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通行対価たる償金の請求が権利の濫用として否認された裁判例紹介1

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平成29年 8月26日(土):初稿
○民法第210条に「公道に至るための他の土地の通行権」として、「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。」とされています。昔は、「囲繞地通行権」を呼ばれていましたが、条文が改正されて「囲繞地」との表現が外されたようです。

○民法第212条で「第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。」と規定され、この「償金」について、どの程度の金額を請求できるかとの質問を受けています。

○この「償金」とは、他人の土地を通行することの対価で、賃料相当額が原則です。独占的に使用しているか、共同使用か等で相当額が異なると思われ、且つ、民法第213条で「分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。」と規定され、この規定に該当するかどうかの検討も必要です。

○関連判例を探していますが、ピッタリあう判例はなく、参考判例として、分譲住宅地の共通の通路として附近住民らにより利用されている私設の道路の一部土地の共有者らから、住民の一部の者らに対する通行の対価たる償金の請求が、権利の濫用として許されないとした昭和61年10月29日仙台高裁判決(判タ625号174頁、判時1214号75頁)全文を2回に分けて紹介します。

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主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事   実
一 控訴代理人は、当審において、後記の限度に請求を減縮し、「原判決を取り消す。被控訴人らは各自、控訴人らのそれぞれに対し、金52万3714円及びこれに対する昭和54年5月12日から支払ずみまで年5分の割合による金員並びに昭和54年1月1日から、被控訴人らが原判決添付第一目録記載の土地(甲地)の通行を廃止するまで、毎年12月末日限り、年額金14万2856円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

二 当事者双方の主張及び証拠の関係は、次項以下のとおり、当審における補足主張を追加し、当審における証拠関係が当審記録中の証拠目録のとおりであるほかは、原判決の事実摘示(ただし、当審における請求の減縮に伴い、請求の原因5中、「よって」以下を「よって、控訴人らは、民法212条に基づく償金として、被控訴人ら各自に対し、右損害金相当の通行料183万3000円を各自の共有持分七分の二に按分した金額である52万3714円及びこれに対する訴訟送達の翌日以後の日である昭和54年5月12日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金及び昭和54年1月1日から、被控訴人ら各自が甲地の通行を廃止するまで、毎年12月末日限り、損害金相当の通行料年額50万円を前記共有持分に按分した年額金14万2856円の割合による金員の支払を求める。」に、本文中及び添附図面中の「別紙図面」をいずれも「この判決添附の別紙図面(一)」に、原判決四枚目裏10行目の「道路のうち別紙図面4、9を」を、「道路を連絡する道路として別紙図面(一)の4と9を」に、同九枚目表四行目の「きよ乃」を「キヨノ」に、それぞれ改め、同表六行目の「乙第22号証、」の次に「第27号証、」を加える。)のとおりであるから、ここに、これを引用する。

三 控訴人らの補足主張
1 控訴人らが共有持分を有する甲土地は別紙図面(一)(原判決添附)の1から8に至る部分の全部及び8から9に至る部分のうち東側の一部であり、それはこの判決添附の別紙図面(二)のいろはにほへとちりぬるをわかよたれそつねならんうえのおくやいの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分(以下、土地の範囲はその区画線上の地点の符号を列記し、例えば、いろくやい線内の部分の如く、また、区画線分は、その線分上の地点を列記し、例えば、いろは線の如く表示する。)であり、そのうち、仙台市《番地略》(以下、土地の表示は単に地番のみで表示する。)は別紙図面(二)のいないしよ、そないしやい線内の部分、五番44土地は同図のよたれそよ線内の部分である。

2 別紙図面(二)中の甲土地に接する部分のうち、いABCにはろい線内の部分は五番43に、同CDりちとへほにC線内の部分は五番42に、同DEぬりD線内の部分は五番41に、同EFをるぬE線内の部分は五番40に、同FGHIわをF線内の部分は五番39に、同GGかわIHG線内の部分は五番38に、同それJKねつそ線内の部分は五番45に、同ねKLMらなね線内の部分は五番46に、同らMNえうんら線内の部分は五番47に、各該当する。

3 訴外会社(鈴勝木材株式会社、商号変更後の株式会社スズケン)が甲土地を道路として開設した目的は、甲土地を含むA土地(旧五番土地のうち分筆後の五番一及び38ないし47に該当する部分,その余の部分はB土地)の一部を宅地に造成して分譲するためであって、従前から居住する住民の通行の利便に供するためではないのであり、かりに、訴外会社が被控訴人ら主張の如く、従前存したという旧道路に代る新道路をつけ換え、甲土地のうち右新道路部分を無償で通行することを、被控訴人らを含む附近住民に約束し、或は訴外会社が右の経緯のもとに控訴人らを含む本件共有者に甲土地を贈与したものとしても、その故に控訴人らがその約束に拘束されるいわれはないし、また、右の事情は控訴人らが無償通行を認めたり、受忍したりすべき根拠とはなりえない。

