平成30年10月28日(日):初稿 |
○「自動車登録名義なくして破産管財人に対する別除権行使を認めた判例紹介」の続きで、ここで紹介した平成28年5月30日札幌地裁判決(裁判所ウェブサイト)の控訴審である平成28年11月22日札幌高裁判決(金融・商事判例1533号42頁、最高裁判所民事判例集71巻10号1953頁)全文を紹介します。 ○控訴審札幌高裁判決も、一審札幌地裁判決同様、「被控訴人は、本件自動車の登録所有者名義を得ることなく、破産管財人である控訴人に対し、本件留保所有権を行使できると解されるし、本件開始決定の前に、販売会社の所有名義で登録されたことによって、同条2項の要件は満たされているというべきである。」としています。 ○この判断は、上告審平成29年12月7日最高裁判決でも維持されており、重要判例なので別コンテンツで紹介します。 ********************************************** 主 文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は、訴外甲2(以下「販売会社」という。)が、訴外乙2(以下「本件破産者」という。なお、訴外乙2は、平成27年5月13日午前11時、札幌地方裁判所において破産手続開始決定を受け、破産管財人として控訴人が選任された。)に対し、原判決別紙物件目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)を平成25年8月20日に割賦販売した際に,その割賦金等債権の担保として本件自動車の所有権を留保したところ(以下「本件留保所有権」という。)、本件破産者が割賦金等の支払を遅滞したため、本件破産者の委託を受けて、前同日、販売会社との間で前記割賦金等の支払債務を連帯保証した被控訴人が、保証債務の履行として販売会社に前記割賦金等の残額を弁済し、法定代位により本件留保所有権を取得したと主張して、本件破産者の破産管財人である控訴人に対し、本件留保所有権に基づき、破産法65条の別除権行使として本件自動車の引渡しを求めた事案である。 原審は、被控訴人の請求を認容したところ、控訴人はこれを不服として控訴した。 2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、後記3において当審における控訴人の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。 3 当審における控訴人の補充主張 (1)破産手続においては、多数人の利害関係を迅速に調整しなければならない。本件自動車のような一般的な乗用自動車については、その価値が時間的経過により、急速に失われていく。また、駐車場代などの自動車の管理費用は日々増大する。 しかるに、誰が権利者か不明であるにもかかわらず、破産管財人に別除権の行使を甘受させることは、破産管財人に無理を強いるものである。 (2)いかに販売会社や信販会社にとって経済合理性にかなうものであっても、これらの者が選んだ権利よりも大きな権利を与える必要はない。被控訴人は費用節約等から簡易な担保権を選択したのであるから、それ相応の処遇で満足すべきであり、より権利関係が明確となる抵当権のような典型担保と同様の特別な処遇をする必要はない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、被控訴人の請求を認容するのが相当であると判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正し、後記2に当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決15頁9行目の「本件割賦金債務」を「本件割賦金等債務」に改める。 (2)同17頁1行目冒頭から同頁12行目末尾までを次のとおりに改める。 「イ 破産法49条は、不動産又は船舶に関し破産手続開始前に生じた登記原因に基づき破産手続開始後にされた登記又は不動産登記法の仮登記は、破産手続の関係においては、その効力を主張することができないが、登記権利者が破産手続開始の事実を知らないでこれらの登記等をした場合には、例外的に効力を認める旨規定し(同条1項)、これを権利の設定、移転若しくは変更に関する登録若しくは仮登記又は企業担保権の設定、移転若しくは変更に関する登記について準用している(同条2項)。この規定は、破産債権者を保護するために破産手続開始後にされた登記等の効力を破産管財人に主張することができないことにして破産財団の保全を図りながら、破産手続開始について善意の者を例外的に保護して、取引の安全を図るための規定であると解される。 そして、法定代位の制度は、代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために、原債権及びその担保権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度であり、法律の効果として当然に求償権者に移転することを認めるものであるから、上記移転について対抗要件は必要とされないと解されるところ、前記のとおり、破産法49条2項は、破産債権者の保護を図りつつ善意者保護のために特別の定めをしたものであって、移転について対抗要件としての登記・登録が必要とされない法定代位について破産手続において特別に登記・登録をすべきことを同条が求めているとは解されない。 そうすると、前記(1)で検討したとおり、被控訴人は、本件自動車の登録所有者名義を得ることなく、破産管財人である控訴人に対し、本件留保所有権を行使できると解されるし、本件開始決定の前に、販売会社の所有名義で登録されたことによって、同条2項の要件は満たされているというべきである。」 (3)同頁19行目冒頭から同頁24行目末尾までを次のとおりに改める。 「かえって、本件破産者は、本件割賦金等を8分の1程度(本件割賦金等253万4868円のうち33万7568円の支払)しか弁済していないにもかかわらず、このような場合にも、被控訴人の別除権行使を否定して本件自動車を本件破産者の一般財産に属するものとして扱うことは、一般債権者にいわば棚ぼた的な利益を与えることとなり、相当ではない。」 (4)同19頁16行目冒頭から同頁18行目末尾までを次のとおりに改める。 「しかしながら、複数の保証人による保証債務の履行状況についても、弁済を受けた販売会社に確認するなどすることによって、管財人において調査可能な事項と解されるから、上述した問題点があることを理由に、本件において被控訴人が登録所有名義を得ない限り、本件留保所有権を行使することができないと解することはできない。」 2 当審における控訴人の補充主義に対する判断 (1)控訴人は、破産手続においては、多数人の利害関係を迅速に調整しなければならないところ、誰が権利者か不明であるにもかかわらず、破産管財人に別除権の行使を甘受させることは、破産管財人に無理を強いるものであると主張する。 しかし、本件割賦金等債務に対する弁済の事実については、破産管財人が販売会社に問合せ、関係資料の提出を求めれば判明することであり、それに基づき権利関係を確定して、本件留保所有権に係る別除権者が誰かを明らかにすることは可能であると考えられるのであり、破産管財人に無理を強いるものとは必ずしもいえない。 よって、控訴人の主張は理由がない。 (2)控訴人は、被控訴人が費用節約等から簡易な担保権を選択したのであるから、それ相応の処遇で満足すべきであり、より権利関係が明確となる抵当権のような典型担保と同様の特別な処遇をする必要はないと主張する。 しかし、破産法上、所有権留保などの非典型担保についての明文の規定はなく、その取扱いは破産法の解釈に委ねられているところ、留保所有権は担保権として破産法上の別除権としての扱いを受けるものと解される(平成22年最判参照)。このように、留保所有権を担保権としての行使を認める以上、抵当権等の典型担保と同様の処遇をすることが破産法上否定されるものとはいえない。 よって、控訴人の主張は理由がない。 第4 結論 以上によれば、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 裁判長裁判官 竹内純一 裁判官 吉田光寿 裁判官 都野道紀 以上:3,483文字
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