平成30年 5月27日(日):初稿 |
○「東北大学法学部小嶋和司教授講義ノート紹介9-昭和49年6月13日」の続きで昭和49年6月15日の講義ノートです。 憲法 第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。 3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。 第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。 第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。 2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。 についての講義部分です。 ********************************************* (三)平等保障に関連する諸制度 「華族制度の廃止」 §14Ⅱ「華族その他の貴族の制度はこれを認めない。」 明治憲法の下では華族令という勅令により家族という身分があった。ここでの家族とはこれを指している。 その他の貴族ー家族に類似した世襲的特権的身分制度。皇族はその他の貴族に含まれない。 (理由)天皇制に関連する制度である。皇族は華族以上に特権的で憲法制定当時に存したのにわざわざ述べられていない。ー除外する主旨である。 栄典制度への制約 §14Ⅲ 栄典の授与は特権を伴わない。 「特権」とは、継続的利益授受の資格で特別の価値意識に基づくもの 栄典制度が国民の中に特権的身分の生ずる契機となることを防ぐもの。 この点についての問題 「終戦直後の文化勲章に年金を伴わせることは違憲にならないか。」 当時社会的激変があり、文化勲章受章者の中には生活困窮者が多かった。この様な状態では勲章を差し上げることよりも生活の保障をすることの方が第一義的重要性をもっと考え、年金を差し上げる制度が検討された。この時、これは栄典の授与に特権を伴わせることになり認められないとし、文化勲章とは全く別の制度として文化功労者年金法が制定されて、文化功労者に年金を差し上げる制度が実現。現実には文化勲章受章者は必ず文化功労者に指定されるのが慣行である。 §14Ⅲ後段 栄典授与の効力は一代に限る。 栄典には一代限りのもの、世襲のものとの二種類がある。華族令の爵とは後者。後者は特別の門地を形成するので禁止した。 栄典ー栄誉を与えること。栄典の源泉と考えられるもの以外は与えられないという思想がヨーロッパにあった。栄誉とは神のみが与えることができる。従って教会のみが栄誉を与えるとした。しかし、やがて国王が栄典を授与することが行われた。この最初の国王は神により処罰されるのではないかと非常に恐れたということである。 近世に入ると国王は栄典の源泉と一般に考えられるようになり、この制度が定着した。この定着の仕方があまり強すぎ、ワイマール憲法にはこの思想への反動がみられ、栄典とは君主制のみの特別の制度で、共和制には許されないという思想があり栄典制度を否認した。しかし、栄典制度とは外交上、内政上必要であることが自覚され、その後、共和国でも栄典制度は存続しうるものであると考えられるようになり、現在では共和国でも栄典制度が存する。 今の日本の栄典制度ー主として明治時代に確立されたものが今日に至っている。 明治時代、栄典制度の根拠になった成文法が4つある。 ①位階令〔位〕正一位~~従八位、日本人に限って与えられる。 ②叙勲条例…勅令…現在の政令にあたる。勲等 ③金鵄勲章令…武功のあった人に与えられるー軍人 ④文化勲章 新憲法施行と共に③が廃止、栄典制度は根本的に改正する必要があると考えられ、④のみが適用され、しばらく①②は適用されなかった。 しかし、旧栄典制度に代わるものが中々制定されてないので、昭39年4月からの②が生存者にも適用され始める。それ以前は②は外国人と死者(死にそうな人)のみに適用された。 [P55裏面]明治憲法§15 勲章の授与は大権事項 日本国憲法は、栄典に勲章が含まれることを明示しているので、勲章制度は憲法上の根拠をもつ。 政府ー栄典の授与は国民の権利を拘束するものではないから法律事項ではなく制令で勲章制度を設けうると解している。 憲法を実施するための立法は、国の唯一の立法機関たる国会の制定する法律をもってするのが原則→憲§73Ⅵより政令で憲§7より勲章制度を設けることは違憲の疑いがある。 自由身分の保障 §18「奴隷的拘束」自由人格を否認するような身分的拘束 国又は公共団体が行う私人が拘束する法が現実に多い。従って国又は公共団体の他にも私人による拘束についても国はこれを容認してはならないし、これがあれば離脱の配慮する義務がある。 「苦役」苦しませるための労役という意味ではなく通常の労役がもつ以上苦痛の伴う労役をいう。 制憲議会ー貴族院での審議ー学者が活躍 牧野英一博士 日本の刑法学に教育刑思想を導入した功労者 §18後段…犯罪による処罰なら苦しませるための労役が認められることになり、教育刑思想に反し妥当でないと猛反対。修正の必要を唱える。 政府委員 金森徳次郎ー「苦」には意味がないと答弁。しかしこの解釈は正当ではない。 意に反する労役を強制することは現代国家においても認められている。当時、地方制度に夫役現品という制度があった。 苦役-一種の公的負担。税は金納が原則。しかし田舎ではあまり金銭経済が行われず、金銭で支払いそれで労務者を雇うよりも農閑期に自ら労役を提供する方が望ましかった。 現品:このような苦役は一種の強制労働であるが認めざるを得ない。但し、昭33年の地自法改正で廃止。 政府答弁では「苦役」も違憲となる。 災害対策基本法:災害が発生し又は発生しようとしている場合に市町村長は区域内の住民又は現場にある者を応急処置を命じることができる。従わない場合は罰則がある。 軽犯罪法:公務員から援助に求められても応じない場合ー罰則あり。 現代国家においても労役の強制は認められなければならない。 「家族関係についての保障」 §24Ⅱ「…離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項」 ~例 示~ §24Ⅰ 婚姻…両性の合意のみに基づいて成立 婚姻成立に必要な意志的要件としては両性の合理性があれば許される。民§739Ⅰ「届出」ー意志的要件ではないので違憲とはいえない。 新憲法以前は家という制度があり、婚姻については戸主の同意さらにに男子30才未満、女子25才未満では両親の同意が婚姻の成立の意志的要件となっていた。ここのようなことは新憲法下では認められない。 婚姻の維持…夫婦が同等の権利を有する。 改正前の民法…妻は行動能力を制限…これは新憲法では承認できない。婚姻より生ずる一切費用の負担は夫が負う。(例外)妻が戸主の場合は妻が負う。 以上:2,938文字
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