平成26年12月 9日(火):初稿 |
○マンション管理組合が区分所有者に対し、管理規約に基づき未払管理費、弁護士費用等の支払を求めたところ、原審平成25年10月25日東京地裁判決が弁護士費用の請求をが「原告は違約金として弁護士費用を請求することができると規定するものであるが(甲3,4),同弁護士費用は確定金額ではないことからすると,実額ではなく,当該事案につき,その請求等に要する相当額ということになり,これは裁判所によって認定されるべきものとなる。」として102万9565円プラス所定損害金の弁護士費用請求を、50万円プラス所定損害金として請求の半分以下しか認めませんでした。 ○これに一部支払を命じられた区分所有者が控訴し、マンション管理組合が請求を拡張する旨の附帯控訴をし、本件管理規約では、管理組合が未払金員につき「違約金としての弁護士費用」を加算して組合員に請求できると規定しているところ、同規定は合理的であり違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当であるから、違約金としての弁護士費用は管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解されるなどとして、区分所有者の控訴を棄却し、マンション管理組合の附帯控訴に基づいて原判決を変更し、その請求を全部認めた平成26年4月16日東京高裁判決(判時2226号26頁、金商1445号58頁)全文紹介します。 **************************************************** 主 文 1 控訴人の本件控訴を棄却する。 2 (1) 被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文1、2項を次のとおり変更する。 (2) 控訴人は、被控訴人に対し、785万6229円及びうち511万9510円に対する平成26年2月1日から支払済みまで年18%の、うち102万9565円に対する平成25年2月28日から支払済みまで年5%の各割合による金員を支払え。 3 訴訟費用(控訴費用、附帯控訴費用を含む。)は、第1、2審とも控訴人の負担とする。 4 この判決は、第2項(2)に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。 2 上記の部分につき、被控訴人の請求を棄却する。 第2 附帯控訴の趣旨 主文2ないし4項と同旨 第3 事案の概要等 1 事案の概要 (1) 本件は、東京都千代田区〈以下省略〉所在のマンション「Xマンション」(以下「本件建物」という。)の区分所有者全員により構成された管理組合である被控訴人が、本件建物の808号室の区分所有者である控訴人に対し、本件建物の管理規約に基づき、①平成22年9月分から平成25年8月分までの未払管理費等459万5360円、②上記459万5360円に対する各弁済期(原判決別紙「管理費等債権明細計算表」中の各「該当月分」の各「支払期日(管理費等徴収日)」の翌日から平成25年8月12日までの本件管理規約所定の年18%の割合による確定遅延損害金129万6899円、③上記459万5360円に対する平成25年8月13日から支払済みまで上記と同様の割合による遅延損害金、④弁護士費用102万9565円、⑤上記102万9565円に対する訴状送達の日の翌日である平成25年2月28日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 (2) 原審は、上記(1)①ないし③及び④のうち50万円(合計639万2259円)並びに、①の459万5360円に対する平成25年8月13日から支払済みまで年18%の、④のうち50万円に対する平成25年2月28日から支払済みまで年5%の割合による各遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容し、その余を棄却した。 そこで、控訴人が、これを不服として、本件控訴をした。 これに対し、被控訴人が、当審において、さらに、平成25年9月分から平成26年1月分までの未払管理費等及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて附帯控訴をし、①平成22年9月分から平成26年1月分までの未払管理費等511万9510円、②上記511万9510円に対する別紙「管理費等債権明細計算表」中の各「該当月分」の各「支払期日(管理費等徴収日)」の翌日から平成26年1月31日までの年18%の割合による確定遅延損害金170万7154円、③上記511万9510円に対する平成26年2月1日から支払済みまで上記と同様の割合による遅延損害金、④弁護士費用102万9565円、⑤上記102万9565円に対する平成25年2月28日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた。 2 当事者の主張 (1) 次のとおり補正し、後記(2)のとおり当審における当事者の主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 当事者の主張」1、2項に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、略語は、特に断らない限り、原判決の例による。 ア 原判決3頁18行目冒頭から23行目末尾までを次のとおり改める。 「 平成22年9月分から平成26年1月分までの控訴人の管理費等の滞納額は、別紙『管理費等債権明細計算表』のとおりであって、①管理費163万7600円、②修繕積立金66万2500円、③駐車場使用料265万5245円、④CATV使用料1万2600円、⑤インターネット利用料5万4600円、⑥ホームセキュリティ料5万5965円、⑦トランクルーム使用料4万1000円(合計511万9510円)、管理費等の確定遅延損害金額は、170万7154円(平成26年1月31日時点)となる。」 イ 原判決4頁4行目冒頭から9行目末尾までを次のとおり改める。 「 したがって、被控訴人は、控訴人に対し、①未払管理費等511万9510円、②上記511万9510円に対する平成26年1月31日までの本件管理規約所定の年18%の割合による確定遅延損害金170万7154円、③上記511万9510円に対する平成26年2月1日から支払済みまで上記と同様の割合による遅延損害金、④弁護士費用102万9565円、⑤上記102万9565円に対する平成25年2月28日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める。」 (2) 当審における当事者の主張(「違約金としての弁護士費用」について) ア 被控訴人の主張 本件管理規約(甲2、3)36条3項(平成24年8月26日第7回定時総会の特別多数決議(甲4)による改定後のもの、以下、同じ。)