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両親が津波に流され父のみ遺体発見、母行方不明の場合の相続

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平成23年 5月26日(木):初稿
○平成23年5月25日、東日本大震災後初めて石巻市役所での震災無料相談を担当してきました。一時、石巻市近辺は大渋滞となっており、仙台から石巻に行くには4,5時間かかると言う噂があり、午前10時からの相談開始前に石巻市役所に到達するには早朝5時起きで行くことも覚悟していました。数日前に渋滞状況を石巻関係者に確認すると相当改善されてきており、2時間程度では行けるとの情報になっており、午前8時7分仙台駅前発午前9時25分到着予定のバスで石巻に向かいました。宮城交通石巻-仙台時刻表によると仙台駅発午前9時7分石巻駅前午前9時55分着もありましたが、これでは午前10時に間に合わないと思ったからです。

○午前8時5分前に仙台駅前青葉通りさくら野前33番石巻行きバスのりばに行くと既に10数人の列が出来ており、ボランティアらしき男女数名も並んでいました。これは結構混むかなと思いましたが、定員6割程度の乗客で定刻出発となり、運転手さんは、途中渋滞で到着時間が相当遅れることがありますので予めご了解お願いしますとのアナウンスでした。仙台東部自動車道経由でしたが、案の定、石巻河南インターに近づくにつれ自動車が混み始め、自動車道を降りて石巻市内に入ると渋滞状態で、午前9時25分到着予定が、40分遅れの午前10時5分石巻駅前到着でした。

○石巻駅前にある旧さくらのデパート内石巻市役所庁舎に入り、2階震災無料相談室に向かいましたが、庁内は人で溢れ騒然とした感じでした。各相談窓口には多くの人が列を作って並んでおり、徳島市等腕章を着けたの他県からの応援職員の姿が多く目につきました。無料法律相談室前の椅子にも多くの方々が所狭しと並んでおり、これは大変だなと言うのが最初の感想でした。並んでいる方々は,法律相談の方々だけでなく、各種行政相談・申請等で訪れている方々で大混雑でした。

○約10分遅れで相談開始すると次から次へと途切れることなく相談者が訪れ、午前・午後各4時間の内に10数件の相談がありました。その中で、殆ど同一内容事案相談が2件続けてありました。表記の高齢の両親が逃げ遅れて、津波に流され父が遺体で発見されるも母が行方不明の場合の相続の仕方です。たまたま2件ともお母さんのみ遺体が発見されていないとのことで、女性の遺体の方が発見されにくいのかもしれません。気仙沼の知人でも夫婦で流され夫の遺体が早く発見された例がありました。

○いずれもお父さんには結構な預貯金があり、残された子供の生活が大変なので、お父さんの預金を早く払い戻ししたいが、どのような手続をすればよいかとの質問です。いずれも相続人としては,成人した子供が数名居ますが、この問題は簡単そうで実は面倒です。戸籍上遺体が発見された父については死亡届が出来ますが、行方不明の母は死亡届が出来ないからです。母は戸籍上は生きたままで父の相続人であり、相続人は全員揃わないと遺産分割協議が出来ず、行方不明のままの母を除いての遺産分割協議が出来ず、遺産分割協議が出来ないと父の預貯金払戻も出来ません。

○「震災による行方不明者死亡保険取扱報道例と法律制度」記載の通り、行方不明者の死亡認定は民法の危難失踪宣告制度利用には大震災から1年の経過が必要で、1年経過後家庭裁判所に申し立てしても決定が出るまで更に相当の期間がかかります。また「津波行方不明者に認定死亡制度適用は困難?」記載の通り、津波行方不明者に戸籍法の認定死亡制度適用の道も、今後、警察或いは海上保安庁の取扱が変わらない限り、現時点ではなさそうです。

○だとするとこの場合の相続は原則に戻り、行方不明者の母について家庭裁判所に不在者財産管理人に選任申立をして選任された不在者財産管理人(その地域の弁護士・司法書士等専門家の選任が多い)が母に代わって遺産分割協議に加わり、家庭裁判所の許可を得て形式上相続人全員で遺産分割協議をしてその結果ようやく父名義預貯金の払い戻しが可能になります。私の経験では、この申立後1ヶ月程度で家裁は不在者財産管理人を選任してくれますので,併行して相続人間での遺産分割協議を重ね選任と同時に家裁に遺産分割協議成立許可申請をして許可を受けることも可能で、2ヶ月程度で目的の預貯金払戻が実現出来る可能性もあります。

○相談終了後、事務所から自動車で迎えに来て貰い、石巻の被災箇所を見て回りました。津波被害の惨状は郷里気仙沼で良く見分していましたので、さほど驚きませんでしたが、その範囲の広さに石巻被害の大きさを実感しました。郷里気仙沼で津波被害の惨状をデジカメに収めてきましたので、流石に石巻の被害までカメラに収める気力はありませんでした。
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