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マンション一括検針一括徴収制度に関する規約の効力否定判例全文紹介2

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平成25年 8月29日(木):初稿
○「マンション一括検針一括徴収制度に関する規約の効力否定判例全文紹介1」の続きです。

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(3) しかしながら、原審の上記(2)の判断は是認できない。その理由は次のとおりである。
ア 建物の区分所有等に関する法律(以下、単に「法」という。)は、区分所有者、管理者又は管理組合法人は、規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨定めているが(法8条、7条1項)、法3条前段が「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」と定め、かつ法30条1項が「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と定めている趣旨・目的に照らすと、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項に限って規約で定めることができるのであり、それ以外の事項を規約で定めても規約としての効力を有しないというべきである。

 そして、専有部分である各戸の水道料金は、専ら専有部分において消費した水道の料金であり、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響を及ぼすものともいえないのが通常であるから、特段の事情のない限り、上記の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項には該当せず、上記水道料金について、各区分所有者が支払うべき額や支払方法、特定承継人に対する支払義務の承継を区分所有者を構成員とする管理組合の規約をもって定めることはできず、そのようなことを定めた規約は、規約としての効力を有しないものと解すべきである。

イ ところで、記録によれば、上告人は、上記と同旨の主張をし、204号室に係る本件各水道料金について、上告人の被上告人に対する支払義務を定める本件管理規約74条5項の無効を理由として、同規約に基づいて上告人が被上告人に支払った本件各水道料金を不当利得であるとして、その返還を求めているところ、少なくとも、本件各水道料金のうち本件滞納水道料金については、同規約条項が無効である場合には、上告人が戊田らの負担した支払義務を承継することがないのであり、そうすると、上告人は、支払義務のない本件滞納水道料金を被上告人に支払ったことになるのであるから、その金額が名古屋市水道局の定める最低料金であったとしても、その支払に係る本件滞納水道料金相当の損失を被り、被上告人は、これを受領することにより、同額の受益をしたこととなることは明らかである。

 したがって、上告人が被上告人に対して支払った本件滞納水道料金について不当利得返還請求の成否を判断するためには、本件管理規約74条5項の効力の有無(その関係で、前記特段の事情の存否)についての審理判断が不可欠であったというべきである。

 また、記録によれば、上告人は、原審において、管理組合が一括検針一括徴収制度を採用し、各戸に各戸検針各戸徴収制度の基本料金を徴収すると、基本料金以下の使用料しか使わない区分所有者がいる場合には、管理組合は、名古屋市水道局に支払う水道料金よりも多くの金額を各戸から徴収することになり、結果として、実費を超える金額を各戸から徴収することになるのであり、同制度を採用している被上告人についても、同様の事態が生じており、上告人は、被上告人から上記の実費を超える金額を請求されて支払った旨主張し、同制度を採用する他の管理組合について上告人主張のような事態が生じていることを窺わせる証拠(甲16)を提出するところ、本件管理規約74条5項が無効である場合には、被上告人が一括検針一括徴収制度の下で区分所有者のために名古屋市水道局に水道料金を支払うことに関する法律関係のいかんによっては、被上告人が上告人に対して請求できる本件取得後水道料金の額は、同制度を前提として実費等の費用相当額に限定されるものと解する余地があるから、上記法律関係について主張立証を尽くさせ、必要に応じて、上記費用相当額についても審理を尽くす必要があったものである。

ウ ところが、原審は、前記(2)のとおり判示するのみであって、上記イで指摘した諸点について、その審理を尽くしておらず、判断も示していないのであり、これは、法8条、30条1項等の解釈適用を誤り、その結果、理由不備の違法、または判断遺脱、審理不尽として判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反の違法を犯したものというほかない。
 論旨は、上記の趣旨をいうものとして理由がある。

二 本件滞納駐車場料金に係る不当利得返還の主位的請求に関する上告理由(上告理由第一章)について
 所論は、原審の「本件マンションの前所有者である戊田らが賃借していた駐車場は、丙川マンションの共用部分にあたる。そうすると、被上告人は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても駐車場について生じた債権である滞納駐車場料金の支払を請求することができる(法7条、8条)。

 区分所有者が被上告人へ支払う駐車場料金に滞納がある場合、全滞納額を承継人に対しても請求することができる旨の本件管理規約74条5項が法26条1項、法30条3項又は信義則、公序良俗、条理に反し無効であるということはできない。戊田らが駐車場料金の支払を滞らせたとしても、それによって被上告人に直ちに契約を解除する義務が生じるものではない。」旨の認定判断について審理不尽、理由不備、理由齟齬及び理由遺脱があるというのであるが、同認定判断は、原判決が掲げる証拠関係に照らして正当であって、これを是認できる。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

三 強迫を理由とする予備的請求に関する上告理由(上告理由第三章)について
 所論は、原審の「セントラルコミュニティー及び丙山が、滞納駐車場料金及び滞納水道料金の支払を求めたのは、本件管理規約74条5項に基づくものであり、甲田に請求することもこれに従った手続である。特定承継人に対し滞納駐車場料金の支払を求めることは適正であり、滞納水道料金の支払を求めることについても、上記規約の定めが一見して明らかに無効であるということはできない。上告人は、本件取得後水道料金については敷設された水道を利用している。これらの諸事情に照らせば、仮に、丙山が、滞納水道料金の支払を求めた際「だったら水道を止める。」旨述べたとしても、セントラルコミニュティー及び丙山の請求は、いまだ社会通念上の相当性を欠くものということはできない。

 また、これらの経緯について被上告人が知っていたと認めるに足りる証拠もない。」旨の認定判断について、理由遺脱、判断遺脱、経験則ないし採証法則違反、審理不尽があるというのであるが、同認定判断は、原判決が掲げる証拠関係に照らして正当であって、これを是認できる。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用できない。なお、上告人は、事実誤認も主張するが、事実誤認は、適法な上告理由に当たらないから、同主張は失当である。

四 以上によれば、上告人の本件各水道料金の支払に係る不当利得返還の主位的請求を棄却した部分は、破棄を免れない。そして、以上説示したところに従い、さらに審理を尽くさせるため、本件のうち上記の棄却部分を原審に差し戻すこととする。
 その余の本件上告については、理由がないから、これを棄却することとする。
 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長門栄吉 裁判官 内田計一 中丸 隆)



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