平成27年 7月17日(金):初稿 |
○エレベーターの保守管理業者が、紛争を抱えて困惑する原告に対して,自己が,法的紛争の解決能力において,あたかも弁護士以上の能力を有しているかのように振る舞って本件顧問契約を締結させ,同契約に基づき,顧問料や個別の相談料・文書作成料等として,弁護士報酬にも匹敵する高額の金員を支払わせていたことが、弁護士法72条に違反し、民法90条により無効として、支払った金員全額の返還を認めた平成27年1月19日東京地裁判決(判時2257号65頁)全文を2回に分けて紹介します。 ○顧問料を年額31万5000円と定めて、更に2時間を超える面談は1時間当たり5000円、毎月2回目以降の面談相談は1回に付き1万5000円などと顧問契約対価を詳細に定めています。当事務所も10数件の顧問契約を締結していますが、これほどきめ細かな契約条件を定めておらず、この保守管理業者の顧問契約に比べたらまるで大雑把です(^^;)。 ○顧問契約を誘うPR文書には、「殆ど全ての弁護士は,法律解釈論の素人の為『証拠との法律解釈の紛争』は,示談以外では引き受けません」なんて記載し、あたかも自分は「殆ど全ての弁護士」以上の力量があるごとくうたっています。大変な自信の持主で、謙虚で控えめで何より慎み深いと自称する私なんぞは、その自信家ぶりがただただ羨ましい限りです(^^;)。 ********************************************* 主 文 1 被告は,原告に対し,482万5875円及びこれに対する平成26年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 主文と同旨 第2 事案の概要 本件は,亡a研究所ことY1(以下「亡Y1」という。)との間で顧問契約を締結するなどして顧問料等を支払っていた原告が,亡Y1による文書作成等の行為が弁護士法72条の禁止する法律事務に該当し,顧問契約等が公序良俗に反して全て無効となるため,支払済みの顧問料等が不当利得になるとして,亡Y1(同人の妻であり訴訟承継人である被告)に対し,482万5875円の返還及びこれに対する訴状送達の日(平成26年2月18日)の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実・掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告は,エレベーターの管理・点検等を業とする株式会社であり,エレベーター保守事業協同組合に所属している。 イ 亡Y1は,保険代理業を営み,20年以上前からエレベーター保守事業協同組合の組合員に対して,機械保険,責任賠償保険などの保険契約の斡旋を行っていた者である。なお,亡Y1は弁護士ではない。 (2) 顧問契約 原告は,平成21年12月9日付けで,亡Y1との間で,次の内容の顧問契約(以下「本件顧問契約」という。)を締結した(甲2)。 ア 顧問としての依頼事項 原告の経営活性化全般への指導・助言並びにこれらに関連する対外折衝を含む全般。 イ 契約期間 平成21年12月10日から平成22年12月10日まで ウ 顧問料 顧問報酬として年間31万5000円 ただし,2時間を超える面談は,5000円/時間 月2回目以降の面談相談は,1万5000円/回 エ 顧問としての対外折衝 原告代表者不同席での亡Y1単独での交渉は行わない。 対外折衝料 ① 電話による対外折衝 1万円以上 ② 相手方面談折衝 5万円/回 ただし,面談折衝の相手方が弁護士・司法書士・行政書士の場合は,7万5000円~10万円 原告所在地以外への対外折衝には,旅費・交通費(新幹線グリーン車相当)・日当(3万円)を支払う。 オ 文書作成料 内容証明その他の文書作成は,1万5000円~5万円/通 カ 顧問料付加金 亡Y1同席での対外折衝後に,原告が具体的な金員支払・支払免責等(示談成立の場合も含む。)の利益を受けた場合,当該利益の15%~20%(税別)を顧問料付加金として,折衝後,1か月以内に支払う。 キ 顧問料その他の報酬支払時期 全額前払とする。 支払後の事情により変更がある場合は,追加分の支払もする。 (3) 原告の亡Y1に対する支払 原告は,亡Y1に対し,別紙「a研究所・Y1氏支払一覧」のとおり,本件顧問契約に基づく顧問料等を支払った(甲12ないし24,26,27〔枝番号も含む。〕)。 (4) 亡Y1の死亡 亡Y1は,本訴訟係属中の平成26年7月17日に死亡し,訴訟手続は同人の妻である被告が承継した。 2 争点及び当事者の主張 本件の争点は,本件顧問契約に基づく亡Y1の行為が,弁護士法72条に該当するかどうかである。なお,被告は,法律文書作成料として受領した金員についての返還義務は認めている。 (原告の主張) (1) 平成21年12月ころ,原告とその顧客であったb株式会社(以下「b社」という。)との間で,エレベーター保守管理契約の履行に関して紛争(以下「別件紛争」という。)が生じていた。