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東北大学法学部小嶋和司教授講義ノート紹介6-昭和49年5月25日

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平成27年 1月21日(水):初稿
○日本人2人がイスラム国に捕らえられ赤い囚人服を着せられ、72時間以内に2億ドル(236億円)支払わなければ殺害すると予告する生々しい映像が飛び込み、多くの日本人はショックを受けました。英米の考え方は、テロに屈しないため身代金は絶対に支払わないのが原則とのことです。しかし、日本では、昭和52年9月に発生した日本赤軍によるダッカ人質事件で、福田赳夫内閣総理大臣は、「一人の生命は地球より重い」と述べて身代金600万ドル(約16億円)を支払い、且つ、超法規的措置として獄中メンバーなどの引き渡しをした実績があります。

○ウィキペディア解説によると、この事件における日本の対応は、一部諸外国から「(日本から諸外国への電化製品や自動車などの輸出が急増していたことを受けて)日本はテロまで輸出するのか」などと非難を受けたといわれています。国際法は全く不勉強ですが、このような場合、絶対に身代金は支払わないと国際協定(条約)があり、日本がそれに加盟していたとしたら、国内法規・事情を理由にこの条約に違反することができるかとふと考えました。

○41年前に取った小嶋和司教授憲法講義ノートによると「条約を結んでおいて、憲法に違反するといって条約を不履行することはできない。」なんて記述がありました。国内最高法規の憲法よりも条約が優先するとすれば国内の法律・事情で条約での約束を破ることは出来なくなり、身代金要求のテロも少なくなるなんてのは、全く甘い考えでしょう。人質になった方については、自ら危険な地域に行ったのだから、自己責任だとの厳しい考え方もあります。しかし、自分の身内・友人が人質になったらそう割り切れません。支払わないと明言せず粘り強い交渉で解放して貰いたいものです。

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東北大学法学部 小嶋和司教授講義ノート
1974/5/25


「確立された国際法規」…あまり問題にならない。
国際社会における独善主義をとらない限り「確立された国際法規」は国権に対する優越的な拘束と考える。憲法前文は独善主義をとらないと宣言。憲法と抵触することがあっても憲法に優位する法的効果をもつ。-このことは政府説明で繰り返し述べられている。
「日本国が締結した条約」…

問題①条約は国際関係において権利義務を発生-これを履行。
 憲法に矛盾する条約についても履行の義務が必要か。対外的関係においては憲法に矛盾する条約も要求されると考えるべき。
「確立された法規」がこの点について規定
 条約に関するウィーン条約 1969年

 条約の国内法上の効力(清宮442頁以下)
「国際法-条約-と国内法との関係」
 二元論-国際法と国内法は次元を違にする別個の法体系であり、両者は独立に通用し互いに影響を及ばさない。
 一元論-国際法と国内法との関係を一元的に考え、両者は同一の法体系に属し、互いに影響しあい関係をもちながら通用する。
<根拠>
 日本国憲法①§73-3条約には国会の承認を必要とする、②§7天皇の公布、③§98Ⅱ条約及び確立された国際法規の遵守を規定⇒一元論(結論)的な見地のもとに条約の国内法的効力を認めていることを示す。
・政府見解によれば、条約が公布されたときはその内容において、これと矛盾する既存の法律の規定はその効力を失う。

§27 条約の当事国は条約の不履行の理由として国内法規を援用しえない。
 条約を結んでおいて、憲法に違反するといって条約を不履行することはできない。
 締結された条約は国内法規に違反するから同意そのものが無効であるという論法が主張されるか。
§46 国は条約によって拘束を受けることへの同意が条約締結権に関する国内法規定に違反して表明されたという事実をその同意を無効化する根拠として採用できない。但し、その違反が明白で基本的重要性をもつ場合はこの限りではない。
「違反か明白である」とは通常の慣行に従い誠実に行動する何国にも客観的に明らかであるような場合をいう。
            ↑
これらの規定は従来「確立された国際法規」を明白にするために設けられたものであり、憲法にも優越する。

問題② 条約は本来は対外的関係において権利義務を発生するが、その内容が国内施策を対象とし、その施策を立法により行うという約束でなく条約文自身が国内施策の内容を含む場合-self-executing treaty-は条約という形式のままで国内法的効力を有するか。
この問題については各国が主権的に決定すべきもの。
 日本では条約のままで国内法的効力を有する立場(一元論的立場)で憲法を運営している。
(理由)・便宜上の考慮
   ・前世紀から英国や北欧を除いて大体この傾向
   ・日本で明治憲法時代-公布された条約は国内法的効力を持つという対場で運営
 現憲法 §7-1 条約の公布も含む、§73-3国会の承認
    §98Ⅱが最高法規の章にあるので遵守の義務は対外的関係のみでなく対内的関係においてもあると考えられる。

