度多額になると、これを定期預金にしていた。 B社は、第10期(昭和59年9月1日から昭和60年8月31日)までの決算報告書では、各マンションの管理費等を原資とする預金を貸借対照表の資産の部に各マンション名を付記して計上し、各マンションの保証預り金、積立金、管理金預り金等を「マンション管理預り金」として貸借対照表の負債の部に計上していた(〈証拠略〉)が、顧問の公認会計士からそのような経理処理は適切でないとの指摘を受けて、第11期(昭和60年9月1日から昭和61年8月31日)からの決算書報告書においては、右預金を資産として計上せず、「マンション管理預り金」も負債として計上しないこととした(甲22ないし27)。 B社は、毎年、各マンション毎に「管理費収支決算書」等を作成して、全区分所有者に配付していた。右書面には、管理費収支決算書、修繕積立金収支決算書及び貸借対照表が含まれており、貸借対照表の資産の部には管理費等の剰余金等を原資とする普通預金及び定期預金が記載され、管理費収支決算書の部には右普通預金の利息が計上され、修繕積立金収支決算書の収入の部には、右定期預金の利息が計上されていた。(〈証拠略〉) B社は、管理組合が結成され、あるいは管理組合法人が設立されて、管理組合の理事あるいは管理組合法人の理事から各マンションの管理費等を原資とするB社名義の預金の名義変更を求められたときは、これらの預金は管理組合あるいは管理組合法人に帰属する財産であるとの考えのもとに、これに応じ、管理組合の理事名義あるいは管理組合法人の理事名義等に名義を変更し、印鑑を変更していた。 (四)本件定期預金1、2の原資及び資金の流れは次のとおりである。 (本件定期預金2) (1)昭和52年から昭和53年にかけて分譲されたルイマーブル乃木坂マンションにおいては、そのころ一審被告六本木支店に開設されたA名義の普通預金口座(口座番号〈略〉、口座名義「株式会社A」、本件普通預金口座2)が管理費等の振込口座とされた。 (2)Aは、本件普通預金口座2の残高が多額となったことから、昭和58年3月17日、同口座よりの1,450万円をもって定期預金口座(一審被告荻窪支店、口座番号〈略〉)を開設した。その後、右定期預金口座は、一審被告荻窪支店から一審被告東京駅前支店に移管された。 (3)Aは、平成2年9月18日、前記(2)の定期預金口座を解約し、同日、同口座の金利を元本に組み入れた1,495万8,201円をもって定期預金口座(一審被告東京駅前支店、口座番号〈略〉)を新規に開設した。(同日、質権設定) (4)前記(3)の定期預金口座は、利息元加方式で書替継続され、平成4年11月25日時点では、1,668万8,055円の本件定期預金2(口座番号〈略〉)となっていた。 (本件定期預金1) (1)昭和52年から昭和53年にかけて分譲されたアルベルゴ御茶ノ水マンションにおいては、そのころ住友銀行神田支店に開設されたA名義の普通預金口座(口座番号〈略〉、本件普通預金口座1)が管理費等の振込口座とされた。 (2)Aは、本件普通預金口座1の残高が多額となった段階で1部を同銀行同支店の定期預金にしていたが、昭和58年2月14日、一審被告の豊栄土地開発に対する債権の担保に当てるため、住友銀行神田支店の右普通預金及び定期預金からの合計800万円をもって一審被告荻窪支店にA名義の定期預金口座(口座番号〈略〉、口座名義「株式会社A 御茶ノ水口」)を開設した。その後、右定期預金口座は一審被告荻窪支店から一審被告東京駅前支店に移管された。 (3)Aは、平成3年2月25日、前記(2)の定期預金口座及び他の4マンションの定期預金口座を解約し、これらの口座の金利を元本に組み入れた3,210万7,289円をもって大口定期預金口座(一審被告東京駅前支店)を開設したが、平成4年2月25日、元の原資どおりの金額に従い5口に分割し、アルベルゴ御茶ノ水マンションの管理費等を原資とする定期預金として899万5,516円の定期預金口座(一審被告東京駅前支店、口座番号〈略〉、口座名義「株式会社A 御茶ノ水口」)(本件定期預金1)を新規に開設した。(同日質権設定) 以上:5,932文字
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