は、区分所有者が、管理費及び修繕積立金、専用使用部分の使用料、駐車場等の使用料その他本件管理規約に基づき被控訴人に支払うべき費用を、所定の支払期日までに支払わないときは、被控訴人は、当該区分所有者に対し、年18%(年365日の日割計算)の割合による遅延損害金及び「違約金としての弁護士費用」を加算して請求することができる旨定める(「違約金」とは、債務不履行による損害賠償とは別途請求できる制裁金としての性格を有する。)。その趣旨は、区分所有者に管理費等の滞納がある場合において、被控訴人が弁護士に法的手続を依頼することが必要になったときは、その費用を他の区分所有者に負担させるのではなく、当該区分所有者に負担させることを予め定めておくことにより、迅速かつ公正な問題解決を図るものである。この趣旨からすれば、被控訴人が委任契約に基づき弁護士に対し支払義務を負う一切の費用を当該区分所有者に負担させるものと解するのが相当であって、弁護士費用の額が著しく合理性を欠くなど特段の事情がない限り、当該区分所有者がその全額の支払義務を負うものというべきである。 そして、被控訴人が控訴人に請求する弁護士費用は、東京弁護士会の旧報酬基準(甲6)に準拠した報酬基準に基づいて算出したものであり、控訴人の平成25年1月30日時点での未払管理費等及びこれに対する遅延損害金の合計額473万6937円を経済的利益として、着手金32万6846円、報酬金65万3693円(合計98万0539円)を算出し、これに消費税を加算したものであって(102万9565円)、控訴人がその後も管理費等の滞納を続け、控訴しているため、被控訴人において、さらなる対応を余儀なくされているのであって、上記弁護士費用の額が著しく合理性を欠くものとはいえない。 イ 控訴人の主張 本件管理規約36条3項の「違約金としての弁護士費用」は、抽象的表現であり、「管理組合(被控訴人)が負担した一切の弁護士費用」と規定されていないから、未払管理費等について訴訟が提起された場合には、当該区分所有者において、裁判所が相当と認定した金額を支払う義務を負うことを規定したものというべきである。被控訴人の主張は、違反者に過度の負担を強いるものであって、不合理である。控訴人の未払管理費等が459万5360円であることに照らせば、その弁護士費用は50万円が相当である。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所は、控訴人に対し、785万6229円及びうち511万9510円に対する平成26年2月1日から支払済みまで年18%の、うち102万9565円に対する平成25年2月28日から支払済みまで年5%の各割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の請求は、理由があるものと判断する。 その理由は、次のとおり補正し、後記2のとおり判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」1項ないし4項に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 違約金としての弁護士費用について 被控訴人は、上記第3の2(2)アのとおり主張し、これに対し、控訴人は、同イのとおり反論する。 そこで、判断するに、国土交通省の作成にかかるマンション標準管理規約(甲8)は、管理費等の徴収について、組合員が期日までに納付すべき金額を納付しない場合に、管理組合が、未払金額について、「違約金としての弁護士費用」を加算して、その組合員に請求することができると定めているところ、本件管理規約もこれに依拠するものである。そして、違約金とは、一般に契約を締結する場合において、契約に違反したときに、債務者が一定の金員を債権者に支払う旨を約束し、それにより支払われるものである。債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されるから、管理組合が区分所有者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得る。 しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点からは問題である。そこで、本件管理規約36条3項により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定めているのである。 このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される(その趣旨を一義的に明確にするためには、管理規約の文言も「違約金としての弁護士費用」を「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。)。 これに対して、控訴人は、違反者に過度な負担を強いることになって不合理である旨主張するが、そのような事態は、自らの不払い等に起因するものであり、自ら回避することができるものであることを考えると、格別不合理なものとは解されない。 以上の判断枠組みの下に、本件をみるに、被控訴人は、本件訴訟追行に当たって、訴訟代理人弁護士に対し、102万9565円の支払義務を負うが(甲5)、その額が不合理であるとは解されない。 したがって、控訴人は、被控訴人に対し、本件管理規約36条3項に基づき、「違約金としての弁護士費用」102万9565円の支払義務がある。 3 以上に加え、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、被控訴人に対し、平成22年9月分から平成26年1月分までの管理費等を支払っていないことが明らかであり、別紙「管理費等債権明細計算表」記載のとおり、①未払管理費等511万9510円、②上記511万9510円に対する平成26年1月31日までの確定遅延損害金170万7154円、③上記511万9510円に対する同年2月1日から支払済みまで本件管理規約所定の年18%の割合による遅延損害金、④弁護士費用102万9565円、⑤上記102万9565円に対する平成25年2月28日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払義務がある。 第5 結論 以上によれば、被控訴人の請求は、理由があるから全部認容すべきである。 これと異なり、639万2259円の限度で一部認容し、その余を棄却した原判決は一部失当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴は理由があるからこれを認容すべきである。 よって、原判決主文1、2項を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 加藤新太郎 裁判官 河田泰常 裁判官青野洋士は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 加藤新太郎) 以上:5,512文字
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