問題③ 条約の国内法的効力を有するとするならばどの段階の効力をもつか。
   法律上よりも上位…国内法秩序、法律で規定
政府見解-制憲会議では条約優位説

「憲法に抵触した条約と憲法との優先適用の問題」
憲法が最高法規というのは国家が主権的に定めることを前提として、その事項についてのみに限られる。従って日本国が主権的に定めえない事項については憲法は最高ではありえない。ex.降伏文書-明治憲法に明白に抵触するが憲法に優越。
 国が主権的に定めうる事項について憲法は概念的に当然最高でなければならないということもあり得ない。憲法典自身が条約の方が憲法より優先するということを決めることもできる。1954年 オランダ憲法

日本国憲法
・条約と憲法との関係についての明文の規定はない。
 従来の学説の対立
 条約に区別をつけないで、条約一般をとり上げ、①条約優位説と②憲法優位説が成立-6つの論点で対立

       ①条約は国際社会の法として国の全ての力を拘束する。国内の力にすぎない憲法制定権力も例外でない。
第一(国の地位)
       ②条約は主権国家の意思に基づく対外法であり、それ自身国の主権性や憲法を前提として成立するものである。

          ①条約締結は国内法をこえる次元での法総説行為であり、国内法がこれに制約を加えることはできない。
第二(条約締結の性質)
          ②条約締結は国家機関が行う限り憲法の拘束を受ける。

第三(実際上の問題)①国際的効力は憲法に抵触しても承認せざるを得ない。国際的効力を承認しながら国内的効力を否認するのは実際上不都合
         ②…

         ②憲法改正手続きは条約締結手続きよりも慎重さが要求されている。これじゃ憲法優位説を前提としていることを示す。
第四(手続の慎重性)
         ①条約締結はいちがいに憲法改正手続きより簡単とはいえない。国内手続きだけみるべきでなく、相手国の手続きも必要。従って条約締結手          続を総合的にみると憲法改正手続より慎重又手続が慎重かどうかということは形式的効力の上下とは関係がない。国内手続だけみると法律          議決の手続は条約締結手続より慎重であるのに効力は条約の方が優っている。

     ①憲法§98Ⅰには条約は含まず、条約については§98Ⅱに別の取扱をしている。
第五(§98)
     ②条約は§98Ⅰにいう法律の中に含まれる。

     ①憲法§81にも条約は含まない。条約は憲法に適合するか否かと問わず有効であることを示している。
第六(§81)
     ②法律の中に条約が含まれる。

従来の憲法優位説、条約優位説の「優位」の意味が不明確。
「優位」が垂直的な上下関係を意味するとすれば不当。なぜなら憲法と条約は成立の根拠を異にして、一方が他方を否認するような力はない。
 憲法と条約は各々他方の国内法的効力を停止するにすぎない。停止がやめば、停止された他方の効力は復活する。
「優位」とは適用における優先の問題である。§98の規定もこの立場が前提となっている。

両説の第1、第2の論点は国家観、世界観の違いによるもの
 条約優位説-まず国際社会があり国際社会が各国に主権を認めている。
 憲法優位説-まず主権国家が集まって国際社会をつくっていると考える。
双方とも他の論者を納得させる説得力をもたない。

ある種の事柄については憲法の規定は条約の規定に当然に優位しえないものがある。ex.降伏文書への調印
そのためにも全ての条約を一括して考えるとするならば条約優位説の方が円滑に事柄を解決できる。しかし、なお国内法として何を妥当させるかは憲法事項と考えられるので、不便をいとわず、国内法としては憲法を優位させることも不可能ではない。

日本国憲法の解釈の問題
 最近の国際法の発達は確立された国際法規を成文化するという努力がなされている。ex.外交関係に関するウィーン条約-1964年に成文化条約に関するウィーン条約
 成文化-条約という形をとる。
確立された国際法規の中で条約の形をとるものは憲法に優位。さらに一国では決めえない事柄を除いた部分については、不便をいとわず憲法を優位させることを決めることも可能。
 憲法優位を前提とした判例
最判34.12.16大
 米軍は憲法§9にいう戦力にはあたらないとする。明白に違憲無効な条約があるということ述べる部分がある。-違憲優位説

