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側溝蓋段差つまずき転倒負傷事故と道路管理瑕疵判断裁判例紹介

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平成30年 4月12日(木):初稿
○民法第717条に、「土地の工作物等の占有者及び所有者の責任」として、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」と規定されています。

○これは不法行為領域での土地工作物管理瑕疵責任と呼ばれるものですが、通路管理者として通路の段差が工作物管理瑕疵責任の対象になるかどうか争いになっている事件を担当しています。関連判例を色々調べているのですが、有名判例集には掲載されていない平成19年11月12日岐阜地裁判決(道路局道路交通管理課訴訟事例紹介、道路行政セミナー2008.12)全文を紹介します。側溝蓋の段差につまづき転倒、負傷した事故について道路管理瑕疵が争われた事例です。

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主    文
1 原告らの各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請 求

1 被告は、原告に対し、274 万1770 円及びこれに対する平成16 年1 月19 日から支払済みまで年5 分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告株式会社H に対し、610 万4840 円及びこれに対する平成16 年10 月22 日から支払済みまで年5 分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告有限会社O に対し、203 万3336 円及びこれに対する平成16 年10 月22 日から支払済みまで年5 分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が彼告の管理するコンクリート製の側溝(以下、「本件側溝」という。)の蓋と蓋との間に生じた段差(以下、「本件段差」という。)につまづき転倒して負傷した事故(以下、「本件事故」という。)に関し、
(1)原告が、被告に対して、国家賠償法2 条1項の営造物管理責任に基づき、本件事故により同原告に生じた損害274 万1770 円及びこれに対する本件事故発生の日である平成16年1 月19 日から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の支払を、
(2) 原告株式会社H(以下、「原告H」という。)が、被告に対して、同じく国家賠償法2 条1 項に基づき、同原告に生じた損害610 万4840 円及びこれに対する平成16 年10 月22日(本件事故発生日の後であり、かつ、本件事故のけがにより原告が休業をした期間の最終日)から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の支払を、
(3) 原告有限会社O(以下、「原告O」という。)が、被告に対して、同じく国家賠償法2 条1項に基づき、同原告に生じた203 万3336 円及びこれに対する平成16 年10 月22 日(同上)から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の支払を、
それぞれ求めている事案である。

1 争いのない事実等
(1) 平成16 年1 月19 日午前9 時30 分ころ、岐阜県内市道において、原告が、本件側溝をまたいで車両後部を歩道上にはみ出して停車していた自動車を自己の駐車場内に入れるため、後方から運転席ドアへ近づいた際、本件段差につまづき転倒した。

(2) 原告は、本件事故により、右第5 中足骨骨折、外傷性頸肩腕症候群、腰部挫傷、左膝挫傷の傷害を負った。

(3) 本件事故現場である歩道の側溝は、被告が管理している。

(4) 原告が代表取締役を務める原告O は、平成14 年1 月10 日に道路自費工事承認申請書を被告に提出し、被告の承認を得たうえで、本件事故現場である市道において歩道切下げ工事を行い、その際、側溝蓋の取り替えを行った。原告O の道路自費工事は、同年1 月31 日までに完了し、同日付けの工事完了届が被告に提出された。なお、上記道路自費工事の申請に際し、被告は条件つきで工事を承認したが、その条件のーつに「この工事に起因して第三者に損害を与え、又は紛争が生じた場合には、申請者の負担において損害を賠償し、又は紛争を解決すること。」(平成14年1 月10 日付け道路自費工事申請書別記道路自費工事承認条件1(5))というものがあった。

2 争 点
(1) 本件事故が原告O の道路自費工事に起因するものといえるか。

(被告の主張)
本件事故発生の原因となった本件段差は、原告O による上記道路自費工事に起因するものであり、しかも、同工事承認に際し、上記のような条件が付されていることからすると、原告は、本件段差にかかる事故についてそもそも主張の適格を欠く。

