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診療不作為・死亡因果関係認容平成11年2月25日最高裁判決全文紹介1

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平成26年 5月26日(月):初稿
○医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の死亡との間の因果関係は、医師が必要な診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度のがい然性が証明されれば肯定され、患者がこの診療行為を受けていたならば生存し得たであろう期間を認定するのが困難であることをもって、直ちには否定されないとした平成11年2月25日最高裁判決(判タ997号159頁、判時1668号60頁)を2回に分けて紹介します。


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主  文
原判決中上告人ら敗訴の部分を破棄する。
前項の部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。 

理  由
 上告代理人○○○○の上告理由第一点について
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 甲野太郎(昭和5年9月14日生)は、昭和58年10月ころ、社会保険小倉記念病院において、アルコール性肝硬変に罹患しているとの診断を受け、同病院の医師の紹介により、同年11月4日、肝臓病を専門とする医師であり牧坂内科消化器科医院を経営する被上告人との間に、右疾患についての診療契約を締結し、継続的に受診するようになった。

2 その当時、太郎には、肝細胞癌の存在は認められなかったが、肝硬変に罹患した患者に肝細胞癌の発生することが多いことは、医学的に広く知られていた。また、肝細胞癌の発生する危険性の高さを判断する上での因子としては、肝硬変に罹患していること、男性であること、年齢が50歳代であること、B型肝炎ウイルス検査の結果が陽性であることの四点が特に重視されていたところ、太郎は、当時53歳の男性であって、肝硬変に罹患しており、医師として肝細胞癌発見のための注意を怠ってはならない高危険群の患者に属していた。

3 右当時、肝細胞癌を早期に発見するための検査方法としては、血液中のアルファ・フェトプロテインの量を測定する検査(AFP検査)と、腹部超音波検査が有効であると認められていた。このうち、AFP検査は、肝細胞癌の大きさと検査による測定値が必ずしも比例せず、特に、細小肝癌の場合には検査による測定値が顕著な上昇を示すことは必ずしも多くないため、定期的に反復継続して検査を行い、その経過を観察することが重要であると認識されていた。このように右検査の有効性には限界があるので、腹部超音波検査を併用することが必要であるとされていたが、同検査も、検査装置使用上の死角や画像描出の鮮明さの限界などの点で完全なものではないため、当時の医療水準においては、その頻度についてはともかくとして、定期的に右各検査を実施し、肝細胞癌の発生が疑われる場合には、早期に確定診断をするため、更にエックス線による身体断面の画像の解析検査(CT検査)その他の検査を行う必要があるものとされていた。

 被上告人は、肝臓病の専門医として以上の事情を認識しており、また、小倉記念病院において太郎にAFP検査や腹部超音波検査等を受けさせることは、それほど困難ではない状況にあった。
 ちなみに、当時、超音波検査の検査装置等により検出することが可能な腫瘍の最小の直径は、1.5センチメートルとされていた。また、腫瘍の体積の倍加速度については、症例ごとに大幅な差があるとされており、最短のものとしてこれを12日とする調査結果もあった。

4 被上告人は、昭和58年11月4日から昭和61年7月19日までの間に、合計771回にわたり、太郎について診療行為を行った。その内容は、問診をし、肝庇護剤を投与するなどの内科的治療を実施するほか、一箇月ないし二箇月に一度の割合で触診等を行うにとどまり、肝細胞癌の発生の有無を知る上で有効とされていた前記各検査については、昭和61年7月5日にAFP検査を実施したのみであった。なお、太郎の肝臓の機能は、肝硬変の患者としては比較的良好に保たれていたところ、同月9日に明らかになった同検査の結果において、その測定値は、正常値が血液一ミリリットル当たり20ナノグラであるのに対して同110ナノグラムであったが、被上告人は、太郎に対し、肝細胞癌についての反応は陰性であった旨告げた。

5 太郎は、昭和61年7月17日夜、腹部膨隆、右季肋部痛等の症状を発し、翌18日朝、被上告人の診察を受けたところ、筋肉痛と診断され、鎮痛剤の注射を受けたが、翌19日、容態が悪化し、被上告人の紹介により、財団法人健和会大手町病院において同病院医師の診察を受けた。その結果、肝臓に発生した腫瘤が破裂して腹腔内出血を起こしていることが明らかとなり、さらに、同月22日、前記急性腹症の原因は肝細胞癌であるとの確定診断がされた。また、同病院における検査の結果、太郎の肝臓には、三つの部位に、それぞれ大きさ約2.6センチメートル×2.5センチメートルないし約7センチメートル×7センチメートルの腫瘤が存在していたほか、他の部分に、大きさ約5センチメートルの境界不明瞭病変及び大きさ不明の転移巣数個が存在し、門脈本幹に大きさ不明の腫瘍塞栓が存在していることが判明した。
 なお、太郎については解剖が実施されなかったことなどもあり、腫瘍等の正確な位置、大きさ等は明らかとなっていない。

6 当時、肝細胞癌に対する根治的治療法の第一選択は患部の外科的切除術であるとされ、他に、門脈から血流が得られない場合以外の場合について肝動脈を塞栓して癌細胞に対する栄養補給を止めこれを死滅させる治療法(TAE療法)や、腫瘍の直径が三センチメートル以下で個
数が三個以下の肝細胞癌について病巣部にエタノールを直接注入して癌細胞を壊死させる治療法(エタノール注入療法)が知られていたが、太郎について肝細胞癌が発見された時点においては、その進行度に照らし、既にいずれの治療法も実施できない状況にあり、太郎は、同月27日、肝細胞癌及び肝不全により死亡した。

二 本件において、太郎の妻である上告人花子及び右両名の間の子であるその余の上告人らは、被上告人は、当時の医療水準に応じ太郎について適切に検査を実施し早期に肝細胞癌を発見してこれに対する治療を施すべき義務を負っていたのに、昭和58年11月4日から昭和61年7月4日までの間に肝細胞癌を発見するための検査を全く行わず、その結果、太郎は肝細胞癌に対する適切な治療を受けることができないで、同月27日に死亡するに至ったのであるから、主位的に不法行為により、予備的に診療契約の債務不履行により、被上告人は太郎の逸失利益及び精神的苦痛について損害賠償債務を負うところ、上告人らは太郎の右請求権を相続したなどとして、上告人花子は4000万円、その余の上告人は各自につき1500万円と、これらについての遅延損害金の支払を求めている。

以上:2,829文字

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