原告は,そのころ,亡Y1から,「エレベーター保守事業協同組合の組合員である青森県所在のc株式会社が,その顧客であったd株式会社(現d1株式会社)とエレベーター保守管理契約に関してトラブルとなったが,自分がc社の顧問として介入したことで当該トラブルが解決した。」,「b社とのトラブルも解決してあげる。」などと言われたことから,被告との間で本件顧問契約を締結し,別件紛争について相談してb社との交渉を依頼することとした。 (2) 原告は,本件顧問契約締結後,平成21年12月から平成22年1月にかけて,亡Y1の指示に基づいて,b社との話し合いを行った。 当初,b社は,原告のエレベーター保守点検の履行が杜撰であることを問題にしていたが,平成22年1月下旬ころから,原告がb社との契約に基づいて過去に取替工事をした4つのエレベーターの制御盤について,b社としては大手メーカー製の部品交換とのみ認識し,原告が勝手に自社製の制御盤に取替えたものであると主張し,大手メーカー製の制御盤に改めて取り替える費用を原告も一部負担するよう求めるようになった。 そのため,原告は,亡Y1の指示に基づいて,b社に対し,亡Y1作成の文書を内容証明郵便で送付するなどしたが,これに対してb社から原告の法的責任を追及するとの内容の通知が届くなど,かえって紛争がこじれる結果となった。 (3) 原告は,平成22年3月,亡Y1の助言に従い,司法書士に依頼して,b社に対し,エレベーターの保守管理代金の支払を求める支払督促を申し立てた。 その後,同年4月7日にb社の異議により東京簡易裁判所の訴訟へと移行し,さらに東京地方裁判所への移送決定を経て,同年11月末ころ,原告代理人らが受任し,平成25年1月,b社との間で裁判上の和解が成立し,別件紛争は解決した。 (4) 亡Y1は,本件顧問契約の締結後,平成21年12月から平成22年10月にかけて,別件紛争に関して,原告から相談を受け,b社に送付する書類を作成し,支払督促の申立てや簡易裁判所に対する対応について指導・助言・書類の作成などを行うほか,被害届や告訴状の作成などの行為(以下,まとめて「本件各受任行為」という。)を行った。 (5) 原告は,亡Y1に対し,本件顧問契約に基づき,顧問料や本件各受任行為の対価(以下,まとめて「本件顧問料等」という。)を,別紙「a研究所・Y1氏支払一覧」のとおり支払った。その合計額は,482万5875円である。 (6) 本件顧問契約は,その内容として,弁護士でない亡Y1が,法定の除外事由が存在しないにもかかわらず,報酬を得る目的で,一般の法律事件である別件紛争に関して,原告とb社との交渉や書類作成等の法律事務を取り扱い,その対価を得るものであり,亡Y1がこれらの行為を業として行っていたことは明らかである。 したがって,本件顧問契約の締結とそれに基づく本件各受任行為は,弁護士法72条に違反する。そして,同条に違反する行為は,公の秩序(民法90条)に反するものとして無効であるから,本件顧問料等の支払は,全て法律上の原因のないものである。 (7) 亡Y1は,本件顧問契約の締結及び本件各受任行為のいずれの時点においても,その行為が弁護士法72条に違反することを知っていた。 (8) よって,原告は,亡Y1(被告)に対し,不当利得返還請求権に基づき,482万5875円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張) (1) 亡Y1は,エレベーター保守事業協同組合の会合を通じて原告代表者と懇意になり,相談を受けたり,文書や手紙などを書いてほしいなどという要望を受けるようになった。 そのうち,原告からの求めが多くなり,亡Y1としても自分の仕事の片手間にできる範囲を超えるようになったことから,原告にその旨告げたところ,原告から,報酬を支払うから相談に乗ってほしいと要望され,顧問の肩書のある名刺も渡され,原告の社内の社長のそばに机も用意されるという状況になった。 (2) 本件顧問契約締結後も,原告からの相談内容は,健康問題・経営問題・家族間,社員との問題など多岐にわたり,注文書や挨拶文の作成など,事務員としての仕事も多くあった。したがって,顧問というのは名ばかりで,事務員兼小間使いといった扱いであった。 なお,亡Y1は,原告に対し,かねがね,法律上の問題になったら自分では取り扱えないので,弁護士なり司法書士なり,しかるべき立場の人を紹介すると伝えていた。 (3) このように,亡Y1は,原告の求めに応じて原告の雑務を手伝ったに過ぎず,そのための手数料・報酬を授受するための手段として本件顧問契約を締結したとしても,その内容は法律事務を行うためのものではないから,弁護士法72条に抵触するものではない。 (4) したがって,本件顧問契約や本件各受任行為のうち,法律文書作成に関するものは無効として返還義務があるとしても,それ以外の事務に関する報酬については返還義務はない。 以上:4,211文字
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