4 甲土地からその西側に通ずる西側道路部分の地形と幅員の関係から、別紙図面(一)の1点の東側に所在する公道から甲土地内に進入した大型車両が同図の14点附近まで進み、そこに被控訴人乙山が設置した車止の所で方向転換するほかはなく、また控訴人らからの下水が一部被控訴人らの所有地内を通過して流れているとしても、甲土地内にも従前から附近住民の一部のための上水道管、ガス管等が埋設されていることを勘案すれば、右の事実によっては、控訴人らが被控訴人らの甲土地の無償通行を受忍すべき根拠はない。

5 控訴人らは、昭和46年から昭和50年まで、甲土地の固定資産税6万7500円を納付し、昭和57年8月31日には甲土地を測量して境界線を復元し、昭和46年から昭和59年にかけて砂利等を購入して甲土地の補修を継続し、控訴人太郎自からそのための労務を提供する等して甲土地の維持管理を続けて今日に至っており、これに要した費用は百数十万円に達する。甲土地の管理に要した費用と将来の管理に要する費用は、囲繞地所有者が受ける損害又は損失であり、「囲繞地の所有者に他人の通行を受忍させ、土地利用の事実上の制約を加える見返りとして、これによって囲繞地所有者が蒙る損害又は損失を通行権者に賠償、負担させ、両者間の公平を図ることを意図」(原判決20枚目表三行目から八行目まで、参照)する民法212条の償金の法意に合致するものであり、被控訴人らが負担すべきものである。

6 次に、権利濫用の法理は、その行使が社会生活上、とうてい許容しえないような不当の結果を惹起するとか、又は他人に損害を加える目的のみでなされるなど、公序良俗に反し、道義上許すべからざるものと認められるに至って始めて適用されるべきものである(最高裁判所昭和31年12月20日判決、民集10巻12号1581頁)。
 本件の償金請求は、被控訴人らに対して、みだりに損害を加える目的でなされたものではなく、この請求により、被控訴人らの社会生活に不当な結果が惹起されるものでもないから、本訴請求が権利の濫用になるいわれはない。

四 被控訴人らの補足主張
1 控訴人らの補足主張に対する認否

 控訴人らの補足主張3ないし5はいずれも争う。
 同6の固定資産税の納付の点は不知、甲土地の測量については、控訴人太郎が甲土地に接する五番42、5番43の土地を地下鉄工事用地として賃貸するに当って、その土地の範囲を明らかにするために、その土地に接する五番一の一部の土地を測量した費用であり、被控訴人らが負担すべきものではない。控訴人太郎が甲土地に砂利を入れたことはなく(被控訴人乙山、A土地、B土地の居住者により組織した水道組合及び訴外白鳥宣夫がそれぞれ砂利を購入して入れたことはある。)、また、控訴人太郎が道路の補修に労力を提供したことがかりにあったとしても、被控訴人らもその補修に労力を提供したのであり、補修維持してきた道路は別紙図面(一)の1ないし8のみでなく8ないし14も含めたすべてである。
 控訴人太郎が甲土地の補修費として百数十万円を支出したとの点は否認する。

2 被控訴人らの主張
(一) 訴外虎岩良雄(のちには控訴人太郎)はA土地のうち分筆後の五番38、39に当る部分の附近に家屋を建築し、この土地から公道に通じるための専用道路を設けていたが、この専用道路も直接公道に接続していたものではない。そのため、尾根道の一部である別紙図面(一)の12間を公道と専用道路とを連絡する通路として使用していた。すなわち、A土地中、分筆後の五番43に当る部分の東端は公道に接していたが、右土地と公道との間は当時崖状の急斜面で高さ五メートル位の段差があった。右土地はのちに、表土を削り取られたが、現在でも右土地と公道とは約3メートルの段差があるのであり、公道に至るため通行地役権を設定する必要があったものである。

(二) 甲土地を通路として利用している者は、被控訴人ら五名のみではなく、附近に宅地を所有し、居住している別表記載の者ら全部であるから、かりに、償金支払の義務があっても、分割債務となるべきものである。

(三) 甲土地とそれに接続する道路(西側道路等)及び周囲の土地の位置関係は、別紙図面(三)のとおりである。
 別紙図面(二)のいや線より南側は公道に接しているが、別紙図面(一)の14の西方は行止りになっている。

五 控訴人らの認否及び反論
1 認否

 被控訴人ら主張の2(三)中、別紙図面(二)のいや線より南側が公道に接していること、別紙図面(一)の14の西が行止りになっていることは認める。甲土地の利用者については後記のとおりであり、その余の主張事実は争う。
 被控訴人らが甲土地の利用者として主張する者のうち、小野寺圀夫(別紙の一枚目)、高木俊雄(同二枚目)及び同三枚目記載の者八名は甲土地を利用していない。
 同三枚目の五番二土地所有者五名は五番二土地の西方を通って公道に通ずる道路を専ら利用している。
 同一枚目の村岡教寿、相沢正雄はいずれも他の通路をも利用している。
 控訴人らと訴外青砥富夫、内海敏、佐藤貞門、島津義典、高橋久司は甲土地のみを利用し、五番25と西方に通じる通路は利用していない。

2 反論
 被控訴人らの外にも通行者があるとしても、これらの者は控訴人らに対し、償金支払につき不真正連帯債務を負担すべきものである。
     
以上:4,690文字

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