平成30年 1月18日(木):初稿 |
○「名簿漏洩に関する不法行為責任を否定した大阪高裁判決全文紹介」の続きで、その上告審判決である平成29年10月23日 最高裁判決(判タ1442号46頁、判時2351号7頁)全文を紹介します。 ○最高裁判決は、名簿漏えいにより、上告人は、そのプライバシーを侵害されたといえるとし、原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとし、原判決を破棄し、本件漏えいについての被上告人の過失の有無並びに上告人の精神的損害の有無及びその程度等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻しました。 ○慰謝料10万円請求の内仮に1万円でも認められ、延べ約2億1639万件の名簿漏洩された顧客等全員から1万円支払えと請求されたらその金額は2兆円を超える途方もないものになります。差し戻された大阪高裁の判断が注目されますが、多分、秘密裏の和解で終わるでしょう。 ******************************************** 主 文 原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理 由 上告人の上告受理申立て理由について 1 本件は,上告人が,被上告人においてその管理していた上告人の個人情報を過失によって外部に漏えいしたことにより精神的苦痛を被ったと主張して,被上告人に対し,不法行為に基づき,慰謝料及び遅延損害金の支払を求める事案である。 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)上告人は,未成年者であるBの保護者であり,被上告人は,通信教育等を目的とする会社である。 (2)被上告人が管理していたBの氏名,性別,生年月日,郵便番号,住所及び電話番号並びにBの保護者としての上告人の氏名といった上告人に係る個人情報(以下「本件個人情報」と総称する。)は,遅くとも平成26年6月下旬頃までに外部に漏えいした(以下「本件漏えい」という。)。 (3)本件漏えいは,被上告人のシステムの開発,運用を行っていた会社の業務委託先の従業員であった者が、被上告人のデータベースから被上告人の顧客等に係る大量の個人情報を不正に持ち出したことによって生じたものであり,上記の者は,持ち出したこれらの個人情報の全部又は一部を複数の名簿業者に売却した。 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。 本件漏えいによって,上告人が迷惑行為を受けているとか,財産的な損害を被ったなど,不快感や不安を超える損害を被ったことについての主張,立証がされていないから,上告人の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 本件個人情報は,上告人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきであるところ(最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照),上記事実関係によれば,本件漏えいによって,上告人は,そのプライバシーを侵害されたといえる。 しかるに,原審は,上記のプライバシーの侵害による上告人の精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく,不快感等を超える損害の発生についての主張,立証がされていないということのみから直ちに上告人の請求を棄却すべきものとしたものである。そうすると,原審の判断には,不法行為における損害に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない。 5 以上によれば,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件漏えいについての被上告人の過失の有無並びに上告人の精神的損害の有無及びその程度等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸 裁判官 菅野博之) 以上:1,710文字
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