・日本国憲法で新たに認められた人権
  社会権、公務員の選定、罷免権、学問の自由、思想及び良心の自由、教育を受ける権利
・明治憲法時代から認められた人権
  請願権(S30)、信教の自由(S28)、集会及び結社の自由(S29)、居住及び移転の自由(S22)、裁判を受ける権利


第七講 国民の権利及び義務
第一 個人権概説
(一)個人権保障の思想的類型
 憲法典の中には個人権の保障の規定
 憲法の保障する個人権の考え方に政治思想的には二種ある。
 ①自然権の確認とするもの…自然権思想に立つもの
自然権とは-人間には国家から与えられたのでない自然により与えられた権利があると考えられる。明治憲法時代は天賦人権という。
憲法の個人権はこの自然権を確認するものにすぎない。憲法の権利は「人権」と考えられている。
 ②憲法で保障する個人権は憲法制定者が創設的に保障したにすぎない。ex.1814年仏憲法…仏人の権利、明治憲法…国民の権利

 ①-国民が圧政に対して自由の保障を得ようという場合に採られる。日本国憲法は①の立場
 §97、§11、
 自然権思想に立つということが、実定憲法の保障に与える実益はあまり多くない。なぜなら②の立場でも①より保障の範囲が狭いとは限らないし、反対に①では②より保障範囲が広いとも限らない。
 但し、法論理想的な違いがある。
 自由解釈について
(ⅰ)freedom in the state…国家の中においてのみ自由が保障されることを強調(全体主義国にみる立場)
(ⅱ)freedom from the state…自由とは国家が干渉しないということ
 自然権思想-国家法以前に自由権があると考えるのであり(ⅰ)の観念の成立の可能性は乏しくなる。
実定法自身が人権と人権でない国民の権利を区別することができる。
 1789年 仏人権宣言…Declaration des droits de l'homme et du citoyen.人権と市民の権利宣言
 日本国憲法 §17 国家の存在を前提とした国家による保障-人権ではない
       人権とは国家の存在を前提としない権利
 このことを述べるのは宮沢博士のみ
 §12-人権と人権でない権利双方を含む
 §11-人権
 日本の一般的学説はこの二つを区別をしていない。

(二)個人権の種類概観
個人権の規定についてどのような政治思想をとっても、実定憲法上の個人権は全て国家の存在を前提とし国家に対する要望の結晶である。
 国民の国家に対する要望とは国民が国家に対してもつあらゆる関わりあいにおいて成立する。

            国の作為を求める -国務請求権
  国の支配に服する{
{           国の不作為を求める-自由権
  国の支配に参加する          -参政権

この3つの権利について、どこでもどの時代でも同じような保障がなされる訳ではない。3つの権利の具体的な保障は時、場所により異なる。但し、憲法は外国の憲法をモデルにして制定されることが多い。そのために歴史的にみると各国の憲法典には一定の傾向がある。
最古の憲法典-米国憲法-初期
(1)初期から19Cの中頃まで (2)第一次大戦まで (3)第一次大戦後

※アメリカ合衆国憲法改正1条ないし10条(1791)
<人権規定の歴史>
マグナカルタ(1215)→
(英)権利請願(1628)
(英)権利章典(1689)
 ヴァージニア権利宣言(1776)世界最初の人権宣言、抵抗権
 フランス人権宣言(1789)ヨーロッパ最初の人権宣言、近代人権宣言の模範、抵抗権
*ワイマール憲法(1919)社会国家的人権宣言の典型、注、抵抗権なし

<権利章典>
アメリカ独立宣言(1776)-圧制に対する革命の権利。抵抗権認める。
ソビエト連邦憲法(1936)-祖国に対する反逆は最大の犯罪
フランス憲法(1946)-政治的亡命の権利
世界人権宣言(1948)-恐怖と欠乏からの自由
西ドイツ基本法(1949)-良心に反する武器をとる軍務は強制されない。

<憲法>
ヴァージニア憲法(1776)
アメリカ合衆国憲法(1787)-注、人権規定なし、連邦制の権力を弱める虞から
フランス憲法(1791)
ベルギー憲法(1831)-国民主権主義と世襲君主制を調和-自由主義的議会民主制憲法の典型
プロイセン憲法(1850)-君主主義が基本原理、外観的人権宣言
ワイマール憲法(1919)
ヘッセン憲法(1946)-はじめて抵抗権を規定

以上:5,736文字

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