平成26年 3月14日(金):初稿 |
○「訴えの提起を違法とする判断基準を示した最高裁判決解説2」を続けます。 売買対象地の測量ミスを原因として、売主から損害賠償の訴え提起された土地家屋調査士が弁護士を依頼して勝訴しました。しかし、憤懣やるかたない土地家屋調査士は、後に、関係ない自分に訴えを出すこと自体けしからん、違法な行為だとして、売主に対し、逆に200万円支払を求める訴えを出しました。一審静岡地裁は土地家屋調査士の訴えを全て棄却しましたが、二審高裁は一部認め売主に80万円の支払を命じました。 ○そこで納得できない売主が上告して昭和63年1月26日最高裁判決(判タ671号119頁、判時1281号91頁)が、最終的に売主の訴えは適法で土地家屋調査士の訴えを棄却することで決着をつけました。この最高裁判決での、違法な訴えとなる要件は以下の通りです。 ①その訴訟で主張した権利又は法律関係が根拠を欠くこと(※これは当然の前提です) ②この根拠がないことについて知りながら、又は、通常人であれば容易に知り得たのに敢えて訴えを提起したなどの訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限る ○ここでの「(主張に根拠がないことについて)通常人であれば容易に知り得た」かどうかは、実は、大変難しい問題で、法律専門家でも迷う問題ですが、これは例示で、最終的には、「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるとき」となっており、この「著しく相当性を欠く」かどうかの判断はさらに難しくなります。ですから、訴え提起自体を違法だとして確実に勝訴するためには慎重の上にも慎重を期してに判断する必要があります。 ○最高裁は、違法な訴えとなる要件を厳しく限定していますが、その理由として ①法治国家における裁判を受ける権利の最大限の尊重-法治国家の根幹 ②よって訴えを提起することは原則として正当な行為-敗訴しても原則として違法な訴えにはならない ③訴えを提起された側は多大な負担を強いられるので、これが不当な負担を強いられる場合のみ違法 を挙げています。 ○最高裁は、この土地家屋調査士の例については、実際、測量を依頼したのは買主側ですが、売主が自分が依頼したと考える余地もあること、また、買主側では、あくまで土地家屋調査士の測量結果を盾にとって支払を拒否したことから、売主が土地家屋調査士に損害賠償請求権がないと知っていたとは言えず、また、通常人であれば容易に知り得たとも言えないとして、売主の訴えは裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く違法な行為とは評価できないとしています。 ○弁護士としては、不当訴訟を理由とする損害賠償の請求の相談を受けた場合は、この最高裁判例を説明して、慎重の上にも慎重な判断をすべきでしょう。安易に不当訴訟として損害賠償の訴えを提起すると、今度はそれが不当訴訟だとして損害賠償請求される可能性もありますので、この辺を、お客様には丁寧に説明する必要があります。最近、法律事務所が弁護士を訴えるという以下のニュースが入りました。その結果がどうなるか、興味あるところです。 ************************************** 法律事務所が弁護士に損害賠償求め提訴 [ 3/10 16:04 中京テレビ] 東京都の大手法律事務所が○○県の5人の弁護士に対し、損害賠償を求める訴えを起こした。訴えを起こしたのは、東京都の大手法律事務所「A法律事務所」とB代表。この法律事務所とB代表は2009年、「○○消費者信用問題研究会」に所属する○○県の弁護士5人から、過払い請求について書かれた本の内容の一部を無断で引用し、著作権を侵害されたとして提訴された。しかし、去年8月、最高裁は弁護士らの上告を退け、法律事務所側の勝訴が確定した。A法律事務所によると、今回の損害賠償訴訟は、著作権の侵害を争う裁判の際、弁護士らが記者会見を開いたことなどで、法律事務所側があたかも著作権を侵害したと受け取られてしまうニュースが報じられることになった。このため、法律事務所やB代表の社会的信用が傷つけられ、業務の妨害をされたとして、「○○消費者信用問題研究会」の弁護士5人に対し、約1000万円の損害賠償を求めている。提訴された「○○消費者信用問題研究会」のC弁護士は、中京テレビの取材に対し、「訴状を見ていないのでコメントできない」「訴状を見てから判断したい」などと話している。 以上:1,827文字
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