(原告らの主張)
本件段差は、道路自費工事の以前から存在していた。かかる段差を解消するためにはU字型側溝を取り外して地盤整地をする必要があり多額の費用を要することから、原告は、本件側溝の蓋のみを取り替えたものであり、本件側溝の状態は、側溝蓋が新しくなった以外は工事前後で変化はない。したがって、本件事故は、原告O の道路自費工事に起因するものとはいえない。

(2) 本件側溝の段差は公の営造物の設置又は管理の瑕疵に当たるか。
(原告らの主張)
歩道としても利用される側溝が通常有すべき安全性とは、蓋と蓋との間に段差がなく転倒等の危険性がないものと解すべきであり、本件のように3 センチメートルの段差は通常有すべき安全性の範囲内と解することはできず、国家賠償法2 条1 項にいう公の営造物の設置又は管理の瑕疵に当たる。

(被告の主張)
国家賠償法2 条1 項にいう公の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、当該営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を考慮して、具体的、個別的に判断すべきである。本件において、U 字型側溝の蓋と蓋との間の段差は、2.5 ないし3 センチメートルにすぎず、蓋の存在する場所及び利用状況に鑑みても到底国家賠償法2 条1 項にいう公の営造物の設置又は管理の環庇に当たるものではない。

(3) 損害

 略

(4) 過失相殺
(被告の主張)
 被告は、過失相殺(原告90 パーセント、被告10 パーセント)を予備的に主張する。原告は本件事故現場を熟知しており、また、本件事故現場につき上記のとおり側溝の蓋の取替工事を自ら行っていることからすると、本件事故に対する原告の過失は90 パーセントを下らない。

(原告らの主張)
 本件事故は、側溝の設置管理の瑕疵があったために生じたものである。被告は、原告らの通報により瑕疵を認識していたにもかかわらず何らの対策を講じなかった。このように事故発生の危険性を被告の怠慢により放置しておきながら、事故の過失責任を原告に求める被告の態度は、無責任・不正義というほかない。

第3 争点に対する判断
1 争点(1)について

証拠によれば、平成14 年1 月10 日付けで申請された原告O の道路自費工事の際、歩道の側溝の蓋14 枚が新しく取り替えられた事実が認められる。しかし、側溝の蓋のみを取り替えたことが原因となって新たに側溝の蓋と蓋との間に段差が生じるということは通常考えにくく、そうすると本件段差は、原告O の道路自費工事以前から、本件事故現場付近の歩道の上方から過度の重量が加えられたことにより側溝の一部が地盤とともに沈下したことを原因としてすでに生じていたものと合理的に推測せざるをえない。
したがって、本件事故が原告O の道路自費工事に直接起因するものということはできず、それ故、被告の上記主張は前提事実を欠き、採用の限りでない。

2 争点(2)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 本件事故当時、本件段差は、2.5 ないし3センチメートルであった。

イ 本件事故現場の段差解消のため、平成13年以降、原告が被告に対し、再三段差補修の陳情をしたが、本件事故に至るまで段差の補修工事はなされなかった。

ウ 本件事故現場において、原告以外に怪我をした人がいたとの話は特になかった。

エ 事故後、被告の総務部管財課長が原告宅を訪れ原告に謝罪をしたり、被告が「慰謝料算定基礎」と題するファックス文書を送るなど、被告が、事故についての責任を認めるかのような発言等をした。

(2) 上記認定事実に基づき、判断する。
ア 国家賠償法2 条1 項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。そして、そのような瑕疵があったとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきである。

 この点、原告らは、歩道としても利用される側溝が通常有すべき安全性とは、蓋と蓋との間に段差など全くなく、およそ転倒等の危険性がない状態をいうと解すべきであって、そうでない以上全て瑕疵にあたると主張するが、段差の程度如何にかかわらずかように一律に設置・管理上の瑕疵を認める考え方には与しえない。なぜなら、道路等に多少の高低差が存在したりすることはまま見受けられるところであり、結局はかかる段差がある場合であっても、通常一般の歩行者が相応の注意を払うことにより転倒等の事故を防止しうる限りにおいては、営造物が通常有すべき安全性を欠いているとは直ちにいえないからである。

