平成26年 3月 8日(土):初稿 |
○「訴えの提起を違法とする判断基準を示した最高裁判決解説1」を続けます。 事案が大変複雑で、できるだけ簡明に説明したつもりですが、それでもおそらく殆どの方が途中で読むのを止めたのではないかと思われますので、さらに要点だけ絞り込んで簡明にします。 ①土地の売主が、買主との間で、甲土地を、取りあえず代金1億0500万円として売買契約を締結し、後日、専門家に依頼して正確な面積を測量して、清算することにしました。 ②そこでこの売買の仲介人が土地家屋調査士に対し、仲介人の指示する方法で測量を依頼し、土地家屋調査士は、甲土地面積1万5191坪とする測量図を作成しました。 ③売主はこの測量結果に疑問を感じて、別の専門家に依頼して測量すると甲土地面積は、土地家屋調査士の測量より720坪多いことが判明しました。 ④そこで売主は買主に対し、720坪多い測量結果を基に買主に清算売買代金500万円を請求しましたが、買主は土地家屋調査士の測量図を盾にとって支払を拒否しました。 ⑤売主は土地家屋調査士の誤った測量が原因で500万円を回収できなくなったとして土地家屋調査士に544万円の損害賠償請求の訴えを出しました。 ⑥土地家屋調査士は、自分は仲介者から依頼を受けたので売主とは関係ないと主張し、売主の請求は棄却され、控訴するも取り下げて終了しました。 ⑦土地家屋調査士は、売主から出された訴えに対処するため弁護士を依頼して、弁護士費用が80万円かかりました。 ⑧土地家屋調査士は、売主に対し、不当訴訟を理由に弁護士費用80万円と慰謝料120万円の合計200万円の支払を求める訴えを提起しました。 ○要するに測量ミスを原因として損害賠償の訴え提起された土地家屋調査士が弁護士を依頼して勝訴した後に、訴えを提起した売主に自分に訴えを出すこと自体けしからん、違法な行為だとして、逆に200万円支払を求める訴えを出したものです。 ○確かに、前記④の段階では、普通は売主は追加代金500万円は買主に支払請求の訴えを出します。売買契約で後日正確な測量結果に基づき代金を精算すると合意しているのは争いがないので、裁判では正確な測量結果を審理すれば解決するからです。おそらく売主は、土地家屋調査士の態度に憤懣を持って、恨みは土地家屋調査士に向かったものと思われます。 ○ところが、土地家屋調査士にしてみれば、甲土地の測量を依頼されたのは仲介人からであり、また、仲介人の指示する方法で測量したまでであり、どうして自分が訴えられなければならないのかと、また、憤懣を強く持ちました。544万円支払請求の訴えを弁護士に依頼して勝訴しましたが、弁護士費用が80万円かかり、さらに弁護士との打ち合わせ等労力もかかります。本来、自分ではなく買主を訴えるべきなのに、自分を訴えるとはけしからん、と言うとの恨みが強くなったのでしょう。 ○そこで土地家屋調査士は、売主に対し、この恨みを晴らすべく、売主の自分に対する訴えは、明らかに何の根拠もなくだしたもので、不当訴訟・濫訴であるとして、弁護士費用80万円に精神的苦痛に対する慰謝料120万円を加えて合計200万円を支払えとの訴えを提起しました。 ○その結果、一審の静岡地裁は土地家屋調査士の公共的性格まで持ち出して「正確な測量を実施し土地家屋調査士の職務を全うすべきであつた」なんて理屈までつけて、土地家屋調査士が売主から訴えを提起されてもやむを得ないとして土地家屋調査士の訴えを棄却しました。 ○ところが、第二審の東京高裁は、本来、売主は買主に訴えを提起すべきであり、土地家屋調査士に対する測量依頼の経緯をシッカリ調べれば土地家屋調査士に請求することはできないことが明らかなのに、いきなり、矛先を売主から土地家屋調査士に向けて訴えを提起するのは違法だと弁護士費用80万円の支払を認めました。 そこで、80万円の支払を命じられた売主は、到底、納得できないとして上告しました。最高裁の判断は別コンテンツで解説します。 以上:1,636文字
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