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時間外割増賃金と歩合給に関する最高裁判例全文紹介3

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平成24年 2月 8日(水):初稿
○「時間外割増賃金と歩合給に関する最高裁判例全文紹介2」を続けます。
平成24年2月現在、当事務所で取り扱っている案件に関係する判例ですが、未払い賃金や解雇を巡る労使紛争が増えそうな予感があります。それだけ世の中不景気で企業は売上が落ち経費節減が要求されて、賃金カット、人員整理の必要性が生じているからです。

○平成6年6月13日最高裁判決(判時1502号149頁等)の判決要旨は、タクシー運転手に対する賃金が月間水揚高に一定の歩合を乗じて支払われている場合に、時間外及び深夜の労働を行った場合にもその額が増額されることがなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないときは、この歩合給の支給によって労働基準法(平成5年法律第79号による改正前のもの)37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることはできないとされたものです。

○事案概要は以下の通りです。
・Xらは、Yに雇用されるタクシー運転手で、その勤務体制は、隔日勤務で、所定労働時間が午前8時から翌日午前2時まで(このうち2時間が休憩時間)
・その賃金は、月間水揚高×一定歩合率の金額を翌月5日支払う完全歩合制で、その歩合率は、勤務歴によって42~46%
・Xらが労働基準法(以下「労基法」という。)37条の時間外又は深夜の労働を行った場合も、これ以外の賃金は支給されず、この歩合給のうちで通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別出来ず、Xらは、労基法37条の割増賃金の支払及び同法114条の付加金の支払を請求
・Yは、本件歩合給の率は他のタクシー会社の割増賃金を含めての歩合給の率と比較して遜色がなく、本件歩合給には時間外及び深夜の割増賃金に当たる分も含まれているから、割増賃金は既に支払済みであると主張


○第一審平成元年8月10日高知地裁判決は、一定率の歩合給であっても、これに法の要求を満たす金額の割増賃金が含まれていることが明らかであれば労基法37条に違反するものではないが、そのためには、割増賃金に当たる部分と通常時間の賃金に当たる部分とを明確に区別することができ、その割増賃金額が労基法及び同法施行規則の要求する割増率を満たしているかどうかを比較対照できることが必要であり、これができない場合には、歩合給に割増賃金が含まれているとみることはできないとして、Xの請求を全部認容しました。

○第二審平成2年10月30日高松高裁判決は、XらとYの間には、午前2時から午前8時までの時間を労働時間とする労働慣行がないから、この時間帯については、就労の法的根拠がなく、就労しても賃金請求権が発生しないとして、これを除く時間について割増賃金を計算し、請求を一部認容、一部棄却したので、Xらが上告ました。

○上告審平成6年6月13日最高裁判決概要は以下の通りです。
・XらとYの間には、午前2時から午前8時までの時間を労働時間とする労働慣行がないから、この時間帯については、就労の法的根拠がなく、就労しても賃金請求権が発生しないとの高裁認定については、昭和35年7月14日最高裁判例及び行政解釈上、時間外の労務提供であっても使用者は割増賃金支払義務を免れないことは明らかで、またこの労務提供に付いて当事者間にも争いがないことから、弁論主義に反する認定で、かつ、この違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとして、原判決を破棄。

・本件請求期間にXらに支給された歩合給の額は、Xらが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、Xらに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難であり、Yには所定の割増賃金支払義務がある。


○労基法第32条で、労働時間は1日8時間、1週40時間と定められ、労使間にいわゆる三六協定が締結され労基署に届出がこの制限労働時間を超えた時間外労働も可能になりますが、時間外労働には通常賃金の125%割増賃金を支払わなければなりません。この割増賃金と歩合給名下の賃金との関係について、使用者は割増賃金に代替するもので割増賃金は支払済みであると主張し、労働者は歩合給は割増賃金ではないと主張してよく争いになるようです。

○この最高裁判決では、全部が歩合給賃金制度の下で時間外及び深夜割増賃金請求が認められるための基準として、歩合給の額が時間外・深夜労働を行っても増額されないこと、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないことの2つが明らかにされました。逆に言えば、支給された歩合給の額が、時間外及び深夜の労働を行った場合においては増額されるものであること、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することができる場合には、使用者側の弁済(一部または全部)の抗弁が認められる余地のあることになります。
以上:2,110文字

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