 これを本件についてみると、本件側溝は、歩道としても利用されるものではあるが、蓋と蓋との段差の高低差は2.5 センチメートルから3 センチメートルにとどまり、この程度の高低差は通常の道路においても頻繁に見受けられるものであって、特に歩行上障害をきたすような高低差ではないこと、本件段差のある歩道上に歩行者の視界を遮るものは特にないこと、過去に原告以外に本件事故現場において転倒して負傷した人がいるという話はなかったこと等から、通常一般の歩行者が相応の注意を払っていてもなお本件段差につまづいて転倒するような危険があったとまでは考えられない。

 また、原告も本件段差に気づいた平成13 年以降本件事故に至るまで、本件段差につまづいて転倒するようなことはなかったこと、それが本件事故のときはたまたま慌てていて足下に注意を払っていなかったためつまず(ママ)いたということであるから、その意味で本件事故は原告の不注意による部分が大きいといえること等を総合考慮すれば、本件事故現場である側溝の蓋と蓋との段差が3 センチメートルあったからといって、営造物が通常有すべき安全性を欠いていたものとはいい難く、したがって、被告に本件営造物につき設置又は管理の瑕疵があったということはできない。

イ なお、平成13 年以降原告による再三の段差補修の陳情があったにもかかわらず、被告が段差の補修工事を行わなかったとの事実が認められるが、なるほど、被告が道路の管理を行うにあたっては、できる限り市民の陳情等に耳を傾けるなどして道路の状況を把握するとともにその補修工事を行うことが望ましいものの、他方で、限られた予算の中で道路管理をしなければならない状況の下において、道路利用者の安全を最大限維持するためには、市民の陳情の有無のみならず、当該道路の危険性の程度、補修工事の必要性、緊急性をも考慮した上で、優先順位の高いものから順に補修工事を行っていかざるをえないという側面がある。

 しかるところ、前記のような状況にあった本件段差については、危険性の程度において、補修工事の必要性・緊急性が必ずしも高いものとはいえない以上、被告が、原告らの陳情があったにもかかわらず本件側溝の段差を補修しなかったからといって、直ちに被告に落ち度を認めることは相当でない。

ウ また、本件事故発生後、原告から連絡を受けた被告の総務部管財課長が同原告宅を訪れ同原告に謝罪したり、被告の管財課職員が事故後「慰謝料算定基礎」と題するファックス文書を送るなどした事実及び本件事故発生直後、被告によって本件段差が解消された事実が認められる。

 原告らは、これらの事実をもって、被告が本件段差の危険性を認識した上でこれを放置し、本件事故について何らかの責任を認めていたことの証左であると主張し、後日、原告の三男及び妻らと被告との間でやり取りされた示談交渉が難航し、業を煮やして提訴に至った本件訴訟では被告が責任の所在を回避したことを激しく糾弾する。

 しかし、市民から「市の所業によりけがをした」という連絡をもらえば市職員としてはそれなりの対応を取らざるを得ないのであり、それが本件では幹部職員の慰問であったり、見舞金の支給の提案だったというものである。おそらく被告側としてもまずは状況確認を兼ねて責任ある立場の職員が原告宅を訪ねていったとみるのが自然であるし、見舞金の支給についても、むしろ原告を気の毒に思った被告が見舞金の支給を提案するに際して、税金から支出するのに根拠もなしに「見舞金」とするのでは具合が悪かろうということで敢えて治療費相当額の慰謝料名目としただけのこと(ここに、原告らにおいて被告が非を認めたと思い込んでしまった原因があると言えなくもない。)なのであろう。

 また、本件事故発生直後、被告によって本件段差が解消された点についても、上記で検討したとおり道路補修工事には優先順位があるところ、本件事故発生により単に政策的にその順位が繰り上げになったというにすぎないものと思料される。いずれにしろ、これらの事実があるからといって、被告に法的責任を認めるのは論理に飛躍があり過ぎ、したがって、原告らの上記主張を採用することは困難である。

3 結 論
 以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告に対する請求はいずれも理由がないものとして棄却することとして、主文のとおり判決する。
以上:5,727文字

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